マーケターが必ず押さえるべき“変化”
会議や打ち合わせの場では、よく「変化する消費者と向き合う」といった言葉が飛び交います。「消費者はどんどん変化する」は、マーケティング鉄則のひとつといえます。
でも、何をもって「変化」というのでしょう? 具体的に詰めないと、共通像が描けません。みんながそれぞれのイメージを持ち「同床異夢」となってしまいそうです。
今回は衣服を中心にしたファッションブランドで考えてみましょう。変化のなかでも、とくに重要な「時代の変化」「消費者の年齢の変化」「消費者のステージの変化」の3つにスポットをあてます。
まずは時代の変化。たとえば昨年、「平成の歌姫」と呼ばれた安室奈美恵さんが引退しました。彼女は1977年9月生まれだそうです。筆者が仕事で接する相手には、同年代の女性が何人かいます。
そこでこんな一覧表を作ってみました(図表1)。進学や就職、そしてファッションの好みは人それぞれなので、モデル例としてお読みください。
流行に左右されるタイプ、されないタイプがいますが、「こんな時代だった」の目安にはなると思います。
セシルマクビーは、なぜ大変身できたか
安室さんが大ブレイクしたのは18歳の時です。ファッションセンスや生き方に同世代の女性は影響を受けました。その後、派生的なトレンド“ギャルブーム”も起きています。
安室さん人気が不動となった1990年代後半から、ギャルが好むようなファッションも人気となり、ファッションビル「渋谷109」に入るブランドが、“マルキューブランド”と呼ばれました。その代表格が「CECIL McBEE(セシルマクビー)」です。
筆者は1990年代後半から2000年代前半まで、トイレタリー・化粧品メーカーで仕事をしていました。1997年か1998年、撮影現場で女子高校生のモデル2人(ともに高校3年生)と、こんな会話をしたことがあります。
「最近、セシルマクビーって流行っていますよね。どう思いますか?」
「ああ、セシルは結構いいですよね。大好きです」
なぜ20年後も覚えているかというと、〈そうか、もう「セシル」って縮めて呼ぶのだな〉と感じたからです。この会話が同ブランドへの関心を高め、その後、何度も取材しました。実はブランドを運営する会社「ジャパンイマジネーション」は、戦後すぐに焼け跡の新宿で誕生した老舗婦人服店という出自にも興味を持ちました。
それまで、重衣料が得意なブランドだった「セシルマクビー」は路線を変え、当時「カジュアル、エレガンス、セクシー」の3方向で展開しました。とくに肌を露出するけど下品さのないセクシー服が大人気となりました。時代の変化をいち早く取り込み、マーケティングに成功したのです。
年齢とともに「頑張らなくなる」
次に「年齢の変化」を見ていきます。引き続きアムラー世代で考えましょう。時は流れて40歳前後となった彼女たちに、現在のファッションの好みを聞いてみました。
「昔はヒールの靴ばかり履いていたのですが、最近はスニーカー、バレエシューズなどのペタンコ靴が多くなりました。ただし、仕事の打ち合わせのときにはパンプスを履くようにしています」(1978年生まれの女性編集者&作家)
「学生時代はブランド品を結構持っていましたが、最近はあまり買いません。好きなブランドでも、ロゴが目立つものは買わない。昔は洋服の平均単価が高かったけど、ファストファッション人気以降、価格が下がったと思います。もともと好きだったZARA以外、ユニクロ、H&Mも取り入れるようになりました」(同)
当時ギャルファッションを好んだ人と同一人物ではありませんが、時代性はうかがえると思います。とくにファストファッション流行の影響を強く受けていることがわかります。そして年齢とともに、ファッション性だけでなく「無理しなくなる」「頑張らなくなる」傾向にあり、機能性をしっかり見るようになっていることもわかります。
年齢を経ると服の好みが変わるだけではなく、「買い物経験」が蓄積されます。多くの人に「あの時はいいと思って衝動買いしたけど、買ってからほとんど着ていない」という服があるでしょう。そうした経験値が積み重なると、買い物も慎重になります。
とくにある程度、値段が張るものは「その時の自分にピンときたもの」を手にしながら、使用シーンをイメージしてから購入したりします。もちろんこれは人によるのですが、総じて、安易にメーカー戦略に乗らなくなります。
ユニクロが再評価されるワケ
最後に「ステージの変化」について見ていきましょう。実は現代は「年齢と消費の好みの関係性が薄れてきた時代」。むしろ関係性があるのは「ステージ」です。小さなお子さんを持つ人はおわかりでしょうが、とくに都市部では母親の年齢はさまざまです。そして、その年齢差によって消費の好みに大きな差があるかというとそうではなく、彼女たちの興味の対象は似ています。
子育て中の女性に話を聞くと「ユニクロが便利」という声も多いのです。昔のブーム時は、みんなが着た反面「ファッション性がイマイチ」と言われ、「ユニバレ」(ユニクロであることがバレる)という言葉もあったほど。それが現在は、機能性のよさに加えてファッション性も上がり、ブランドとしての評価はさらに高まりました。
また、子育て中はとくに「自分よりも子どもへの投資意欲が高まる」傾向があります。
たとえば、毎年4月に必要となる、小学1年生のランドセル。その商戦は年々早まっており、早いところでは前年の1月からカタログを公開します。つまり入学の1年以上も前から購入検討が始まり、平均価格はかなり高い。土屋鞄製造所のような人気ブランドでは7万円台にまで上昇しています。業界団体の「日本鞄協会 ランドセル工業会」の2018年のアンケート調査でも、平均購入金額は5万1300円だったそうです。
そうしたなかで、自分の服への投資を抑える人もいます。
「ワークマン」がなぜ女性にウケているのか
このように、単に“子育て世代”をターゲットにするのではなく、“ステージの変化の中での子育て世代”を考えたとき、例えば「本当はおしゃれもしたいのだけれど、今は機能的で動きやすい服が欲しい」「本当は自分にも投資したいけれど、今は我慢」といった人々の本当の心理が見えてきます。ユニクロの再評価は、そうした細かな心理とうまく沿って起きたのではないでしょうか。低価格の魅力に加えて新たな付加価値を実現できたということです。
その意味で、昨年話題になった作業着専門店「ワークマン」の新業態「ワークマンプラス」も面白い事例です。通常の店舗より女性客が多く、子育て世代では機能性の高いワークマンの靴を好む人が多くいます。
時代の変化の中にいる消費者をよく観察し、その消費者のステージの変化に着目したとき、単に機能性や単に低価格だけを訴求するだけではない、新たな展開が見えてくるでしょう。広告宣伝の表現にしても、最終的に端的な表現に集約されるにせよ、深みや広がりが感じられるものをつくれるようになるはずです。