「何気なく手に取った一冊で、人生が変わった」。そんな経験のある人は多いのではないでしょうか。雑誌「プレジデント ウーマン」(2018年1月号)の特集「いま読み直したい感動の名著218」では、為末大さんや西野亮廣さんなど11人に「私が一生読み続けたい傑作」を聞きました。今回はその中から一般社団法人 プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会 代表理事の平田麻莉さんのインタビューを紹介します――。

「人は何のために働くのか?」問われて深く考えたこと

将来は、社会問題を解決する新しい手段を生み出したい。企業に就職して“○○会社の平田さん”になるよりも、自分の名前で仕事をしたい。大学に入った当初からそう思っていました。私のいた総合政策学部自体が変わり者の集まりだったことと(笑)、アナウンサーだった母が、結婚後はフリーランスとして、家庭を最優先にしながら自分の名前でマイペースに仕事をする姿を見ていた影響もあるかもしれません。

そんな大学時代にゼミで知って手にとったのが『ザ・ワーク・オブ・ネーションズ─21世紀資本主義のイメージ』。この本が書かれたのは1991年ですが、将来、テクノロジーの進歩とグローバル化で、なくなる仕事があることや、今後どんな人が活躍していくかが先取りして書かれていました。“一人一人が知的でクリエイティブなプロフェッショナルを目指さなきゃいけない”という点は「確かに」と思い、私も社会にどのような価値を提供し、貢献できるのかを自覚的に模索して、キャリアを築く必要があると感じました。

▼「幸せって何だと思う?」と片っ端から聞きました

人は何のために働くのかなど、ゼミの恩師から投げかけられる本質的な問いを議論するうちに、“人の生きる道”みたいなものも深く考えるようになって。卒論のテーマを「幸福論」に決めて、ヨーロッパを1カ月間バックパックで旅行して、出会う人に片っ端から「幸せ(豊かさ)って何だと思う?」と聞いて回るフィールドワークをしたんです。

一般社団法人 プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会 代表理事 平田麻莉さん

答えは出身国や環境によってさまざまで、冬は曇りばかりのスイスに住む友人は「冬に太陽が見えるところに住んでる人が一番ぜいたくだ」と言い、アメリカ出身の友人は「何千ドルをスペンドできる起業家になること」と答えます。私の結論は、幸せのあり方は人それぞれで、ささやかなことにでも幸せを感じ、感謝できる感受性を持っている人が一番幸せなんだ、ということでした。

そういう前提で社会や経済成長を見ると、一人一人が主体的に自分の人生や豊かさについて考えることはとても大切です。日本は“べき論”が強い国ですが、こうあるべきという規範やロールモデルに自分を当てはめる必要はなく、多様な働き方や幸せがあっていい。ライシュの本にも背を押され、今私がしているのは、そんな生き方を応援する活動です。

2018年の1月に、フリーランスが働きやすい環境をつくるために設立したプロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会は、現在、無料のメルマガ会員が3500人、年会費1万円で福利厚生や保険が利用できる一般会員が350人います。フリーランスを手始めにしていますが、会社員でも副業を持ち、自分のキャリアや人生に自律的に向き合う流れがムーブメントになれば、幸せのあり方がより多様化できるのではないかと考えています。

働きながら4歳と1歳の子育てをする女性の「バイブル」

私は出産を機にフリーのPRプランナーとして独立して以来、家事代行マッチングサービス「タスカジ」や、仕事で培ったさまざまな知見を1時間単位で売れる「ビザスク」の広報をはじめ、いくつもの業務を並行しています。4歳と1歳の子育てをしながら時間をどうやりくりしているの? と聞かれますが、私自身はあまりたいへんではないんです。学生時代からかけもち癖があって、サークル4つとゼミ2つに入り、バイトもしてましたから(笑)。目標があったり、その活動によって自分が社会に少しでもいいインパクトを残せたりするのなら楽しいですね。

(左)『ザ・ワーク・オブ・ネーションズ─21世紀資本主義のイメージ』ロバート・B・ライシュ(ダイヤモンド社/2136円)、(右)『子どもが育つ魔法の言葉』ドロシー・ロー・ノルト(PHP文庫/552円)

とはいえ、慌ただしい日々の中では、子どもが話したがっているのに「後にして」と後回しにしたり、「早く靴下はいて!」などと言ったりしてしまうこともあります。そんなとき、反省のために開くのが『子どもが育つ魔法の言葉』です。冒頭の「子は親の鏡」という詩を母が子育ての指針にしたそうで、1人目を妊娠中、「あなたも読みなさい」と言って渡されました。

この本には、子どもにどういう接し方をすれば自己肯定感や世の中に対するポジティブな見方が育まれるかが書かれていて、その考え方は私自身の思いともリンクしています。子どもには、人間全般に対する信頼感や好意、尊敬を持ってほしいですし、1日1回大笑いできればすごく幸せと“幸せの閾値(いきち)が低い子”に育てたい。定期的に開いてその基本に立ち返れるように、この本をいつもそばに置いています。

▼Recommended MOVIE
『ラブ・アクチュアリー』
監督:リチャード・カーティス
2003年・アメリカ
クリスマスを題材にしたロマンチックコメディー映画。さまざまな登場人物の恋物語を描く。「幸せな気分になりたいときにおすすめ。この世界は良い場所だな、人間って素晴らしいな、生きてるだけで幸せだなと思わせてくれます」
平田麻莉
一般社団法人 プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会 代表理事
大学在学中にPR会社ビルコムの創業期に参画。国内外50社以上のPR戦略立案・実行に携わる。現在はフリーランスとしてタスカジやビザスクの広報責任者を務めるほか、幹部人材育成の教育開発、翻訳などを行う。