※本稿は、白河桃子『ハラスメントの境界線』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
◦佐々木さん(20代後半・食品会社勤務)
◦羽田さん(30代前半・生命保険会社勤務)
◦近藤さん(30代後半・メーカー勤務)
◦中野さん(40代前半・コンサルティングファーム勤務)
セクハラ発言をやめられない40代後半の男性
【白河】#MeToo運動以降、社内の男性のセクハラに対する雰囲気って変化しましたか?
【近藤】うーん……。
【羽田】時代の空気とか関係ないですよね。セクハラに対する意識が違うのは、世代のせいという気がします。今の40代、50代男性は一生変わらないかも。
【佐々木】その世代は、最初はそうじゃない人でも雰囲気に染まっていっちゃいますよね。
【近藤】前職が年齢層の若い会社で、30代の社長にスタッフも20、30代のみだったんですが、まったく雰囲気が違いました。そもそもセクハラとかパワハラをしようとする人はいない。
【白河】やっぱり職場の風土の問題ですね。
【中野】セクハラに世間の関心が向くようになってからは、クライアントのほうが、それを気にしています。接待の席でも、おじさんは平気で距離を詰めてきますけど、40代前半とかはさすがに意識している様子。30代以下は、もっとクリーンな感じですよね。
【白河】セクハラを見聞きしている周囲の男性社員は、社内外でのセクハラをどう見ているのでしょう?
【中野】男性社員は「それはまずいですよ~」って笑って言うぐらいですよね。だって、自分たちにだって評価がありますから。だから私も、自分の部下には「接待に行かなくていい」と言えても、部下じゃない子には言えない。その上司は男性だったりするから。
女性社員がセクハラを受ける横で、男性社員がパワハラを受ける地獄絵図
【羽田】女性社員がセクハラを受けてるなら、男性社員はパワハラを受けているんですよね。営業は数字が命なので、成績が伸び悩んだ男性社員はどう喝されている。
【白河】スルガ銀行のように?
【近藤】さすがに「死ね」とまでは言わないけど、「話してるとイライラするんだよ!」「だからお前はダメなんだよ!」とか怒鳴って、追い詰めるんですよ。職場がシーンとなる。
【佐々木】まったく同じ光景を見ています。必ず男性にはどう喝して、女性にはセクハラ発言をする。男性も女性も業績を上げねばならないのは変わらないのに、女性にはどう喝したり、追い詰めたりはしないんですよね。
【羽田】さっきの支社長は、部下である所長陣、長時間拘束して無駄なミーティングを何度も何度もするのが日常茶飯事でした。普段も、上が帰らないと帰れない雰囲気が当たり前。みんな延々と無駄な残業して。
【近藤】そういう人が評価されるしね。
【中野】うちの上層部は、新入社員とかには少し優しいけど、上の中間管理職の人たちには厳しい。飲み会で社長たちに「お前も脱げ」って言われても、若手男性はドリンクオーダーを取るふりしたり、タバコを吸いに行ったりして絶対脱がない。でも、中間管理職の人たちは続いてやるんですよね。縦社会の恐ろしさですよね。
【近藤】経営者、経営陣がその調子だと、合わなかったら辞めるしかない。うちの会社も、若手の男性が何人も何人も辞めていきます。若手が定着しないですよね。ハラスメントのある職場って。
【中野】特に規模の小さい会社だと、みんな転職することが頭にあって、今の職場で得られることがなくなったら、パッていなくなる。私が転職の相談を受けても、「いいんじゃない」って辞めさせていく(苦笑)。
問題視される「ハラスメントを許す風土」
セクハラがある職場にはパワハラもあることが、取材をしているとよくわかります。職場のハラスメントは個人ではなく、それを許す環境、風土が問題視されます。ハラスメントを許す風土のある職場では、女性はセクハラに遭い、男性はパワハラに遭っている。これは40代以上の世代のマネジメントスタイルと関連しています。「上意下達」のコミュニケーションスタイルしか知らない世代です。ある大企業のコンプライアンス担当者が社内調査したところ、圧倒的にハラスメント加害者は40代、50代が多かったそうです。
ちなみに、ハラスメントの多い職場の特徴を厚生労働省が調査した結果を見ると、「残業が多い/休みが取り難い」「上司と部下のコミュニケーションが少ない」「失敗が許されない/失敗への許容度が低い」の3項目が挙がっています。
女性の出世がセクハラ対策にもなる事実
【近藤】ただ、入社してすぐの8年前に比べると、だんだん若手の女性は定着するようになってきたなと思います。社内の男女比率が半々まで上がって人数比率でも負けなくなったし、当時30代前半だった女性たちの職位が上がって発言権を得ていった。上層部もやりたい放題ではなくなってきます。
【佐々木】確かにここ数年、役職付きの女性に「じゃあ辞めます」と言われては困る……という雰囲気は感じるようになりました。
【近藤】役職を持った女性に下と結託してクーデターを起こされても困る。自分が役職についてから、ハラスメントの加害者世代に対して反論すると、その手が止まるようになったんですよ。最近は、私や私の部下に対してはセクハラ発言をしなくなりました。
【中野】縦社会だからこそ、職位が上がってきたり、ポストについたりすると、途端にクライアントもセクハラをしなくなる。男性って、権力とか立場とかをすごい気にしてますよね。
【白河】性的な意味ではなく、パワーの誇示ですかね。セクハラをする人って、自分の権力を確かめたいんだと思うんですよね。「俺に逆らうやついねぇだろうな」ってパワーを確認してる。セクハラとパワハラが必ず同時に起きているのも、それが理由なんでしょうね。
【中野】社内の空気が変われば、本当は違うんじゃないかって思っている男性陣も染まらずにいられるんじゃないでしょうか。
【白河】そうね。いかに風土に染まらないような人がいるかってことですよね。
【中野】と同時に、女性自身もやっぱり意識を変えなきゃいけないと思いました。例えば、羽田さんみたいにおかしいなと思って動く人もいる一方で、我慢しているならまだしも、自ら風土に染まっていったり、立ち上がった人に「余計なことしないで」って言ったりする人もいる。でも、少しずつ変わっていると思います。
【白河】社内研修や相談窓口も重要ですが、究極のセクハラ対策は、決定権のある女性が増えることなんですよね。皆さんが頑張ってきてくれたおかげで、職場で女性が「嫌なことは嫌」と言えるようになってきた。ぜひ出世してくださいね。
結果主義の風土ほど消えづらいセクハラとパワハラ
彼女たちの言葉からは、#MeTooムーブメントがあってもなお、日本企業の多くの職場においてハラスメントが日常的に行われていることがうかがい知れます。
それでは彼らをセクハラに駆り立てるものはなんなのでしょうか?
イリノイ州立大学の、セクハラ研究のパイオニアといわれるジョン・プライヤー教授は、ワシントンポストの記事の中で、セクハラをする人には3つの共通した特徴があると述べている。3つとは、①共感力の欠如、②伝統的な性別の役割分担を信じている、③優越感・権威主義だ。そのうえで、プライヤー教授は「(セクハラを行う人を)とりまく環境も大きく影響している」と指摘している。
そうした傾向のある人を、そういったことが許される環境に置けば、歯止めが利かない。Impunity(免責状態)にあることが、(セクハラを行うか行わないかに)大きく関連する(※)。
(※)岡本純子「エリート官僚がセクハラを否定する思考回路」「東洋経済オンライン」2018年4月24日
許される環境(免責状態)とは、「業績が良ければすべてが許される」という風土がある職場ですね。彼らがセクハラだけでなくパワハラ常習者であることも不思議はありません。このパワハラ上司も「共感力の欠如」「権威主義」の特徴を備えています。
男性からは「女性のため」に見える#MeTooですが、実は「セクハラのない環境」は「パワハラのない環境」にも通じる。自分たちもパワハラを受けなくなるのなら、今の変化は男性にも朗報なのです。