部下は「器の大きい上司」の条件として、何を求めているのでしょうか? 25の要素について、どれくらい重要視するかを、男上司の下で働く30代・40代の正社員、男女各500人に聞きました。理想のリーダー像として、堤 真一タイプ、松岡修造タイプ、阿部 寛タイプ、マツコタイプ、つるの剛士タイプの5つのタイプが浮かんできます。
イラスト=中村純司

※[調査概要]楽天リサーチの協力でインターネットでのアンケート調査を実施。対象は、男上司の下で働く30代・40代の正社員、男女各500人。期間は2015年12月26~27日。
※パーセンテージは「上司に必須だと思う割合」。

タイプ1:昭和型「デキる上司」
堤 真一タイプ

・判断力、決断力がある(女:78.4% 男:71.0%)
・リスクをとれる(女:60.0% 男:57.0%)
・部下に仕事を任せ、陰で支える余裕がある(女:54.8% 男:51.8%)
・社外の人脈やネットワークが広い(女:34.2% 男:34.6%)
・社内的な政治力がある(女:22.2% 男:22.8%)

▼いわば「昭和の部長」。昔かたぎなリーダーのかがみといえばこの人!
このタイプは、普段からデンと構えて、イザというときの決断力も抜群。「器の大きい上司の条件として必須」の回答が最も多かった判断力と決断力を備えています。組織内の根回しにもたける豪腕上司で、経営層になるほど必要。

タイプ2:熱血!「オレについてこい!」
松岡修造タイプ

・チームをまとめ、導く力がある(女:66.2% 男:54.0%)
・部下をかばってくれる(女:57.0% 男:45.8%)
・チームのために戦う、対外的交渉力がある(女:54.0% 男:44.6%)
・ビジョンと志がある(女:43.4% 男:42.6%)
・熱さ、勢いがある(女:19.4% 男:19.4%)

▼情熱は伝染する。「暑苦しい」んじゃない、本気の男は「カッコいい」
男性より女性からの支持が厚い松岡修造タイプ。でも「熱さと勢いは必須ではない」との回答が多数に。「会社は一生面倒を見てくれるわけじゃないから」などと、冷めてしまった日本人の心に火をともす存在として貴重なはず。

タイプ3:夢見て何が悪い!
阿部 寛タイプ

・短期的な業績ではなく、長期的視点を持っている(女:50.2% 男:43.8%)
・時には自己犠牲をいとわない(女:33.8% 男:37.6%)
・目先のことより、世のためになることを重視する(女:25.4% 男:26.6%)
・合理的に割り切ることをしない義理堅さがある(女 26.6% 男 21.8%)
・理想を語り、部下を同じ方向に向かせられる(女:21.6% 男:23.6%)

▼下町工場の感動を再び。イノベーター型リーダーが日本を救う?
このタイプは、目先の利益に惑わされることなく夢を持って進む、今の日本に必要なリーダー。調査でも長期的な視点を求める女性が多数という結果に。ビジョンを胸に、アグレッシブに走るタイプのため、優秀な番頭が必要。

タイプ4:愛があるから本気で叱れる
マツコタイプ

・人生の先輩としての人間的深さがある(女:43.0%男:37.0%)
・時には自分が悪者になることができる(女:37.8%男:33.0%)
・自己研さんを積み、最新のスキルと知識がある(女:34.8%男:26.8%)
・仕事以外でも知識が豊かで教養がある(女:30.4%男:25.8%)
・部下を本気で叱る、「愛のムチ」が使える(女 23.8%男 24.4%)

▼上司の必須条件「愛他主義」。どんな部下とも対峙できる胆力で振るう愛のムチ
厳しいことを言っても許される、繊細なバランス感覚の持ち主。女性のほうが、上司に対して人間的な愛情を求める傾向にあることが判明しました。自分のことより部下のこと、他部署のことを思える余裕を持ちたいところ。

タイプ5:経験に基づいた真の理解力
つるの剛士タイプ

・多様な考え方を受け入れられる寛容さ(女:57.8%男:45.0%)
・どんなことでも相談できる親近感がある(女:41.0%男:35.2%)
・相談する前に気遣ってくれる目配り、心配り(女:43.0%男:30.2%)
・部下の成長を待つことができる忍耐強さ(女:39.6%男:32.8%)
・部下のモチベーションを上げる方法を知っている(女:38.0%男:33.4%)

▼ワーク・ライフ・バランスの当事者体験が信頼を集める、新時代型リーダー
育児や介護を「プライベートな事情」と一蹴せず、自分の経験から理解・共感し、幅広いマネジメントができるリーダーが必要。特に女性からのニーズが高いという結果に。もちろん仕事での高いパフォーマンスは大前提!

<解説>

戦後の成長を支えてきた日本型の会社社会が時代に合わせて変容するにつれ、組織に求められる上司像にも変化が生まれています。

「堤真一さんタイプは、まさに昔かたぎの、デンと構えた昭和の部長といった印象ですね」(人材育成企業FeelWorks創業者 前川孝雄さん)。「将来を見越して意思決定する力が上司には求められる。その決定を部下に納得させられる論理力や、組織を動かす政治力も。時代にかかわらず普遍的な組織の要となる存在でしょう」

▼チャレンジ精神とイノベーターマインド

次の松岡修造さんタイプに関しては「彼の熱さは今の日本の会社にこそ求められている」と前川さん。「終身雇用、年功序列が崩壊して、会社組織への冷めた意識を持つ賢い若者が増えていますが、働く人のほとんどがそうなると、組織が成立しなくなってしまいます。松岡さんのような上司から情熱が伝染して、チームが本気になったとき、組織にチャレンジする姿勢が生まれるのです」

チャレンジ精神という点では、阿部寛さんタイプも同じ。「オーナー経営者に多いのですが、経営効率や合理性にがんじがらめになるのではなく、ビジョンや夢を胸にイノベーションを仕掛ける上司です」。合理性の世界ではなく、感情の世界で物事を捉えられる女性は、その意味で会社の仕組みを変える可能性を大いに持っている、と前川さんは語気を強めます。

▼これから求められる、胆力と当事者感覚

マツコさんタイプは、「愛他精神を持った、いわばアンチエリートのヒーローです」と前川さん。

「性別や年代、価値観の違いを超えて、どのような部下とも対峙(たいじ)できる胆力がないと、これからの時代の上司は務まりません。踏み込んだ助言であっても部下を納得させられるか。これは愛情を注ぐことはもちろん、自身に人間力があって初めてできることです」

最後に、つるの剛士さんタイプは「ワーク・ライフ・バランスを当事者として体験し、理解しているこれからの時代の上司像です。ただし、共感力や理解力だけでは部下はついてきません。当然、仕事上のパフォーマンスを出していることが必須です」。

そう、部下は強くて優しい上司を求めているのですね。

前川孝雄
人材育成企業FeelWorks創業者。「上司力研修」、社内報編集などで250社以上の「人が育つ現場づくり」を支援。『上司の9割は部下の成長に無関心』『ダイバーシティの教科書』など著書多数。青山学院大学兼任講師。