VDT=(Visual display terminal)作業とは、スマホ、PC、タブレットなどのディスプレイを見る作業のこと。VDT作業の増加により、私たちの角膜が危険にさらされているという。
※写真はイメージです(写真=iStock.com/maroke)

女性のドライアイ患者が増加傾向。スマホの影響も

オフィスでは1日中PCに向かい、電車の中でもスマホでニュースをチェック、家では寝る直前までSNSを楽しむ……。スマホの普及によって私たちの目にかかる負担は格段に増えている。「目が乾く」「ショボショボする」「目の奥がずんと重い」。そんな症状があっても、「たかがドライアイ」と侮ってしまいがちだ。これが思わぬ目のトラブルを引き起こすという。

眼科医101名を対象にした調査によると、眼科医の6割以上が「10年前に比べて、角膜上皮障害を伴うドライアイが増加している」と回答した。さらに、「増加している」と答えたうちの約7割が、「角膜上皮障害を伴うドライアイ患者増加とスマホの普及は関係している」と指摘している。(図表1)

※ライオン「スマホ時代の角膜上皮障害実態調査」

「角膜上皮障害を伴うドライアイの患者さんは、10年前に比べて増えているという印象はありますか」

角膜とはいわゆる黒目の部分で、眼球に光を取り込む役割がある。5層構造になっており、もっとも外側にあるのが角膜上皮と呼ばれる部分だ。生きた細胞がむき出しの状態になっているが、まばたきで涙を行き渡らせることで健康な状態が保たれている。

ところがVDT作業に集中すると、まばたきの回数が通常時の1/4に減少する。その結果、涙が蒸発しやすくなり、長時間の作業が続くと涙の分泌自体も減る。角膜が極度に乾燥しているため、目をこするだけでも傷つけてしまうことがあるという。

「角膜上皮は本来、10日~2週間で細胞が入れ替わるほど高い自己修復機能を持っていますが、現代の生活環境はVDT作業やPM2.5、花粉、黄砂など角膜を傷つけるリスク要因が多いため、修復が追いつかない状態。角膜上皮障害の症状が軽くても、眼球の内部に異常があることも多いため、注意が必要です」(東邦大学医療センター大森病院 眼科 教授 堀裕一先生)

特に女性はドライアイになりやすいという。前述の調査では、すべての年代において女性の「角膜上皮障害を伴うドライアイ患者」が、男性よりも増加している印象がある、と眼科医が回答している。(図表2)


角膜上皮障害を伴うドライアイに関してお伺いします。具体的にどの年代で増えている印象がありますか。(角膜上皮障害を伴うドライアイが増えていると回答した眼科専門医64名が対象)

もともと女性は加齢に伴う女性ホルモンの減少などが原因でドライアイになりやすい傾向があるが、今回の調査では20代女性の患者の増加が顕著だった。その原因として堀先生は、「カラーコンタクトや目に油分を供給するマイボーム腺を埋めるようなアイメイク、まつ毛の生え際に負担がかかりやすいまつ毛エクステンションの普及などが考えられる」と話す。

あなたの角膜は大丈夫? チェックしてみよう

次のチェックリストで角膜の状態を✓してみよう。

生活習慣
□PC画面を毎日連続1時間以上見ている

□通勤途中スマホを見ていることが多い
□スマホで動画を見ることが多い
□平均睡眠時間は5時間以下である
□コンタクトレンズを使用している

症状
□寝ても疲れ目が解消しない

□朝から目がかすむ
□光をまぶしく感じやすくなった
□常に目が乾いてショボショボする
□目が重たい感じがする
□目が痛くなることがある
□目を10秒以上開けていられない

当てはまる項目が0~3個:今のところ大丈夫

当てはまる項目が4~7個:要注意!

当てはまる項目が8個以上:危険!!!

監修:東邦大学医療センター大森病院 眼科 教授 堀裕一先生

シワだけじゃない。レチノールは角膜修復にも有効

涙は、油層・水層・ムチン層の3層構造になっており、角膜に接しているのが目に水分を留めるムチン層、それを覆うのが水層、一番外側が涙の蒸発を防ぐ油層となっている。角膜修復の治療では、涙の成分を補い、角膜上皮の傷の治癒を促進させる点眼薬を使った治療が標準的だ。

角膜の修復を促すヒアルロン酸をつくり、涙をとどめるムチンをつくるビタミンAを配合。防腐剤・清涼化剤無添加。スマイルTheメディカルA 希望小売価格1400円(第3類医薬品)/ライオン

「眼科での治療薬は保湿効果のあるヒアルロン酸点眼液のほか、ムチンなどの涙液成分不足にはジクアホソルナトリウム点眼液、レバミピド点眼薬を処方します。眼科に行く前のケアとしては、市販の目薬も有効です」(順天堂大学医学部附属静岡病院 眼科 先任准教授 土至田宏先生)

角膜上皮細胞の成長と修復を促す成分として近年注目されているのがビタミンA(レチノール)だ。シワを改善する成分として皮膚科分野ではおなじみの成分だが、傷ついた角膜上皮細胞を修復する効果があることで注目されている。第3類医薬品でもビタミンA配合の点眼薬があるので活用してもいいだろう。角膜上皮は目を閉じているときに修復するので、寝る前に差すといい。

目に異変を感じたら早めに受診することが大切だが、角膜上皮障害予備軍ともいえる、ドライアイにならないよう日頃から目をいたわることも習慣づけたい。

角膜ケアのためにできるセルフケア

VDT作業を極力減らす

仕事の休憩時間にはスマホを触らずに目を休める。PC画面と目の距離は40cm以上離し、視線がやや下向きになるよう高さを調整する。集中するとまばたきが減るので意識的にまばたきをしよう。上を向くと涙液が蒸発されやすいので、仰向けでスマホを見るのは避ける。

目を温める

人工涙液を点眼しても目が乾いてしまう場合は、油層の働きが低下している可能性がある。油分を出す器官であるまぶたのキワにあるマイボーム腺が詰まると油分が出にくい。目元を温めて分泌を促進させよう。

点眼薬を使う

ドライアイを放置すると角膜上皮障害に進行することも。市販のビタミンA配合の点眼薬などを取り入れて角膜をケアしよう。

コンタクトレンズは正しく使う

特にカラーコンタクトを医師の診察なく購入するケースが危険。装用時間も守ること。痛みを感じたときにはコンタクトレンズの使用は中止してメガネを使用する。

外気にさらされている角膜は、冬本番に向けて肌と同様に乾燥しやすくなる。肌の保湿をするように、角膜もいたわりたいものだ。