自分でも持て余すほどの怒りを感じていた
企業研修の講師(トレーナー)として、経営層から内定者まで、さまざまなステージのビジネスパーソンに向けて研修や面談を行っています。働く人をサポートし、その成長を喜べるのはこの仕事の醍醐味です。
ただ、やりがいが大きい分、準備には時間がかかります。何社も並行して担当するため、頭のなかは常に仕事のことでいっぱい。たとえば次の出張について考え始めると、気になることが芋づる式に出てきてあっという間に30分が過ぎていた、ということもよくありました。
「来週の準備がまだ……」「航空券は予約した?」「報告書、仕上げなきゃ」「メールの返信、遅れてる!」……。ずっと仕事のことを考えているわりには、思考があちこちに飛んで整理ができない。ソワソワと落ち着かない気持ちが残るばかりで、決していい状態ではないことは感じていました。
同時に気になっていたのは、自分でも持て余すほどの怒りっぽさ。ふつふつと込み上げてくる怒りを抑えるどころか、どんどん油を注ぐように炎上させてしまいます。
たとえば仕事のパートナーである若手社員に対して、「なぜこのタイミングまで報告がないわけ?」でスイッチオン! そこからはとめどなく怒りが広がって、「彼女の上司は何してるの? 教育ができていない!」「そもそも知識不足が原因では?」「彼女にはこの仕事は早すぎる!」。怒りが加速して立ち止まれず、若手社員を泣くまで叱ってしまったことも……。
意思とは関係なく暴走していく感情、思考に気づき、それを落ち着かせるすべを得たことは、マインドフルネスからの大きなギフトです。先日、私の怒りの犠牲となった若手社員の様子を、耳にしました。本質をおさえて意見が言え、お客さまからの信頼も得ている、と。それを聞いて、心から「よかった、うれしい」と伝えることができました。
以前の私なら、「まだそこまでは無理でしょう。甘やかしちゃダメですよ!」と、怒っていたかもしれません。過去の経験や先入観にとらわれず、素直に聞き、それを喜べたこと。瞑想や呼吸法を通じて、今、ここに集中する訓練を重ねてきたことが、実を結び始めていると感じられた瞬間でした。
5分間、相手の話をさえぎらずに聞くこと
マインドフルネスを学ぶなかで、話を聞くことが苦手な自分も発見しました。レッスンのなかに5分間、相手の話をさえぎらず、ただひたすら聞くセッションがあります。これが私にとっては地獄の苦しみだったのです。
会話の最中でも、無意識のうちに次の質問を考え、めざすゴールに導くためのアドバイスを組み立ててしまう。カウンセリングや研修には不可欠な能力で、自分の強みであるとすら思っていました。それがその実、心ここにあらずで、相手の話を十分に聞けていなかったことに衝撃を受けました。
「ただひたすら聞く」ことはテクニックではなく、コミュニケーションの本質を教えてくれるもの。そこに気づけただけでも、小さな1歩です。
マインドフルになれないときももちろんあるけれど、そんな状況も受け止めながら、自然体で毎日に取り入れられたらと思っています。
マインドフルネスに出合うまで
▼大学卒業後、約10年間
飲料メーカー勤務を経て、スポーツジムのインストラクターに。
▼2001年
夫の会社を手伝ううちに、組織のなかで働きたいという気持ちが芽生え、リクルートマネジメントソリューションズのトレーナーに。
▼2015年
米企業が主催するEQやレジリエンスのプログラムライセンスを取得。マインドフルネスという言葉に出合う。
▼2016年5月
アメリカで開催された人材開発のイベントで、マインドフルネスのクラスを受講。
▼2017年
Googleのマインドフルネスプログラム「Search InsideYourself(SIY)」に参加。
▼2017年4~7月
マインドフルネスのコーチング講座を受講。
(1)飛行機での移動中に瞑想
(2)研修後の会場で短時間の瞑想