企業の経営幹部や管理職を養成する講座では、どんな本を薦めているのか。雑誌「プレジデントウーマン」(2018年1月号)では4社に取材。今回は、化粧品製造販売ポーラ・オルビス ホールディングスと、建築材料・住宅設備機器業界最大手LIXILで実際に使っている本5冊を紹介しよう――。

「ポーラ・オルビス ホールディングス」の経営幹部養成講座の場合

人が読んで付箋びっしりの本を他の人が読む

「経営幹部養成講座では、取り組みの1つとして、各自が月に5冊以上の本を読んで互いに紹介し合っています。今回の3冊は、そのメンバーの多くが選んだものなんですよ」

(左)コーポレートコミュニケーション室 広報担当 尾関まりなさん
(中)人事企画室 高橋有紀さん
(右)人事企画室 課長 山本史織さん
経営幹部養成講座で人気の3冊
▼『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』

山口 周 光文社新書/760円
▼『なぜ人と組織は変われないのか』
ロバート・キーガン、リサ・ラスコウ・レイヒー 英治出版/2500円
▼『ジョブ理論』
クレイトン・クリステンセン ハーパーコリンズ・ ジャパン/2000円

そう言って、講座を運営する人事企画室の山本史織さんが見せてくれた本には付せんがビッシリ。この講座は管理職の中から毎年4、5人を選抜して行われるもので、メンバーは会社の将来を担う可能性を秘めた人ばかりだ。そんな彼らのほぼ全員がイチオシ本として挙げたのが、イノベーション研究の第一人者が書いた『ジョブ理論』。

「モノが売れるとはどういうことか、その考え方を多面的に学べる1冊です。マーケティングに携わる人にとって必須の視点が詰まっているので、皆がそろって推すのも納得ですね」

各自が読んだ本を持ち寄り「回し読み」する

また、ビジネスにおける美意識の大切さを説いた本が選ばれているのも印象的。現在、同社では社員一人ひとりの感受性と美意識を高める取り組みを進めていて、鈴木郷史社長の推奨本にもなっているのだとか。

「読んだ本を持ち寄る取り組みは、社長の発案で始まったものなんです。お客さまの心を揺さぶるサービスを目指すなら、社員にも心を揺さぶられる体験が必要で、それには読書が役立つはずだと。もともと大変な読書家なので、社長自身も本を持参して出席しています」

化粧品ブランド「POLA」と「ORBIS」を基幹として日本、アジアをはじめ各国で事業を展開。企業理念に「感受性のスイッチを全開にする」を掲げ、人材育成に取り組む。

本は教養を深め、視野を広げ、感受性を高めてくれるもの。しかし、研修で本を持ち寄ることのメリットはそれだけにとどまらない。各自が持ち寄った本はメンバー間でシェアするため、互いが読んだ本の「実物」に触れることができる。先に読んだ人が付せんを貼っていれば、その人がどこに心を揺さぶられたのかがよくわかるのだ。

「そこが面白くもあり恥ずかしくもあり(笑)。でも、付せんを通して人のモノの見方を吸収できるので、メンバーにとっては新しい視点の獲得や自己発見の助けになっているようです」

同じ本を読んでも、そこから得る気づきは皆同じとは限らない。本だけでなく気づきまでシェアするこの取り組みは、社員の成長を大きく後押ししてくれそうだ。

「LIXIL」の経営幹部養成研修の場合

2泊3日 経営幹部を養成する研修は特にハード

課題設定能力や解決力などを磨くプログラムに加えて、2泊3日のワークショップを半年に4回。LIXILの階層別研修のうち、経営幹部を養成する研修は特にハードなことで知られている。毎年、事業や部署を超えて選ばれた部課長24人が集まり、共に学びながら成長を目指す。

(左)日本人事総務本部 人材開発部1グループ グループリーダー 木村恭之さん
(右)広報部 根本弥生さん
管理職を目指す人のための必読書
▼『イノベーションのジレンマ』

クレイトン・クリステンセン 翔泳社/2000円
▼『日本のイノベーションのジレンマ』
玉田俊平太 翔泳社/2000円

「経営幹部候補として視座を高めてもらいたいので、この2冊は参加者全員に読んでもらっています」と、研修を担当する木村恭之さん。経営幹部には事業や組織をどう変えるか、そのためにどう行動すべきかまで考える力が必要とされる。その手助けにと選んだのがクレイトン・クリステンセン教授の『イノベーションのジレンマ』だ。

「当社は一定の成功体験を持った事業の集合体。安定力はありますが、だからこそ『このままでいいのか』とモヤモヤしたジレンマを感じることがあります。この本はそうしたジレンマを解き、解決のヒントまで教えてくれる。15年以上前の本ですが、今も色あせない名著です」

著者を招聘してディスカッションやレポート作成

『日本のイノベーションのジレンマ』は、同教授の教え子である玉田俊平太氏の著書。教授の理論をよりわかりやすく、日本の事例を交えて紹介しており、入門編としても最適だ。2017年には研修の一環として玉田氏の講演会も開催したそう。

「とても好評だったので、今後も続けていきたいですね。研修では、読書や講演後にレポート作成やディスカッションも行います。インプットした知識を自分なりに解釈し、言語化してアウトプットする。学んだことを整理し定着させるには、この繰り返しが大切だと思っています」

戸建住宅・マンションからオフィスや商業・公共施設まで幅広く建材・設備機器を提供する総合住生活企業。人材育成を重視し、新人、管理職、部門別などの研修を行う。

読書や講演は研修の一部にすぎないが、これをきっかけに思考が変わる参加者は多い。どの研修でも、木村さんの目標は「行動を変える」こと。思考を変えることは第1目標で、最終目標はそれを事業に反映する、つまり行動してもらうことだ。

「成長していくには学び続けることが大事。そのためには読書が欠かせないと思うんです。研修に本を取り入れているのは、読書習慣を身につけてほしいという思いもあってのこと。ビジネスパーソンとしての成長、人間としての成長に、読書は必ず役立ってくれるでしょう」