ギリギリ、ググッは、ストレスに耐えている証拠!
何度も咬み合わせのチェックをして、高さを合わせるために歯を削られた経験がある人も多いのではないだろうか。毎回、どこまで削られるのか、健康な歯が小さくなってしまうのではないか、と不安に駆られる人もいるはず。とはいえ、放っておくことはできないのも事実。無意識に歯を食いしばるクセがあったり、就寝時に歯ぎしりをしていると、力がかかる部分の歯が欠けたり、歯根がぐらついたりすることもあるからだ。そんな食いしばりに悩む人に最近注目を集めているというのが、美容医療のシワ対策でおなじみの「ボトックス」を利用した治療法だという。
食いしばりが起こす不調と、ボトックス治療について、I.Sデンタルクリニック院長の石田智子先生に話を伺った。
「歯ぎしりや食いしばりは一種のクセなのですが、2つの要因があるといわれています。1つ目はストレスの代償行為。精神的なストレスを感じると歯を食いしばってしまうんです。そしてもう1つは咬み合わせ。例えば、歯科医が右の歯の虫歯治療をしたとします。終わったときは咬み合わせは気にならないのですが、仮に少し低くなっていたりすると、人は無意識に高さをアジャストしようとするんです。合わせよう、合わせようと歯ぎしりや食いしばりをして調整しようとするといわれています。また、アゴは歯の高さが低いほうにシフトしていくので、長期的にみるとお顔も歪んでしまうのです」
慢性肩こり、エラが張ってきたら、食いしばりを疑おう
今まで多くの患者を診察治療してきた経験から、食いしばりが強い側は、唇や目の位置が上がり、二重の幅も大きくなる傾向にあるという。また、咬筋(こうきん)が発達するため、年齢とともにエラが張るなど、輪郭まで変わってくることも。つまり、食いしばりの影響は口腔内にとどまらず、顔、そしてカラダにも現れてくるのだ。
「睡眠時に無意識的に食いしばりをしている場合、歯には体重の1.5倍もの力がかかるといわれています。首から肩、背中にかかる僧帽筋(そうぼうきん)は咬筋と関連がありますので、それだけの力がかかっていれば、朝起きるのがつらい、寝起きに疲労感がある、首や肩がこるなどの症状が出るのは当たり前です。歯ぎしりの音で目が醒めるという方もいらっしゃいますし、常に筋肉が収縮している状態なので、血流が悪くなって、自律神経のバランスが乱れるなど、さまざまなところに不調が出てくる可能性があるのです。ただ、自覚症状がない人も結構多いんですよ」
そこで、自分で簡単にできるチェック方法を教えてもらった。
・頬の内側の粘膜に白い筋のような線がついている
・舌の両脇に歯型がついている
上のチェックに1つでも当てはまる人は、歯ぎしりや食いしばりをしている可能性大。
「若い方にも食いしばりは多いのですが、若ければまだ歯もそんなにすり減っていないし、筋肉が復活するのも早いので、疲れやこりを感じにくい。不調を感じるようになってくるのは30代後半からが多いですね」
食いしばりの救世主は、シワ治療で人気の「ボトックス」
今までの治療法は前述のように歯を削ったり、夜間の食いしばりを軽減するマウスピースを着用するのが一般的だった。ところが今、ボトックス注射を併用する治療が増えてきているという。
ボトックス注射といえば、表情筋に打つことでシワを改善する美容医療としておなじみだが、近年は筋肉の緊張を和らげる効果を利用し、咬筋の筋力を弱めて、食いしばりを軽減する目的で活用されるようにもなっている。
「早い方だと打った次の日から調子の良さを感じるようです。多くの方は1週間ぐらいすると、アゴの疲れが軽減されたり、朝スッキリと目覚められたりと効果を実感するようになります。この頃になるとエラの張りが小さくなってくるので、小顔になるという利点もあります」
咬み合わせ治療やマウスピースと違い、長年の悩みをすぐに解決できるのも魅力だ。
今のところボトックスを導入している歯科医は多くはないものの、石田先生のクリニックでは、最初からボトックス注射を打ってほしいという患者も多く、毎日1人、多い日には3人以上も施術をすることもあるという。
「ボトックスを歯科領域で使うかどうか、以前は賛否両輪ありましたが、実際にはすごくラクになったという患者さんがとても多くて。ここまでラクになるのであれば、やはり使ったほうがいいと、今ではその効果が認められています」
気になるのは効果の持続期間。ボトックス注射の効果は3~6カ月といわれているため、繰り返し打たなくてはいけないのでは……と思いきや、1度で終わる場合もあるという。
「食いしばりの強い方は定期的に打ちますが、軽度だとマウスピースと併用することで、3~4カ月のうちに食いしばりのクセがなくなる場合も。そういう方は1度打っただけで終わることが多いですね。ただボトックスだけでは根本的な解決にはなりませんから、やはり咬み合わせ治療とマウスピースを併用するのが望ましいです。そして、もうひとつ注意したいのは打つ量。美容医療でもエラ痩せのボトックス治療がありますが、咬筋の力を弱めることを目的とした場合、量が足りないことが多いんですね。筋肉や歯のことがわかっている歯科医で打つことをおすすめします」
クリニックでは個人個人の咬みグセを見極めながら、片側ずつ打つ量を決めていく。どんなに食いしばりが強い人でも、片側3単位(30ml)を打てば足りるという。確かに美容医療と比べると本数は多めだ。また、表情筋ではなく咬筋にしっかりと打つため、注入の深度もシワ対策よりも深いのも特徴。
深く注入するとはいえ、表面麻酔をしているので、注射の痛みはなく、注入の感覚を感じる程度だそう(個人差あり)。1週間ほどすると、グッと咬みしめた際の咬筋の隆起は小さくなり、常に咬みしめていたクセがなくなる人が多いという。アゴの疲れも軽減し、いかに自分が今まで歯を食いしばっていたかを実感するよう。
美容だけではないボトックスの活用法は今後さらに注目を集めそうだ。