セケイラさんは2015年に、世界的な製薬会社であるイーライリリーから武田薬品工業に移り、USビジネスユニットのプレジデントに就任。全米をまとめる責任の重さはいかほどかと思うが、「挑戦の機会に恵まれ、すごく楽しんでいる」と溌溂(はつらつ)としている。
2016年は炎症性腸疾患の薬と抗うつ剤をアメリカ市場に投入した。
「患者さんにとって最大の価値を提供するため、古い製品のリソースを2つの新製品に振り向けました。よい成果が出ています」
常に変化する市場に合わせ資源を再分配するのはセケイラさんの重要な役割だ。加えて人材育成にも力を入れる。
「私のリーダーシップチームは男女半々で、非常に多様性があります。今は若手にフォーカスし、早期にポテンシャルの高い人材を見つけ、成長を促しています」
大学時代、セケイラさんは分子遺伝学と分子生物学を修め、その後にMBAを取得している。
「サイエンスはすごく好きでしたが、人と人との関係やビジネスに興味がわいたのです。サイエンスへの情熱とビジネスへの情熱を掛け合わせると、製薬会社はとてもよい選択でした」
製薬会社にMRとして入社。最初はそれで十分満足だった。将来、夫になるだろう人と地元で暮らすのが理想だった。昇進話も引っ越しを伴えば断った。
誰が稼ぐかよりも何が家族にとって幸せか
結婚後に子どもが2人生まれ、2人目の出産からフルタイムに戻るときに転機が訪れる。上司から「ジェネラルマネジャー(GM)の道を考えてみないか」と言われたのだ。
セケイラさんは「今でもあらん限りのエネルギーを注ぎこんでいるので、これ以上は無理です」と答えた。上司は「さらにエネルギーを使うのではなく、賢く仕事をすればいい。妻や母の役割も果たしながら、GMもできるはずだよ」と言い、彼女がフルタイムに戻った後はメンターとなってセケイラさんのポテンシャルを十二分に引き出してくれた。そこからマネジャーの道を歩むことになる。
何年か経ち、子どもたちがミドルスクールに上がったころ、再び転機が訪れる。GMのオファーだったが、それまで住んでいたカナダからイギリスへの転勤を伴う。家族との話し合いが必要だった。
夫は地元の学校で教師をしていた。その仕事を辞めてもらわなければならない。セケイラさんは、誰が稼ぐかが問題ではなく、家族がハッピーになれればいいと考えた。「海外でいろんな人に出会ったり、異文化に触れたりすることは、子どもたちにもよい経験になる」
イギリスへの転勤は素晴らしい選択となった。
「それまで知らなかった市場を理解し、会ったことのない人と仕事をする。戦略を立て、チームの信頼を築き、組織を動かす、とても挑戦的な仕事でした」
気になる夫のキャリアだが、「病気の先生の代わりに臨時教員として教えたり、子どもが所属するホッケーチームのコーチをしたり、とても忙しく幸せそうでした。たぶんフルの仕事には戻りたくなかったんじゃないかな(笑)」。
セケイラさんはイギリス時代のGMの仕事も、その後にアメリカに移って就いた、ビジネスをリードする仕事も精力的に取り組んだ。そういう中での苦労は、リーダーシップの発揮の仕方だった。
男性のリーダーシップをまねして失敗したことも
「女性リーダーのロールモデルがいなかったので、どうリードすべきかがわかりませんでした」
メンター役の男性のまねをしてみた。何か問題を見つけると「これは絶対うまくいかない。やり方を変えるべきだ」と断固とした態度で、強いリーダーシップをとる人だった。
ところがセケイラさんが自分のチームで同じように振る舞うと、メンバーには「単なる反論じゃないか」「過剰反応しているんじゃないか」と受け止められ、言いたいことが伝わらないことも。
最初は予想していなかった反応に戸惑ったが、経験を重ねるうちに「人まねをしてもうまくいかない。自分独自のリーダーシップのスタイルをつくっていくしかない」と理解する。
「なぜ、その方法では成功しないと思うのか、理由をきちんと伝えるようにし、こう変えるといいと丁寧に説明するようにしました」
セケイラさんは分かれ道に差し掛かるたびにキャリアが広がる道を選んできた。その体験から、管理職になろうかどうか悩んでいる日本の女性たちにこんなメッセージを送る。
「あんまり思い込みすぎないで、前へ進みましょう。部下が仕事で成功することをサポートできるのは大きな醍醐味(だいごみ)です。それに、私もそうですけど、一度管理職になると意思決定できないポジションには我慢なりませんよ(笑)」
Q. 好きなことば
人生の中で何が重要かを考える
Q. ストレス発散
ヨガ
Q. 趣味
読書、犬の散歩
Q. 愛読書
『赤毛のアン』