人に自分の意気込みを語るとき、どのような声で表現すればいいのか。元NHKキャスターでスピーチコンサルタントの矢野香さんは「一文を一息で言い切ることが大事」と話します。雑誌「プレジデント ウーマン」(2018年2月号)の好評連載から、その具体的な声の出し方を紹介します――。

一文を一息で言い切ると自分の思いを力強く伝えられる

「2018年こそ、この目標を達成するぞ!」と新年の抱負を胸に張り切っている方も多いことでしょう。新年というのは、新しい自分に生まれ変わるチャンスです。しかも自然に。「生まれ変わる」と言うと「急に変えると周りがびっくりしませんか」とよく質問されます。しかし、新年なら突然に変えても問題なし。なぜなら「私は今年、変わります!!」と、すべて新年のせいにできるからです。このチャンスを逃さず、なりたい自分を軽やかに宣言しましょう。

ただし、せっかく宣言してもその言い方が弱々しかったり、迷いのある言い方だと、かえって頼りなく見えてしまいます。ですから今年は「未来のなりたい自分」を言葉で伝えるだけでなく、その目標を「どんな言い方で伝えるか」についても考えてみましょう。どんな言い方をするかは非言語表現のスキルです。

写真=iStock.com/violet-blue

非言語表現には、相手の目に映る“身体非言語”と、相手の耳に入る“音声非言語”の2つがあります。

新しい自分に生まれ変わるときには、声の調子を変えてみる、あるいは意気込みを声で表現する、などの“音声非言語”の工夫が大切です。

今回ご紹介するのは、意気込みを語るときにおすすめの声の表現、一文を一息で言い切る=一文一息という方法です。この方法で話すと、自分の思いを力強く伝えることができます。反対に、話している途中で息継ぎをすると、その言葉は弱くなります。

「一文50文字以下」を心がける

たとえば「今年は自分を磨いて、もっとスキルアップできるように頑張ろうと思っていて、英語を身につけたいと、思っているんですけれど、なぜかというと、この前、海外出張に行ったときに、通訳に頼ってばかりで、現地のスタッフには自分の考えをもっと自分で語れるようになりたい……」と、途中で何度も息を吸いながら言葉をつないでいくと、どうでしょう。聞いているほうは「そんな頼りない口調では、目標達成は無理だろう」と思ってしまいます。

同じ内容でも一文一息で話すと伝わり方が変わります。「今年は自分を磨きスキルアップします」と一気に一息で言ってしまうのです。そして「なぜなら、海外出張で通訳に頼ってばかりだったからです」「現地のスタッフに自分の考えは自分で語りたいのです」というように続けます。そうすると「一文を短くする」こともできます。具体的には一文50文字以下が適当です。一文を短くしゃべっているつもりでも、ついダラダラと長くなりがち。そこで“一文を短く”と考えるのではなく、“一文一息”と考えてみるのです。

息が切れたら、そこで言い終わることをおすすめします。とにかく一文をしゃべりだしたら息継ぎしないことです。たとえば「今年は自分を磨いてもっとスキルアップできるように頑張ろうと思っていてたとえば……」とここで息が苦しくなったとします。そのときは「たとえば」で止めてしまいましょう。そうすると相手は「たとえば何?」と、聞いてくれるでしょう。そうしたら、話を続けて「英語を身につけたいと思ってるんです」と、1つの息で1つのセンテンスを語ります。

しゃべっているときに息を吸わないということを意識しながら続けていくと、ふだん自分がいかに息を吸いながらしゃべっていたかということを自覚できるでしょう。このように一息でしゃべることで、結果的に一文50文字程度にまとまり論理的な話し方にもなります。

新年は、ぜひ自分の今年の目標や志をこの“一文一息”で言い切りましょう。イメージは大声大会。声の大きさを競って叫ぶ大会で「○○さんが好きだー!!」などと言っているニュースを見たことがありませんか。これが本気で言っているように聞こえるのは、一息で声がのっているからです。もし「○○さんのことがー好きなのでーよかったらー僕とーつき合ってくださーい」と長く叫んだらどうでしょう。まず声の大きさも小さくなってしまいますし、自信がなさそうに聞こえます。

相手に「直球」を投げ込むように話す

そのときに、ぜひ意識してほしいのが“声の見える化”。口から出た声が、ボールのように軌跡を描いて相手のところに届いている、そんなイメージで話してほしいのです。この声の届き方には3パターンあります。

1つ目は声が全方位に広がる“拡散型”です。声が大きくすごく元気よさそうに聞こえるのが特徴です。しかし残念ながら聞こえているだけで、相手の心には届きづらい声です。これは司会者や学校の先生など人前でしゃべり慣れている人に多いタイプです。

2つ目は“直球型”。これこそ新年の宣言にぜひ使っていただきたい理想の声です。相手に直球で声を投げるイメージです。

最後の1つは、最後に声が小さくなって相手に届かない“落下型”。ここでは論外ですね。声の届き方はこの3つのタイプにわかれます。

イラスト=アヤコオチ

「話し方が怖い」と言われる人は直球型

日常では、これら3つの声の届け方をすべて場面によって、うまく使いわけるのが上級編です。最初は拡散型の声で元気に明るく登場し、核心に迫るところでは直球型の声で話す。

「そうはいっても、みなさん信じられないですよね」などとネガティブ気味のところでは、わざと落下型の声でしゃべる。そのあと「でも、ご安心ください!」とまた拡散型の声に戻る。とはいえ、いきなり上級編は難しいので、まずは一文一息を直球型の声で実践してみましょう。このときの注意点は、飛距離が足りず相手に届く前に落ちてしまい、“落下型”にならないようにすること。物腰柔らかく言っているつもりが、落下型になっているという女性が多いので気をつけましょう。

このように、自分の声がどのような軌跡で相手に届いているかを意識するのが“声の見える化”です。実際に同僚や友人に自分がどのタイプか教えてもらうのもよいでしょう。たいてい「声が小さい」と言われる人は落下型ですし、「話し方が怖い」と言われる人は直球型。「元気だ」と言われる人は拡散型です。

18年はぜひ“声の見える化”を意識して、自分の意気込みを周囲に直球ストレートの声で届けてください。あなたの目標を応援してくれる人が増えるはずです。

矢野 香
スピーチコンサルタント
長崎大学准教授。NHKキャスター歴17年。心理学の見地から「他者からの評価を高めるスピーチ」を研究し、博士号取得。政治家、経営者からビジネスパーソンまで幅広い層に信頼を勝ち取る正統派のスピーチやコミュニケーションを伝授。