令和初の新入社員を対象とした働き方に関する調査結果が発表された。「人並み以上に働きたい」と答えた新人が過去最低を記録し、「人並みで十分」が6割を超えた。出世について「どうでもよい」と答える彼らをどうマネジメントすればよいのだろうか――。
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令和初の新入社員の特徴とは

今年2019年4月に入社した令和初の新入社員の働き方に関するアンケートで「人並みで十分」と回答した人が過去最高の63.5%に達した。日本生産性本部は1969年から「新入社員 働くことの意識調査」を実施しているが、逆に「人並み以上に働きたい」人は過去最低の29.0%。その差も34.5ポイントと過去最高だった(6月27日発表)。

69年以降、「人並みで十分」「人並み以上」の回答者は拮抗し、96年以降は毎年入れ替わる現象が続いていた。その年の就職状況が悪いと「人並み以上」が増えるなど就活環境の有利・不利との相関は確認されているが、2013年以降、「人並み以上」は下降し続け、「人並みで十分」が上昇し、今年に至っている(図表1)。

「人並みで十分」が過去最高に

新入社員ならいや応なく同期社員との競争環境に投げ込まれる。人並み以上の働きや成果を示すことで給与も上がり、昇進していく。「人並みで十分」ということは、そうしたキャリアアップ志向がないか、著しく弱いということになる。

出世は「どうでもよい」が増加

その傾向は出世志向にも表れている。「どのポストまで昇進したいか」という質問に対し、社長12.6%、部長14.7%、課長7.1%、主任班長7.9%、専門職(スペシャリスト)17.3%となっている。専門職志向の人が比較的多いが、10年前の09年の24.4%より低くなっている。一方「どうでもよい」が09年11.7%から16.0%に増えている(図表2)。

昇進志向、スペシャリスト志向とも低下、「どうでもよい」が増加

サラリーマンなら出世を目指すのは当たり前という昭和的価値観から、今の新人は遠く隔たっている。一方、出世より自分のスキルを磨いてプロフェッショナルになりたいという専門職志向も薄れているのが令和の新入社員だ。もちろん、高学歴層の中には、あえて伝統的大企業ではなく、外資系のコンサルティング会社やベンチャー企業に飛び込み、そこでキャリアを磨いてプロフェッショナルや起業を目指すという野心家もいる。

メディアでは若くして起業し、成功したベンチャー経営者や巨万の富を築いた人たちが取り上げられ、彼ら、彼女らが熱く語る“志”に引かれる若者もいる。だが、そういう人に憧れと羨望を抱いても「自分もそうなりたい」と思う人は一部の新入社員であって、多くは自分とは無縁の存在と思っているのではないか。

なぜ「人並みで十分」なのか

なぜ、人並みの働き方で十分という人が増えているのか。同調査を毎年分析している社会学者の岩間夏樹氏は、昔と今の働くモチベーションの違いを指摘している。

「昔は黙っていても馬車馬のように働いてくれる社員がいましたし、それが当たり前だと思っている経営者もいるかもしれませんが、今の若い人にそれを求めても無理です。高度成長期やそれ以降も物やお金を得たいという欲望が、働くことのモチベーションになっていましたし、豊かになりたいという強烈な動機がありました。物やお金が強い動機づけになっていたのですが、今は若い人の働くモチベーション自体が不安定になっており、物やお金があまりモチベーションにつながりません。この結果を見ると、日本の企業が若い人を活用することに失敗しているのではないかと考えざるを得ません」

労働の対価は言うまでもなく報酬であるが、その報酬を使って何かを買いたい、何かを実現したいという欲求が薄れていると指摘する。そうだとすればがんばって成果を出し、昇進して給与を多く得ることに魅力を感じなくなるのも当然だ。

「若いうちは苦労すべき」という根性論は通用しない

同調査では「若いうちは自ら進んで苦労するぐらいの気持ちがなくてはならないと思いますか。それとも何も好んで苦労することはないと思いますか」という質問もしている。2011年は「進んで苦労すべきだ」が70%で、「好んで苦労することはない」との間に54.3ポイントの開きがあった。だが、その差はどんどん縮まり、今年は「好んで苦労することはない」との回答が37.3%、「進んで苦労すべきだ」が43.2%まで減少している。

その差は5.9ポイント。つまり、自ら進んで苦労して働くほどの魅力を感じていない人が増えているということだ。昭和の時代は「若いときの苦労は買ってでもせよ」と言われたものだ。とくに社会的成功者は「人の二倍も三倍も働け」という教訓を垂れたものだ。だが、今ではその発想や考え方は通用しない。

“小さな幸せ”のために働く

では何のために働くのか。「働く目的」を尋ねた質問では「経済的に豊かになる」が28.2%。2000年にはトップだったが、01年に「楽しい生活をしたい」が上回り、その後もゆるやかに上昇し、2017年は42.6%、今年も39.6%と最も多かった。だが、楽しい生活をするにしてもそれなりのお金が必要なはずだ。

岩間氏は若者が考える「楽しい生活」の意味について「楽しいといっても大それた遊びやレジャーをしたいとか、ぜいたくをしたいということではなく、もっと個人的な小さな幸せの実現です。多少のゆとりのある充実した人生を送りたいという思い」と分析する。人並み以上に働いて多くの報酬を得るよりも、人並みの働き方で得られる報酬の範囲内で得られるささやかな人生の幸せを大事にしたいということだろうか。

令和時代に必要なマネジメントとは

もちろん幸せや楽しさは人によって異なるし、それはそれで結構なことであるが、企業の経営者にとっては「人並みで十分」の働き方では困ると思うだろう。報酬や昇進はもはや働くモチベーションにつながっていないと述べたが、ではどこに焦点を当てて働く意欲をかきたてればよいのか。岩間氏は若者の関心は「自己実現」にあると言う。

「自己実現みたいなものが若者の関心の中心になっていく傾向があります。しかし、自己実現といっても何か夢物語みたいな世界ですし、よくわかりません。物の豊かさは目に見えるし、手に触わって実感できますが、自己実現は、今日は充実していても明日はどうなるかわからないような曖昧な要素を含んでいます。でも若い人たちもどうすればモチベーションを維持できるのか、心の中で葛藤しているのです。それが働くモチベーションの中核になっているとすれば、企業戦士を知っている世代からすればもどかしい、歯がゆいと感じるでしょうが、歯がゆくても、どうしようもない現実であり、そういう前提でマネジメントを組み立てる必要があると思います」

確かに上司や先輩が個々の新人の「自己実現」をかなえる方向に導くことはかなり難しい。ましてや昭和の時代のように悩んでいれば、飲み屋に誘って励ます“飲みニケーション”も通用しないだろう。新入社員の揺れ動く心の葛藤に常に寄り添い、ちょっとでも方向性を見失いそうになれば助言をしながら微調整していく細やかなマネジメントが求められている。

令和の新入社員に対して、昭和・平成流のやり方が通用しないと言って一方的に毛嫌いするのではなく、いかに活用できるかが、今後の企業の成長を大きく左右するだろう。