売り手市場の中で採用活動が本番を迎えている。女性を積極的に獲得しようと、ピーアールに躍起になっている企業も多いが、2018年の女子学生はかなり手ごわそうだ。企業選びのキーワードはズバリ「結婚・出産・育児を重視、できれば転勤したくない」――だ。
働き方改革の動きを敏感に察知している彼女たちの視線は厳しい。法政大学キャリアデザイン学部の武石恵美子教授は、「育児をしながらキャリア形成できるかを非常に重視しています。育休などの制度だけでは十分ではないことがわかっている。制度を利用する人がキャリアから外れることなく活躍しているか、しっかりチェックしています」と語る。
転勤についても、「突然の内示では生活設計が見通せなくなるので否定的な学生が多い」と指摘する。
バリキャリではなく、普通の社員に会いたい
就活事情に詳しい採用コンサルタントの谷出正直さんも「結婚・出産・育児」がポイントになっていると指摘する。
「普通に、長く働き続けたいと考えているので、出産後どうなるかを見極めたい気持ちがあります。説明だけでは現実感がないので、実践しているロールモデルがいると、ワーッと群がって話を聞こうとします」
アンケートでも結婚・出産後も働き続けたいと思う学生が90%超、働きがいよりも、働きやすさを重視する学生が56.2%を占めている。
就活中の慶應義塾大学の前田さん(仮名)は、将来はマネジメント志望という意欲的な女子だが、それでも「結婚と出産は絶対にしたいし、その後も働き続けたい。子どもが小さいうちは転勤したくないし、仕事での成功よりも子どもを一番に考えたいです」と本音を明かす。
もちろん企業も働きやすさを盛んにアピールしているが、一方で説明会に出す社員はバリキャリ女性が少なくない。「人事としては、30代後半の管理職が部下100人を束ねて活躍していますとアピールしたいのでしょう。キャリアを積みたい女性にはいいですが、多くの学生は普通に結婚し、育児をしている“普通の社員”に会いたいと思っている。トップ社員を出すと、何かを犠牲にして得たポジションではないかと引いてしまうのです。企業と学生の間や世代間のギャップが非常に大きい時代になったといえます」(谷出さん)
企業にとっては頭の痛い問題だ。働きやすさをアピールしつつ、本音では仕事に意欲的な女性がほしい。
武石教授は「子育てしながら仕事をしているロールモデルは、両立に軸足を置く学生へのアピールになるし、子どもを連れて海外赴任したというロールモデルはバリバリ派にとって魅力的です。求める人材像に応じたモデル提示が必要ではないでしょうか」と語る。
18年の女子就活生の志向は人気企業ランキングにも表れている。資生堂、花王、全日空のトップ3は、働きやすさの実績と発信力も兼ね備えた企業だ。加えて18年はIT業界の人気が高いが、「IT業界はリモートワークなど働き方改革に熱心で、その中でもアクセンチュアは女性が活躍しているイメージづくりがうまい」(谷出さん)という特徴がある。
労働環境で最も意識するのは残業時間だが、アンケートでは「ある程度の残業は厭(いと)わない」人の割合が70%を超える。だが「厭わないといっても月40時間を超えると多いと感じるという調査結果もある」(谷出さん)。
就活中の上智大学の滝川さん(仮名)は「仕事が楽しければ残業時間はそれほど気にしません。でもホワイトの基準は8時ぐらいまで。1日2時間ぐらいなら……」と語る。月に換算するとほぼ40時間。月60時間や80時間残業は問題外だ。
・大手志向
・人気企業志向
・食品、消費財メーカー、IT業界が人気
・働きやすさ重視
・長く働き続けたい
・フツーに働きたい
・転勤したくない
“フツー女子”が企業に求める5つのこと
「できたら専業主婦」が、3割いる理由とは?
女子就活生の話を聞いて驚いたのは人生のリスクに敏感なことだ。9割を超える学生が出産後の就業継続を希望し、共働き志向が強いことがわかるが、なぜ共働きなのか。東京大学の杉原さん(仮名)は、「1人だけだと技術革新が進んでキャリアショックが起きたときのリスクが大きいから」と長期のリスクヘッジに備える。上智大学の滝川さんも、「離婚や死別したら収入がゼロになるのは絶対に避けたい」と語る。
武石教授は、自律的な個人として長期的に人生を考えることは評価できるとし、その背景をこう分析する。
「最近の専業主婦の母親は、少し前の世代と違い、『私はやりたいことができなかったけど、あなたはやりたいことをやりなさい』という人が増えているように感じます。母親は身近なロールモデルなので、どのような行動をとるかはとても重要」
しかし、専業主婦になりたい人も3割強と少なくない。上智大学の高橋さん(仮名)は、「子どもを産んでも働き続けたいと思うけど、正直言って働き続けられるのか不安もあります。専業主婦が楽かもしれないという気持ちもわかります」と語る。
働き続けられなかった場合の選択肢として、「専業主婦」が入るのかもしれない。
実際に大卒後3年以内の離職率が3割という状態が長く続いている。この世代をどう職場で受け入れるかは、重要な課題だ。谷出さんはまず世代の特徴を知るべきだという。
「人間関係のつくり方や情報の伝達をスマホで学んだ完全なスマホ世代で、精神論が通じません。この仕事をやってと指示しても『どうしてこれをやるんですか』と聞いてくる。説明し、納得しないと動きません。また営業でアポを取ってくれとリストを渡しても、『別に電話でなくてメールでもいいし、SNSでつながっていれば、それでアプローチすればいいじゃないですか』と提案してくる。今までは1つの方法しかなかったので、やれ、と言って通じましたが、彼女らは『いろんな方法があるのになぜ受け入れられないのか』と不満を抱くことになる。モチベーションが下がり、辞める人が出てしまうんです」
また、スマホ世代はSNSを通じて小・中・高・大学の横のつながりは幅広いが、上下の人間関係のコミュニケーションに不得手な人も多く、先輩・上司などとの信頼関係を築くのに時間がかかるという。「最初はいろんな人や価値観を知りたいから多くの人と広くつながろうとするが、この人と合わないと思ったら簡単に切ってしまうのです」(谷出さん)
武石教授もそれに近い友人同士の微妙な距離感があるという。
「内定が出ても友人にそのことを言わないケースがあります。同じゼミの子が『彼女はリクルートスーツを着ていませんが、内定取れたんですか』と私に聞いてくる。普通であれば『内定取れて良かったね、どうすればいいのか教えて』という話になると思うのですが。その空気感は独特のものがあります」
たとえ友人でも微妙な距離感を維持しようとするセンシティブな感性を持つ。そんな彼女たちとどのように向き合えばよいのか。武石教授はこうアドバイスする。
「本来の人間関係をつくる努力を惜しまないことです。女性の上司や先輩が『私はきつい言い方をするけど、あなたのことを考えている』ということが伝わっていれば、部下もアドバイスを受け入れ、厳しさもこの人の個性なんだと理解してくれるでしょう。また、何か提案してきたときに、頭ごなしに『あなたぐらいのときは私もやらせてもらえなかった、10年早いわよ』と言うとモチベーションが下がってしまう。本当に10年早いのであれば、なぜ早いのかを説明しないと納得しないでしょう。ライフイベント前に重要な仕事を経験しておくと、育休復帰後の貢献意識が高くなりますから、前倒しで経験させることを検討すべきです。働きやすさ重視というのは、決して甘えているわけではなく、長く働き続けたいという意欲の裏返し。そう理解して、本人にとってポジティブなアドバイスをしてあげることが、信頼関係につながると思います」
入社後の定着を考えるなら、就活女子とのギャップを埋めつつ、彼女らが仕事に本気になれるよう導いていくマネジメントが欠かせない。
価値観激変! 匿名座談会
エリート女子も子育て重視!
就職活動真っただ中のエリート女子たち。2月の時点で、すでに内定をゲットしている人が過半数。彼女たちは、企業をどんな目線で選び、どんな働き方を求めているのだろう。
▼甘えからではなく、働くことに本気だから、「働きやすさ重視」なんです
――就活が本格化しています。どんな状況ですか。
【滝川】17年の5月から動いています。最初は日系企業で働こうと思っていたのですが、夏のインターンシップの後、外資の選考が早く始まり秋に内定をもらいました。なので今はあまり就活していません。
【杉原】私も17年の5月から。日系企業のインターンシップ選考で内定をもらいましたが、今は日系大手の事業会社を見ています。外資系志望の学生は早めに内定が出るので、夏に就活が終わったという子がちらほらいますね。
【前田】私は、昨夏のインターンから始め、一応外資のコンサルから内定をもらっています。今はそこよりも志望度が高い日系企業に絞って就活しています。
【高橋】皆さんすごい。私は日系大手志望ですが、17年のサマーインターンにいくつか応募したけど、どれも2次、3次選考で全滅、気持ちもぐっと落ち込んでしまって。今はがんばって就活しています。
――どんなキャリアを描いて会社選びをしていますか。
【前田】いろんなことに挑戦できる会社がいいですね。多くの事業を手がける会社でいろんな仕事を経験したい。事業が1つでも、たとえば人事をやったら営業や開発も経験したい。いずれは部長、本部長など上の役職でマネジメントをやりたいです。
【滝川】私は営業職志望です。製品が社会に貢献できるか、自分が心から売りたいと思えるかを基準に企業を選びました。幅広い営業経験と複数のスキルを身につけて、転職して外に出ても戦えるようになりたい。
【杉原】私もモノを作って売ることに魅力を感じるので、事業会社志向です。それと仕事を通じて自分自身を変えたいという思いがあります。私は与えられた課題を効率的に着実にこなすのが得意なタイプで、東大によくいる学生だと思う。それが嫌だし、変わりたい。35歳ぐらいで家業を継ぐつもりなので、それまでに経験を積んでおきたいですね。
【高橋】一生キャリアウーマンとして働き続けるかどうかはわかりません。そもそも労働が向いていない可能性もある(笑)。出世路線でバリバリ働くことには不安があります。
【滝川】子どもができても働き続けたいから、働きやすさは重要。そこをアピールする企業はすごく多い。会社説明会で残業が少ないですと言うけど、本当かなと思って聞いている。質問に答えるときのしぐさや表情なども見逃さないようにしています。
【高橋】できれば転勤のない会社がいい。実家は東京ですが、父の転勤で地方に4年住んだけどあまりにも不便だったし、父もそれがきっかけで会社を辞めたんです。都内で勤務できたらいいなと思っています。
▼リスクヘッジのために共働きは当たり前。男の家事力、求めます
――仕事とプライベートとの両立についてはどう考えていますか。
【杉原】友人の中には、バリバリ働きたいから結婚をあまり考えていない人もいますが、私はできれば25歳ぐらいで結婚して子どもも早めにほしい。医療も進んでいるけど、早めに産んだほうが健康リスクが低くなるし。もちろん夫には子育てを手伝ってほしいです。ただ、実家通いの男子はご飯を炊けないほど家事ができなかったりするから困りますね。そこは教育していかないと。
【前田】私も結婚と出産は絶対にしたいし、子どもは2人はほしい。子どもがすくすくと育っている瞬間を見ていたい、というのが一番の夢です。仕事での成功よりも一番はやっぱり子どもかな。もちろん出産後も継続して働くつもりですが。
【高橋】結婚はしたいけど、できなくてもいいかなとも。子どもができても働き続けたい。でも母から「私が専業主婦だからあなたは今の生活ができるのよ」と言われるので、共働きの家庭ってどうなんだろうという不安もちょっとはある。
【杉原】学内には専業主婦になりたい友人はいませんね。結婚して2人で働いたほうがリスク分散になります。どちらかに何かあっても、生計を立てられるようにしておきたい。
【高橋】飲み会で男子が「奥さんには家にいてほしいんだよねー」というようなことを言ったら、女子たちが「生活できるだけの給料を本当に稼げるのか!」と怒って、頭をたたかれていたことがある。上智って女子が強いんです(笑)。
【前田】そんなことを言ったら、大ブーイングだよね。私の友達も結婚しても共働きしたいというのが大半。母は専業主婦ですけど、働いておけばよかったと言っている。離婚や死別を考えると、絶対に自分で生きていく力がほしい。
▼社風や社員の人柄を見極めるために志望企業の社員訪問は何度でも出かけます
――理想の上司像、嫌な上司像というのはありますか。
【前田】ちゃんと一人一人を見ていてくれる人がいいなと思う。インターン中のグループワークであまり話せなかったのですが、後で社員の方からあなたのここを直したほうがいいよとか、あなたの強みはここだと、自分が気づかないところをフィードバックしてもらったときは腹に落ちたし、あまりしゃべれなくても見ていてくれる人がいたと思って、本当にうれしかった。そういう上司ならいいなと思います。
【滝川】入社1年目で転職を考えながら働いている先輩も少なくないですが、その原因は上司との人間関係だったりします。やはり周りに相談できる人がいるかどうかが大事。上司とのワン・オン・ワンの面談が制度としてあるとうまくやれるかなと思うけど、実際は入ってみないとわからないところがあり、不安もある。
【高橋】接客業のバイト先に横暴な女性上司がいました。お客さんに聞こえるような声で「てめえ、早くしろよ」と言われてびっくり。そんな人が上司だったら嫌ですね。正しいことを指導するために厳しくするのはいいけど、独りよがりで叱ることはやめてほしい。たぶん女性の中では、男性上司より女性上司のほうが苦手という人が多いんじゃないかな。
【前田】女性上司でも同性に厳しい人はちょっと嫌ですね。ウチの大学のある女性教授は、なぜか女子学生に厳しい評価をつける(笑)。会社に入っても「何、甘えてるの、私たちは大変な時代を生きてきたのよ」と、私たちの知らないことを言う人は嫌ですね。私もそういう人にはなりたくないと思う。
【杉原】結局、どこを選ぶかというと社風かなと思う。もちろん、これが社風です、と言えるものはないと思うし、逆にこれが社風ですと言われると信用できない。社員の方と会って自分自身が感じるしかないと思って、1社最低3人の社員と会ってどういう社風なのかを判断するようにしています。
【高橋】就活中の友人に100人のOB・OGに会った人がいます。1社で最低10人には会っている計算。長く働いていくことを考えると、それは大事にしたいところですよね。
採用コンサルタント
武石恵美子
法政大学 キャリアデザイン学部 教授