最初から話し上手な人はいません。アナウンサーを仕事にしてきた私もそう。新人のころはとっさのコメントが出てこなくて、焦った覚えがあります。やはり訓練や場数が大事。私が実践して特に効果ありと思ったのが、「自分の声を録音する」「話し上手に学ぶ」「朗読する」の3つの方法です。
相手に話が伝わらない原因の一つが自分流の話し方。まずそれをリセットします。そのためには自分の声を録音し、チェックするのが一番。自分の声を聞くのは嫌かもしれませんが、話し上手になるためには不可欠です。次にYouTubeなどで話の上手な人の映像を繰り返し見ましょう。話す速度や声の大きさ、抑揚など、いいところをマネします。そしてもう一つ、話術を自分のものにするために朗読をおすすめします。新聞の社説や雑誌のコラムなどを題材に、どう話せば相手に伝わるかを考えながら抑揚や声音に変化をつけて読んでみるのです。
この3つの方法を実践すればもう話しベタからは卒業です。さらに、5タイプ別の症状に合わせた克服ポイントも参考にして話し上手になってください。
Type A:あがり症
症状:「人前に立つと頭が真っ白になってしまいます」
このタイプはまじめできちょうめんな性格。一度うまく話せなかった経験があって、それがコンプレックスになっていることがあります。人前に立つのが苦手だから、これまでプレゼンなどをする機会があってもそのたびに断ってきたのでは。経験不足なので、オドオドとしてしまって自信がないように見られ、損をしてしまいます。本番の数日前から準備を進め、不安を減らした状態で臨むといいでしょう。
▼処方:話す前の準備を徹底しておくこと
1. 話す内容をしっかりとまとめ、リハーサルを
原稿を覚える必要はありませんが、伝えたいことを確認し、聞き手に何を感じてほしいかを考え、話にタイトルをつけておきます。そのうえで本番と同じ服や靴を身に着けてリハーサルしてみましょう。家族や友達に聞き役を頼むとなおよし。選ぶ服はウエストを締め付けすぎず、靴は履きなれたものを選び、リラックス状態を確保しましょう。
2. 数日前からカフェインは取らないように!
コーヒー、お茶、栄養ドリンクなどカフェインを含んだ飲みものは興奮状態をつくりだし、本番で緊張が増してしまいます。当日も取っていいのはお水だけ。お茶類を飲むと口の中がカラカラに乾いて、舌の動きが悪くなるため余計に焦ります。直前の食事もおにぎり1つにするなど控えめに。満腹状態だと声が出にくくなってしまいます。
3. 反応のよい聞き手を味方につける
聞き手のなかにうなずいている人を見つけたら、その人たちに交互に話しかけるようにすると落ち着けます。右、中央、左で1人ずつ決めるといいでしょう。それでも、あがって頭の中が真っ白になることもあります。そんなときは正直に「あがってしまってセリフを忘れてしまいました」と口にすると場が和み、緊張がほぐれます。
Type B:まとまらない
症状:「何が言いたいのかわからないと言われます」
このタイプに多いのが、頭の回転が速く大量の情報をさばける人です。資料の文字数がやけに多く、早口でまくしたてるのが特徴。早口なうえに話が次々と飛ぶので、聞き手はついていけません。本人はたくさんのことを話したいので、聞き手が理解できていないことに無頓着で、話をどんどん進めてしまいます。その結果、「何を言っているかわからない人」というレッテルを貼られてしまうかも。
▼処方:聞き手を思いやるコミュニケーションを
1. 伝える内容を半分にしてみる
伝えたいことが10あっても、そのうち1か2伝われば十分だと考え方を転換します。例えばスピーチなら、原稿の量を半分に減らして。そのうえで言いたいことがきちんとまとまっているかを確認します。会議などでは主張したいことを事前に絞り込んでおくこと。情報量が減ると自然に話すスピードがゆっくりとなり、聞きやすくなります。
2. 軽めのエッセイで頭を柔らかくする
どんな聞き手の前であっても、「相手は中学生」だと思って、中学生に伝わる簡単な言葉を使ってゆっくり丁寧に語りかけるようにします。このタイプはいつもロジカルに畳みかけるように話している人が多いでしょうから、会議などの本番前に軽めのエッセイを読むことをおすすめします。使う言葉もやさしめになると思います。
3. ある程度話したら質問をはさみこむ
一方的に話すとどんどん早口になってしまうので、ときどき聞き手に質問して、自分の話が理解されているかを確かめます。特にスピーチやプレゼンの前半では質問の数を増やし、「知ってますか?」「見たことがありますか?」などと尋ねながら聞き手との距離を縮めるといいでしょう。同じ目線で会話できると、話が伝わりやすくなります。
Type C:口グセが出る
症状:「つい、“なんかー”って言っちゃうんです」
話し始める前に「なんかー」や「えー」をつけたり、終わりに「みたいな」や「とか」を加えたりする人がいます。口グセは仲のよい友達や職場の同僚など、周りの人からの影響を思った以上に強く受けるもの。お互い口グセが同じなので無意識に使っています。しかし知らない人が聞くとかなり耳障りで、話の内容に集中できません。最初は自分がどんな口グセを使っているかを知ることから始めましょう。
▼処方:自分の口グセを知り、減らす努力を!
1. 自分の口グセの数をカウントしてみる
まず自分の口グセを客観的に聞いてみましょう。プレゼンのリハーサルのときなどに録音して、後で再生し、口グセが何回あったかをカウントします。そして次のリハーサルでは口グセが出ないように気をつけながら話し、何回減ったかカウントします。それを繰り返していくと、かなりスムーズな話し方になるでしょう。
2. 口グセの少ない話し方上手に学ぶ
テレビやYouTubeなどで話し方が滑らかな有名人の動画を探し、話し方をマネしてみます。例えばマツコ・デラックスさんの話し方はスムーズで、とても参考になります。口グセが少ないのはもちろん、お話にまったくムダなところがありません。そのうえ相づちの打ち方も絶妙なので、話し方の“先生”としてふさわしい人だと思います。
3. 言い終わったらいったん口を閉じる
口グセが多い人は、話す前に話したい内容を原稿にしておくといいでしょう。原稿をつくるときは一文を短めに。一文が長いと息つぎで「えー」「あー」といった口グセが出やすいからです。一文を言い終えたらいったん口を閉じ、口グセが出る余地をなくします。それを習慣化すればムダな言葉を使わない話し方のリズムが身につきます。
Type D:一本調子になる
症状:「一生懸命話しても反応がよくありません」
話し方に抑揚がないと、どんなによい内容でも興味を持ってもらえません。それどころか、「ぶっきらぼう」「暗い」「冷たい」「長い」「くどい」といったマイナスイメージさえ抱かれかねません。ボソボソと話す人に対しては、聞いても仕方がないとサジを投げるケースも。いずれもよくない印象を植え付けてしまいますから、話の内容の前に、身ぶり手ぶりまで含めて感情豊かに話す練習から始めてみましょう。
▼処方:あえてエモーショナルな話し方を
1. 抑揚の達人たちにならってみる
上手な抑揚のつけ方を学ぶなら、ジャーナリストの池上彰さんの話し方が格好のお手本となります。ポーズのとり方や音の上げ下げ、話す速度の変化などが絶妙で、つい引き込まれてしまいます。政治家なら小泉進次郎さんがいいでしょう。強調したいフレーズを大きな声でゆっくり話して、聞く人にその言葉を印象付けるのが上手です。
2. 本番の直前にもう一度思いを込める
間違いなく論理的に話そうとするばかりに一本調子になっていることも多いでしょう。そこで話す直前にもう一度自分が「何を伝えたいのか」を思い返し、「これだけは知ってもらいたい」とフレーズに情熱を込めるイメージをしてみましょう。鏡の前であえて大きな身ぶり手ぶりをつくり、話す練習をするのもいいと思います。
3. 4タイプの話し方を使い分ける
声の高低と話すスピードの速い・遅いを組み合わせると4つの違った印象を与えられます。高い声でゆっくり話すと「やさしくおおらか」、高い声で速く話せば「元気で明るい」、低い声でゆっくりなら「落ち着いた」、低い声で速く話すと「仕事ができそう」といった感じの声になります。聞き手の様子を見ながら効果的に使い分けましょう。
Type E:受け身になる
症状:「会話が苦手。商談や雑談が特に困ります」
受け身になるタイプは、自分の好きな分野以外にはあまり興味関心を示さない人かもしれません。会話では、静かに話を聞いてくれる人も必要ですが、いつも聞き役に徹していると、「この人は私の話に興味がないのかな」と思われがち。また、自分自身も関心のない話をずっと聞かされるのは耐えられません。会話を楽しめるように、スポーツや天気など何でも構わないので広く興味関心を持ちましょう。
▼処方:アンテナを広く張って情報収集して
1. 相手との共通の話題を探しておく
あらかじめ相手の趣味などを調べておくと、会話に入りやすいでしょう。今はSNSで相手のことがわかる時代です。例えば「最近○○の絵を見て好きになった」といった書き込みがあれば、自分でも見に行ってみる。ただし「○○が好きなんですね」といきなり言うと引かれるかも。「趣味は何ですか?」などと話題を引き出すようにしましょう。
2. 相手のよいところ、持ち物などを褒める
誰でも褒められるとうれしい気持ちになり、そう言ってくれた相手に好感を抱きます。すると場も和んで会話しやすくなるでしょう。褒める対象はなんでもいいのです。髪形やファッション、あるいは名刺入れやバッグなどの持ち物でも。そして「すてきだな!」「いいな!」と思ったことは、臆せず口にしてみて。きっと会話が弾みます。
3. 話す意識よりも質問する気持ちで
無理して話さなくても、相手の話をうまく受け止めてあげるだけでも好ましく思われるもの。聞き上手のコツは「質問する」ことです。「最近何か楽しいことはありましたか」などと尋ね、相手の答えに感想を述べたり、笑ったり、驚いたりといったリアクションを示せば、お互いの距離がぐっと近づきます。そこから会話が盛り上がるでしょう。
フリーアナウンサー/ボイス・スピーチデザイナー。元日本テレビ放送網アナウンサー。「魚住式スピーチメソッド」を確立し、著書『たった1日で声まで良くなる話し方の教科書』は15万部のベストセラーに。新著『たった1分で会話が弾み、印象まで良くなる聞く力の教科書』(共に東洋経済新報社)がある。