仕事や私生活での「モヤモヤ」を、識者が解決する「プレジデントウーマン」の好評連載。今回の回答者はクレディセゾン代表取締役社長の林野宏さんです。

【今回のご相談】
法務部の管理職です。ここ2年ほど、1人で男性の部下を育てていますが、何度言っても細かいミスを繰り返したり、法的な根拠を曖昧にしたまま依頼部門へ回答したり……。事前の相談を促したり、その場で注意しても効果が感じられません。異動が望ましいのでしょうが、社内の人材は限られているし……毎日モヤモヤしています。[43歳・メーカー・J]

仕事にまったく向いてない人への接し方

2017年末、総務省が発表した日本の完全失業率は2.7%でした。アメリカが4.1%、ドイツが3.7%、フランスが9.4%、イギリスが4.3%ですから、先進国の中でもかなり低い水準です。

林野 宏●1942年、京都府生まれ。埼玉大学文理学部を卒業後、西武百貨店(現そごう・西武)入社。82年、西武クレジット(現クレディセゾン)に転籍し、2000年6月より代表取締役社長に就任。

失業率が下がると、スキルのある人はより条件のいい会社を選べるようになるし、会社もスキルに応じた報酬を支払う。日本はいずれそういう時代になっていくでしょう。市場が縮小している今、会社は適性のない社員を何年もかけて育てていく余裕はありませんからね。

しかし、あなたの会社ではまだ「20世紀型」のローテーション人事が適用されているようですね。社員の適性を考慮せず、「とりあえず」人手の足りない部署にあてがった結果、今の問題が起きているのではないですか?

部下の男性は、法務の仕事には向いていないと思います。2年間改善しないなら、おそらくやる気もないでしょう。法務の仕事は、適性のない人には苦痛だろうと想像します。私だって、明日から法務の仕事をしろと言われたら抵抗しますよ(笑)。

こういうミスキャストを防ぐのは人事の仕事なのですが、上司として打つべき手はまだありますよ。

ランチで相手のファクトファインディングをする

仕事上の注意を促すよりも、相手の気持ちを知ろうとしましょう。頭の中でモヤモヤと考えているだけでは、何も解決しません。彼は何がしたくてこの会社に入ったのか。どういう部署を経験してきたのか。法務部に来たのは自らの意思だったのか。相手の中にある事実を掘りおこす“ファクトファインディング”をしないと、対応策は出てきません。

ただ、女性の上司に対して構えてしまう男性も中にはいます。知識が曖昧なまま仕事を進めてしまうのは、弱みを見せたくないと思っているせいかもしれない。この状態は、お互いにとって不幸だし、会社にとっても大きな損失です。

今度、その部下を食事にでも誘ってみたらどうですか。夜に誘うとあらぬ誤解を招くかもしれないから、ランチがいいですね(笑)。クレディセゾンでは、さまざまな社員アンケートを定期的に行っていますが、「あなたが幸福を感じるときは?」という質問に、70%以上の人が「おいしいものを食べているとき」と答えました。おいしい食事は人の心をなごませます。食べながら雑談をして、笑い合う時間ができれば部下の本当の適性や希望といった相手のファクトが見えてくるはず。対応策を考えるのはそこからですよ。