いつでも相談に乗ってくれて、具体的なアドバイスをしてくれて、仕事も手取り足取り教えてくれる。若手にとっての「理想の上司像」はこのようなものだ。しかし、そんな面倒見の良い上司は、部下を育てることができるだろうか――。
※写真はイメージです(写真=iStock.com/RoBeDeRo)

女性は面倒見が良すぎる?

母性が強いので面倒見が良いというか、最終的にドライになれないのが女性。責任感も強いので、途中で投げ出すことがない。

これは男性が女性リーダーを見ての評価ではなく、女性リーダーが自身をそう振り返っているコメントであり、われわれがコンサルティング現場において、実際多数の女性経営者、女性管理職から聞く言葉でもある。

どうやら、部下の仕事を綿密に“見て”あげる、助言してあげる、細かくやり方を指南する、のが女性リーダーであり、ダメな部下、思い通りに成長してこない部下、何度言っても間違う部下も見捨てないらしい。

今回はこの「面倒見」について考えていこうと思う。

結論、女性の特徴とされるこの面倒見の良さは、使い方を間違えると組織パフォーマンスは低下する。しかし正しく用いることによって、部下の成長を促進する重要な要素になる。

面倒見の良さで部下は成長するか

昨今、部下側に「良い上司は?」と問う場合、

「具体的なアドバイスをくれる」
「業務に一緒に取り組んでくれる」
「いつでも相談に乗ってくれる」
「自分の意見や考えに耳を傾けてくれる」

こんなところが、上位を占めている。

どれも“面倒見”に該当するリーダーの資質だが、これらが本当に部下の成長を促進し、組織パフォーマンスを上げることに寄与するだろうか。

残念ながら、回答はNoだ。まず、「成長」というものを定義するところから考えていこう。成長とは何か?

それは今までできなかったことができるようになること、と定義できる。こう定義すると、成長のステップは、

できないことの把握
できない⇒できるための方法を考える
その方法を反復継続する

となる。

部下の成長を阻害する教え方

読者が、新規開拓の営業経験があるなら容易に想像することができるが、週に10件アポイントを取らねばならないシチュエーションで4件の獲得で終わってしまった場合、

できないこと=6件のアポイント獲得
できない⇒できるための方法を考える=ロープレ、取れている人にコツを聞く等
その方法を反復継続する=次週、そのやり方を実践し繰り返していく

このサイクルを10件に到達するまで繰り返していくことが必要になる。

「良い上司」に挙げられている「具体的なアドバイスをくれる」について、上司が手取り足取り具体的なやり方を指南している場合、部下の成長を阻んでいる可能性があるので要注意だ。

やり方を細かく指南していくスタイルのマネジメントが危険なのは、「部下は、そのやり方を踏襲して生じた結果責任を感じにくい」というものだ。具体的に言うならば「上司の言ったとおりにやったのだから、生じた結果責任も上司である」という思考になりがちだ。つまり極端な表現になるが「これは自分の責任じゃないですよね、あなたの言った通りやったのだから」となる。

リーダーは何を“見る”べきなのか

では逆に、上司の細かい指示が正しければ、つまり結果が伴ってくればいいのか、というと実はそうでもない。環境は常に変化し、上司の最上級としている方法論が未来永劫有用であり続けることはあり得ないし、何より部下が自ら方策を考え出し、責任を全うするという経験を積むことができない。つまり、本来的な意味での達成感が得にくく、モチベーションを見いだせなくなってしまうのだ。

これからの時代、上司にも解がない状況や、簡単にそれを見いだせない環境下においてでも結果を出すスキルを身に付けることが必要だ。マニュアル通りに動くことで時給をもらっているアルバイトならば“実働責任”を果たしていればそれでいいが、読者の大半は”結果責任“を追っている部下を管理しているはず。結果責任を負っている部下のマネジメントにおいて、見るべきは”やり方“ではなく、あくまでも“結果”ということになる。

「強化」「徹底」「カイゼン」という言葉を使っていないか

つまり、リーダーが行うべきことは、

①明確な結果設定
②できないことへの対策を“考えさせる”
③対策によって、どのような結果をもたらすのか“約束”させる

ということになる。

おそらく大半の現職リーダーのみなさんは、みずからこのサイクルをまわして成長を遂げてきたか、このようなマネジメントを展開する上司のもとで成長してきたはずだ。

しかし、多くの組織では誤ったマネジメントが展開されている。

①結果を明確に設定しない。期限がないものは論外。強化、徹底、カイゼンといったあいまいなビッグワードで締めくくられているものも“明確”とは言えない。期限において、到達したかしないかを瞬時に○or×と判定できるものにしなければならない。

また、②は「良い上司」にあるように、考えさせることなく、○○と言いなさい、○○という練習をしなさい、○○という方法でやりなさい、と細かく指示してしまう。これによって、前述の通り、部下にまんまと言い訳材料を渡している。

最後に③だが、部下が対策をひねり出してきたことで安堵し、そこでコミュニケーションが終わってしまうことが散見される。これは、「ロープレやるんだ、いいね」「○○君にコツを聞いてくるっていうのはよく考えたね」と方法、取り組みといったプロセスそのものを評価してしまっていることから、部下の意識が“結果”に向かわない。きっちり、結果を約束させるところまで抜かりなく行うことが重要だ。

リーダーが“見る”べきなのは、やり方ではなく“結果”なのだ。

面倒見という特性を最大限活かすために

成長は、できないことができるようになる、と定義しましたが、みなさんにひとつ考えを伺いたい。

成長は曲線か、それとも階段か?

つまり、曲線的にだんだんと成長していくのか、ある一定期間の踊り場を経て瞬間的に成長するか、どちらだろう。

部下の成長は曲線? 階段?

ご自身の経験や、これまで見てきた部下などイメージしてほしい。われわれがコンサルティング現場でヒアリングしていると、よりパフォーマンスの高いリーダーほど「曲線」と答えるが、実のところ成長は「階段」だ。つまり必ず踊り場を経て、ある日瞬間的にできるようになる、というもの。

これは勉強なども同じで一定期間勉強しても点数や偏差値が上がらないという期間があり、これを経て突如上がる。こんな経験はないだろうか。優秀な人ほどこの踊り場期間が短いために、曲線と認識しているのだ。

業務スキルも同じなのだが、ここでの落とし穴は、踊り場期間は成長が見られないので、サボっているように見えたり、能力を懐疑的に見てしまうというもの。

しかし、ここで見限ってはいけない。部下が反復して何かに取り組んでいる状態、行動を起こし、それを繰り返しているようならば、踊り場にいる期間として“見守って”あげよう。それが、女性の面倒見という特性を活かしたマネジメントになるはずだ。

冨樫 篤史(とがし・あつし)
識学 新規事業開発室 室長
1980年東京生まれ。02年 立教大学経済学部卒。15年グロービス経営大学院にて経営学研究科(MBA)修了。現東証1部のジェイエイシーリクルートメントにて12年間勤務し、主に幹部クラスの人材斡旋から企業の課題解決を提案。名古屋支店長や部長職を歴任し、30~50名の組織マネジメントに携わる。15年、識学と出会い、これまでの管理手法の過不足が明確になり、識学がさまざまな組織の課題解決になると確信し同社に参画。大阪営業部 部長を経て、現職。