エアークローゼット、アマゾン、トヨタから飲食店まで、今、「サブスクリプション・モデル」が大注目されています。その仕組みと、成功のポイントを事例入りでわかりやすく解説します。

イギリス女性は洋服選びに毎日17分も使う

季節は春。仕事でもプライベートでも、新たな出逢いが多い季節ですが……、皆さんは「ここぞ!」という時に着られる「勝負服」を持っていますか?

人は見た目が9割』――かつて、そんなタイトルの書籍がベストセラーになりました。著者は、宝塚大学教授で劇作家の竹内一郎さん。私は仕事柄、働く女性に取材する機会が多いのですが、この本が話題になってからはとくに、初対面や大事なシーンで、「第一印象」や見た目を気にする女性が増えたと痛感します。

さらに最近は、SNSにアップした自分の画像が、ネット上に半永久的に残るケースも多いため、「何度も同じ服は着られない」や「誰かと服がカブる(同じ服を着る)と、画像バレして恥ずかしい」といった声も、よく耳にするようになりました。

一方で、「今日何を着ようか?」と悩み始めると、キリがないですよね。イギリスのある高級小売チェーンの調査によると、英国在住の18~60歳女性は、毎日平均で「約17分」もの時間を、洋服選びに費やしているとか(2016年 マークス・アンド・スペンサー調べ)。

さらに同調査では、こうした日課に「ワードローブギレ」を起こす女性が多いこともわかりました。具体的には、62%の女性が「(何を着るか決まらず)時々かんしゃくを起こす」と回答。確かに、忙しい最中に着るものが決まらないと、私も「ああー、もうー」とついムシャクシャします。

エアクロ会員の9割が働く女性

ところが近年、そんな女性をサポートしてくれるサービスが次々と登場しています。たとえば、ファッションレンタルサービスの「airCloset(エアークローゼット)」。この分野で国内最大級と言われるので、既に皆さんもご存じかもしれません。

サービス開始(15年)からまだ4年ほどですが、既に会員は22万人以上。平均年齢は30代後半、9割が働く女性で、うち4割以上にお子さんがいるそうです(2019年1月現在)。

毎回、スタイリストが選んだ3着が届く。写真提供=エアークローゼット

利用にあたっては、パソコンかスマホで「ユーザー(会員)登録」を済ませ、プランや支払方法などを選択。すると数日後に、洋服が3着入ったボックスが届きます。

選べるプランは2種類で、1つは月1回、毎月3着のみが届く「ライトプラン(6800円・税別/以下同)」、もう1つは毎月3着ずつを何度でも楽しめる、借り放題の「レギュラープラン(9800円)」です。

エアークローゼット(以下「エアクロ」)・PRの高原知秋さんによると、「利用者は、圧倒的にレギュラープランを選ぶ」とのこと。確かに「月々3着のみ」と決められてしまうよりは、何度でも頼めるほうがお得感がありますよね。

一方で、借り放題は魅力ながら、つい「好みに合わない洋服が届いたらイヤだな」と不安もよぎるのですが……。

実は、その心配はほとんど要りません。なぜなら、エアクロには「ミスマッチ」を防ぐ秘策があるから。そしてそれこそが、エアクロの「強み」でもあるのです。

特許取得のスタイリング提供システム

エアークローゼットの最大の強み、それは単なるレンタルではなく、「一人ひとりの嗜好に合ったファッションを、エアクロ側が選んでくれること」にあります。

最近はAIによって、自動的にコーディネートを提案するサービスも登場していますが、「我々は、雑誌等のメディアなどで活躍するプロのスタイリストが、お客さまの趣味嗜好などの情報を基に、最適なスタイルをご提案することにこだわっています」と、同代表取締役社長でCEOの天沼聰さん。

実店舗も登場。写真提供=エアークローゼット

登録するスタイリストは200人以上いて、全員がカリキュラムに応じた研修を受講します。そもそも選べるファッションブランドが300超、ラインナップされた洋服も10万着以上あるので、「豊富な候補の中から選んでもらえる」のも嬉しいのですが……、それだけではありません。

エアクロは、独自のスタイリング提供システムで、特許を取得。自身のサイズはもちろん、「好きなカラー」や「スタイル(落ち着いた、優しいほか)」などを登録しておくと、それを参考にスタイリストが洋服を選んでくれます。
その際、発送する3着の着回し方や、手持ちの洋服との合わせ方など「コーディネートアドバイス」まで付けてくれる。さらに、ここから先がミソです。

サブスク・モデルで成功する条件とは

実はエアクロは、顧客側にも「率直な感想」を書いて返送してくれるよう、促しています。たとえば「思っていたのと雰囲気が違った」、あるいは「素材が肌に合わなかった」など。こうした感想が顧客カルテとなり、次回以降の参考材料になります。つまり理論上は、長く使えば使うほど、自分の好みやテイストに近い洋服が届く仕組みなのです。

一般的に、こうした顧客カルテの管理は、企業側の業務を増やす一因にもなります。ですがエアクロのように「サブスクリプション・モデル」のサービスを取り入れる企業ではとくに、このシステムが重要だと考えられています。

なぜか? そもそもサブスクリプションとは「定額制」の意味。顧客は会員になるなどして一定期間、商品やサービスを継続的に受け取り、その対価として一定の金額(エアクロでは、6800円か9800円)を支払います。

こうした定額制のサービスの場合、2カ月、3カ月とずっと決まった額を払い続けているのに、もし好みのモノが一向に届かなければ……、おそらく多くの人は、途中で止めてしまいますよね。

そう、長く顧客に利用し続けてもらうビジネスモデルではとくに、「使えば使うほど、精度が上がる」、さらに「そのたびにワクワク胸躍り、体験価値が向上する」仕組みが大切なのです。

カフェやレストラン、自動車までサブスクが登場

サブスクリプション・モデル(略称:サブスク)は、元々は雑誌の「年間購読」などに用いられるスタイルでしたが、近年はIT系の商品やサービスに導入されるケースが増えています。たとえば、パソコンのソフトウェアや、通販・ネットショッピング等が展開する会員用のコンテンツなど。

よく知られているのは、「Amazonプライム」でしょう。年間または月間で一定金額を支払うと、迅速な配送特典を受けられるほか、提携する音楽・映像等を無料で視聴できるサービスです(私も、大のヘビーユーザーです)。

また最近は、カフェやレストランでも「サブスク」を謳う店が登場。自動車でも、トヨタが今年1月、サブスクをサービスとして提供する新会社「KINTO」を設立しました。展開するのは、3年間で1台のトヨタ車に乗れるプランと、6種類のレクサスブランド車を乗り継げるプランの2つ。同じクルマをずっと「所有する」のではなく、使いたい時に「選んで使う」ニュアンスです。

なぜいま、サブスクが注目を浴びるのでしょうか?

サブスクで“冒険”が可能に

1つは、日本の人口が減少傾向にあり、「多くのお客さまに来てもらおう」と考えても、さほど数は狙えないから。ならば「1人のお客さまに、質の良い商品やサービスを長く、何度も利用してもらおう」との視点で「定額制」にしたほうが、提供者側も安定収入が得られるからです。

もう1つは、先のクルマと同様、「1つのモノをずっと持ち続けるのではなく、気分によって使い分けたい」と考える消費者が増えたから。そして企業側も、そんな彼らの趣味嗜好を、AIを含めて継続的に管理・分析できる技術(システム)を手に入れたからでしょう。

もっともエアクロは、顧客の好みや「定番」だけを提供しようとは考えていません。天沼社長は、自社サービスのさらなる魅力を「レンタルゆえに、固定概念の枠を超えて“冒険”できること」だと言います。

利用者からは、こんな喜びの声も届くそうです。「周りに『いつもと雰囲気が違うね』と褒められた」「髪を切っても気づかない旦那が『なんかいいね』と言ってくれた」……。

一般に女性は、仕事で忙しくなると、あるいは結婚して子どもができると、ファッションにかけられる時間やお金が限られてしまう。でも自宅にいながら気軽に冒険できれば、人生の幅は広がります。似合わないと思い込んでいたデザインが、ある日、第一印象を上げてくれる「勝負服」に変わることもあるでしょう。

いろんなモノに挑戦できるサブスクサービスは、働く女性の従来の既成概念をガラリと変えてくれる、魔法のサービスかもしれません。