コンサルタントとして働く長谷川万紀さんは、大学院まで有機化学の研究をしていた理系女子。幼い頃から自然に、1つのものをじっくり観察し、自分が気づいたことや発見をノートにまとめていたという長谷川さんにとって、中学生のときに読んだ『キュリー夫人』は憧れの存在になった。

ボストン コンサルティング グループ プロジェクト・リーダー 長谷川万紀さん

「化学の力を人の役に立てるために寝る間も惜しまずに研究に人生を費やす。1つのことに没頭することと、人の役に立ちたいという思いは、どちらも私と共通する思いでした」

しかし、大学で自分よりはるかに研究熱心な人たちを見て、自分には別の道があるのではと考え直し、就職することに。

「社会を良い方向に変えようという人たちや企業をビジネス面でサポートしたいと思い、コンサルティングファームを選びました」

幼い頃から培われた問題解決への真摯(しんし)な姿勢を持つ一方で、常に笑顔を絶やさず人を安心させる柔らかさがある彼女。信頼も厚く、社内でも若手のプロジェクト・リーダーとなった。チームの中には年上や同世代の人もいて、最初は見栄を張って自分の経験に箔(はく)をつけようとしたり、強いリーダーシップを取ろうと悩んだ時期もあったという。

「先輩に相談したら、『柔和なコミュニケーションがあなたの魅力じゃない。だったら“あの人を助けてあげたい”と思われるリーダーになってもいいんじゃない?』と言われました。カッコつけてもしょうがなかったんだと気付いて、気持ちが楽になりました」

それからは、自分のできること、できないことをきちんと仲間に伝え、「ここは助けてください」「ここはお任せします」という姿勢をはっきり示すようにした。すると、チームも良い雰囲気で回るように変わってきた。科学者でも引かれるのはキュリー夫人や野口英世のような、偉業を達成しているが人間味のあふれる人。強硬なリーダー像ではない。

「コンサルというと上から提案するイメージがあるかもしれませんが、お客さまには『あなたのサポーターです』という気持ちを最初にお伝えしています。常に成長意欲の高さが求められますが、自分らしく成長すればいいのだと肩の力が抜けたら、仕事が楽しくなりました」

The thing people help and this are human common obligation.
―Maria Sklodowska-Curie―
人々の力になること、これは人類の共通の義務なのです。


●マリー・キュリー(1867~1934)
ポーランドに生まれ、パリ大学で物理学と数学を学び帰国したが、1894年に夫、ピエール・キュリーと出会い拠点をパリに戻す。夫と協力して放射線を研究し、1903年にノーベル物理学賞、1911年にノーベル化学賞を受賞。パリ大学初の女性教授に就任。その後もキュリー研究所やラジウム研究所で研究と後進の育成に力を入れた。
当時の私
大学院を修了し、はかま姿で実験器具の前に。1つのことを突き詰めて研究する日々でした。寝る間も惜しんで研究する仲間たちからも多くの刺激を得ました。人の役に立つことを考え、何度も諦めず試していく姿勢は、今も同じです。