どこにも保証がない時代に突入している
私が新卒で一般企業に入社した1986年は、ちょうど男女雇用機会均等法が施行された年。そのころの日本はバブルまっさかりのイケイケ状態で、誰もが明るい未来が待っていると思っていました。
しかしその後バブルははじけ、日本は長い不況のトンネルに入り、労働環境は激変しました。特に変わったのは、ITやAI(人工知能)の大幅な進歩によって、業務の生き残りが問われている点。この潮流は単純作業、事務作業に顕著です。今
後、先端テクノロジーの導入のスピードがどんどん早まりそうですし、企業の栄枯盛衰も激しい。今調子がよくても、5年先、10年先も安泰でいられるか、どこにも保証がない時代に突入しています。だから自分の現状のキャリアを3年、もしかしたらもっと短いスパンで見直してもいいかもしれない、と私は思っています。
しかし、大抵の人はドラスチックに「キャリアの転換だ!」「起業だ!」といって、すぐに大胆な行動に移せるものではありません。自分が勤めている会社でリストラ等が起きてはじめて、ピリピリとしたものを肌で感じるわけです。そのときに「打つ手なし……」と途方にくれないように、常にウオーミングアップをしていることが大事。つまり、来るべき変化に柔軟に対応できる知力、体力、精神力をつけておくことがポイントになってきます。
目の前の仕事を工夫してみる
まずは、小さなことからスタートするので十分。毎日、新聞を読んで世の中の流れを知る、勉強会、セミナー、趣味の集まりに出てみる、SNSで新しい友人とのコネクションをつくっておく、などなど。ボランティア活動で相手を見つけて結婚し、夫婦で起業したというエピソードも聞いたことがあります。婚活とキャリアチェンジができて一石二鳥(笑)。また毎日の仕事の小さな効率化を考える訓練をしておくと、より上流の仕事に携わるチャンスが訪れます。小さなことの積み重ねが、やがて大きな力となって、次のステージに上がる原動力となるのです。
もし会社や業務に対して漠然とした不安があるのなら、まずは自分を理解してくれる周囲の人(社内や社外のメンター)や信頼できる友人に相談し、気持ちを吐き出してしまいましょう。そうすれば、自分の中で、もやもやした不満や不安の輪郭がはっきりしてくる。プロのキャリアカウンセラーと面談するのも選択肢のひとつです。アカの他人のほうが、気持ちを吐露しやすい場合もありますし、守秘義務もあるので、誰かに知られるリスクもありません。
転職を考えているならば、会社を辞めずに転職エージェントに登録しておくのも一手でしょう。“本当に使える人材”や女性管理職の不足という背景があり、企業からスカウトが来る時代です。そういったオファーに対してじっくり考えるのもアリです。そのとき転職につながらなくても「世の中のニーズ」や「自分の市場価値」がわかって、未来でのシフト転換がよりスムーズになるはず。
エージェントに仲介してもらったり、スカウトを受けたりするためには、キャリアの専門性だけでなく、自己の資質に対しての理解を高めて、さらに研鑽(けんさん)することが大事です。たとえば判断力、コミュニケーション能力、交渉力、統率力などの「ヒューマンスキル」は、どの組織でも必要なこと。物事の本質を見極め、ビジネス上の問題を解決する「コンセプチュアルスキル」も身につけておいたほうがいいですね。
スカウトは、会社の中にもある
さらには社内異動を希望する、または受け入れることも「見直し」となります。同じ会社でも、部署によっては別会社のように雰囲気が異なる場合もあるので、どうしても部署内の人間関係に耐えられない、業務内容に不満を感じるときなどは、異動願いを出してみるのもいいでしょう。自分なりに日ごろから努力していれば、他部署から引き合いがあるかもしれません。つまり、スカウトは外の会社だけではなく、身近なところにもあるのです。
新たな可能性を模索するという視点では、兼業や副業を考えるのも悪くないですね。最近ではロート製薬が、副業を許可する、他部署での業務の掛け持ちを許可するという大きなトピックスがありました。特に副業公認の動きは話題を呼び、今後追随する企業が増えそうですが、現段階ではまだまだ少数派。だから、本格的な副業探しよりも、余った時間でできるお小遣い稼ぎから始めてみるのがおすすめです。
さらにはPC、スマホ、ファクスなどの機器があれば、全国どこにいてもできるテレワークも、今後可能性が大きくなりそう。親の介護や結婚などで、今いる場所を離れなければいけない……、そのときに現在の業務をどこにいてもできる状態にしておけるといいですよね。特に親の介護は誰もが直面する可能性があるので、テレワークができる環境にしておくことはとても重要です。まずは「あなたがいないと、この業務は進められない」という信頼関係を会社内に築くこと。今後2、3年ぐらいでテレワークに移行するような計画を立てておいても。
「普段はコツコツと活動をして、いざ事が起きたら柔軟に対応する」という心構えがあれば、どんな時代でもサバイブできます。今見えている世界だけで判断せず、先読みできるチカラを蓄えるためにも「見直し」が必要なのです。
テクノロジーの進化
AI(人工知能)、VR(バーチャルリアリティー)の導入で、我々人間の仕事の一部がこれらに代わっていくことで、労働の形態がどんどん変容していく。特に事務、肉体労働などの単純作業はオートメーション化される可能性が高い。
働き方改革
労働人口の著しい減少に伴い、育児中の女性や高齢者でも労働市場で活躍できる社会にしようというもの。長すぎる労働時間の短縮、正規社員と非正規社員との労働条件格差の是正、仕事と子育ての両立などを掲げている。
パラレルキャリア
多くの日本企業は本業以外の業務は認めていなかったが、兼業や副業OKの機運が高まっている。リストラ、企業が社員を定年まで面倒を見きれないリスク、定年後の収入ダウンなどに備え、本業以外の“食いぶち”を確保する必要も。
人生100年時代
日本人の平均寿命は今後も延び、“長すぎる老後”を迎えることが予想される。定年が延長され、年金支給開始年齢が引き上げられると60歳以降も働く可能性が高いが、賃金の上昇は望めそうもない。価値の高い働き手でいる必要あり。
キャリアカウンセラー
がんばれ工房主宰。1963年生まれ。86年コニカ(現コニカミノルタ)入社。退職後、人材紹介会社勤務を経て、人材開発協会認定キャリアカウンセラー、産業カウンセラーなどキャリアのホームドクターとして活動。