営業職女性の7割が営業の仕事が好きと答えているのに、続けたい人は3割に満たない。管理職になりたい人は2割程度と低く、男女差が浮き彫りになった。その理由とは?

時間の観念が1番大きく影響

新世代エイジョカレッジ(エイカレ)では過去2年間の活動から、営業女性が活躍に壁を感じる2大要因として、長時間労働であること、キャリアとライフの先が見えないことが整理されてきていました。しかし、こうした不安は女性特有なのか、また上司とのギャップがどの程度あるのかを検証したことはありませんでした。そこで今回、アンケートを実施し統計的に分析することになったのです。

エイカレ白書とは?

エイカレは、営業部門における女性の活躍を進めるべく2014年にスタートしたプロジェクト。昨年7月のフォーラムには20社から200人が集まりました。このフォーラムに参加した営業女性(主に20~30代)、その上司(40代前後)、同期前後の男性営業職約150人ずつにアンケートを実施、統計的に分析しました。

まず、結果を見て1番興味深かったのは、営業女性たちは同期前後の営業男性たちに比べ、営業が好きなのに続けたいと思えず、営業の管理職になりたいとも思えていないという点です。営業が好きかどうかを「とてもそう思う」から「全くそう思わない」に6段階評価して、上位2段階を答えている人の割合を見ると、女性は69.3%と男性を上回っています。

エイカレに参加する女性は、参加各社から選抜されているので、一般の営業女性より「営業が好き」の度合いは高いかもしれません。しかし、このモチベーションの高い女性たちでも「続けたいか」と問われると3割弱に減ってしまう。管理職になりたいかと問われると、さらに減ります。これに対して男性は女性ほど「続けたい」割合が減らず、「管理職になりたい」にいたっては「続けたい」よりも増えています。

やはり、女性特有の要因が潜んでいそうです。そこで、どんな要素が「続けたい」「管理職になりたい」という意識に影響しているのかを男女別に分析してみました。労働時間、接待の回数、時間外対応の頻度などとの相関を探ってみましたが、統計的に有意な差は出ませんでした。

つまり、現状で長時間働いている人ほど「続けたくない」と思っているわけではない。ところが営業という仕事についてのイメージ約20項目との相関を探ると「続けたい」「管理職になりたい」に影響してくるものが浮かび上がってきました。

1番大きく利いているのが時間の観念です。「子育てとの両立が難しい」「短時間勤務は顧客に迷惑がかかる」と思っていない人ほど、また「時間の融通が利く」と思っている人ほど、続けたい、管理職になりたいと思える。この項目は男性にも質問しているのですが、男性はほとんど影響がありません。男性は「短時間勤務は迷惑」だと思っていても、それが「続けたい」「管理職になりたい」という気持ちには影響していないというわけです。自分事ではない、ということかもしれません。

さらに興味深いのは、そもそも女性のほうが、こうした時間の観念が強いということです。エイカレに参加した営業女性の大半は子どもがいませんが、将来の子育てとの両立を不安に感じている様子がわかります。属性にかかわらず4割が「内勤やスタッフ業務に比べて、時間の融通を利かせやすい」とは思っているのですが、「子育てとの両立が困難な仕事だ」と思うかどうかは男性、そして特に上司とは大きな差がついています。身近にロールモデルがいないことで過度に不安に感じている可能性もあります。

エイカレサミットに来場した管理職にその場でアンケートを取ったところ、彼らからも「管理職が実態をわかっていないだけでは」という反応がありました。

なぜ、上司は子育てとの両立を難しいと思わないのか?(上司の回答)
(1)実態をよく理解していないから……16ポイント
●実情がわからず、軽く大丈夫だと思っている
●当事者意識がない
●部下を見ていない など

(2)子育ての大変さがわかっていないから……16ポイント
●実際に子育てをあまりしていない
●母親の苦労を理解していない
●子育てのイメージが足りない など

(3)組織でサポートすると考えているから……7ポイント
●周囲がサポートする
●チームで対応する体制になっている など

上司がすてきに見えるかが、部下の将来を左右する!?

時間の次に大きい要因だったのは、管理職がどのように見えているかです。これは男女ともに、「管理職がやりがいがあるように見える」ほど「続けたい」「管理職になりたい」と強い相関が出ています。これはある意味で当たり前かもしれませんが、管理職がすてきに見えることが部下にとって大事ということでしょう。

2月に開催されたエイカレサミットには、営業女性たちの上司も参加し、熱心に考え込む姿も。

また、上司から期待されていると感じるか、ということも、女性にとってのほうが継続や昇進意欲を上げるうえで大事でした。それにもかかわらず、女性は、上司から期待の言葉をかけてもらっているとはあまり思えていないし、心から期待されているとも思えていない。その背景として、上司に「難易度の高い仕事を女性部下に/男性部下に任せていますか」という質問をすると、男性部下により多く振っているという回答になっています。

これに加え昨今、「無意識の偏見」というキーワードが取りざたされており、無意識のうちに男性にばかり責任の重い仕事を任せているということも起こっている可能性があります。こういうところから、女性は期待されていないと感じていると考えられます。

どのような上司が男女差をつけているかというと、「女性営業は顧客に敬遠されている」「管理職は家庭を犠牲にしなければならない」などの観念が強い上司だというデータも出ています。

仕事以外の時間が大きな価値になる

顧客から女性/男性が歓迎されていると思うかについては女性のほうが大きく影響するということがわかりました。

一方、男性だけに影響する要因もあり、転勤や接待などの重要性を感じている男性ほど営業を続けたい、管理職になりたいと思っていることがわかりました。男性は既存の方法を受容していると思われます。

これらの調査から見えてきたことは、1つはやはり営業女性の活躍には時間の観念を乗り越える必要があるということ。もう1つは、上司と女性部下の認識ギャップをいかに埋めていくかということだと思います。このエイカレサミットでは、これらの問題について解決の糸口となりそうな事例が報告されました。

「長時間労働をしなくても大丈夫」と思える働き方や枠組みは、営業女性の活躍に必須です。それに加え、仕事をしている以外の時間での家庭、地域などでの経験や視点がむしろ価値になるという事例がいくつも出てきて、これからの営業女性の活躍に大きな可能性を感じました。