●リントス代表取締役 川崎貴子
1997年に働く女性をサポートするための人材コンサルティング会社、株式会社ジョヤンテを設立。2014年より株式会社ninoya取締役を兼任し、16年11月、共働き推奨の婚活サイト「キャリ婚」を立ち上げる。著書は『私たちが仕事をやめてはいけない57の理由』など。12歳と5歳の娘を持つワーキングマザーでもある。
Q.「女性だからこうあるべき」という価値観を押し付けられて困ったことはありますか?
ある:51.9% ない:48.1%
※プレジデント ウーマンメルマガ読者向けに実施したアンケート(n=640)
▼どんなときに嫌な思いをしたのか、具体的な声を集めました!
・上司に名前で呼ばれず、40~50代なのに「女の子たち」と言われて、ものすごくバカにされていると思いました(40代)
・残業が多く、終電で帰るような職場への出向に、女性は行かせられないと管理職面談で言われた(20代)
・料理をあまりしないことを指摘されるなど、言葉の端々に女性は男性のサポート役を望まれる発言が。はっきり意見を言うと「ずいぶんはっきり言うね」と言われる(30代)
・ランチの内容について、こういうものは女性が食べるものではない、という価値観を押し付ける上司がいた(30代)
・趣味に没頭しているとき、幹部から「そんなことしていないで、さっさと結婚して子どもを産みなさい」と言われました。絶句です(40代)
・ノーメイクだったり、髪がぼさぼさだったりすると必要以上に心配される。忙しいだけなんですけど……。“キレイ圧力”がない男性がうらやましい(40代)
お悩み1:スカートをはけなど、女らしさを求められます
職場では女らしさを求められることが多く、困っています。たとえば、女性だから料理が上手であるべき、結婚すべき、スカートをはくべき……。拒否すると「女を捨てている」と言われそうでそれも嫌なんです。(30代女性)
悪気なく失言を繰り返す男性上司はどこの職場にもいますね。セクハラ発言のオンパレード。「女性だから料理は上手であるべきだ」って、誰もアンタの理想のタイプなんて聞いてないよ! と言いたくなります。
この質問に登場する上司の方にどの程度自覚があるかわかりませんが、いまは多様な人材を等しくマネジメントできなければ、管理職としての価値がないと判断される時代です。
私自身もコンサルタントとして多くの企業の管理職研修を手がけていますが、上司たちは必死です。パワハラやセクハラだとみなされれば、会社員人生が終わりかねないので当然ですね。
そう考えると、この相談に登場する上司の方がいかに世間の常識からズレているかわかっていただけるのではないでしょうか。ご本人のキャリアとしても、企業ブランディングとしてもまずいことに、ぜひ気づかせてあげてほしいですね。
ただし、「やめてください!」などとストレートに怒りをぶつけるのは得策ではありません。相手は無神経な失言を繰り返してきた人ですから「なんだ、夫婦ゲンカでもしたのか?」などと言いだす可能性が大。より一層腹立たしい思いをさせられるのがオチです。
もし、セクハラ発言に遭遇したら、すかさず「それ、いまの時代まずいですよ!」と切り返しましょう。声を潜めて「私だからいいようなものの、新人に言ったら大変ですよ」と大げさに心配してみせるのもおすすめ。相手がピンときていないなら「どれだけの政治家が失言でポジションを失ってきたことか。これも同じですよ。怖いですね」と事態の深刻さを伝えましょう。
あくまで“味方のフリ”をしながら問題発言を指摘し、改善しなければ立場が危ういことを伝える。これが賢い女のサバイバルマナーです。
【川崎さんのアドバイス】「それ、いまの時代まずいですよ!」の一言で切り返そう
お悩み2:お茶出しは女性がすべきですか?
うちの会社は総合職採用しかしていないので、上司から来客時にお茶出しをよく頼まれます。同期の男性には頼まないのに、どうして女性ばかりに? 正直言って、仕事が立て込んでいるときは迷惑です。(30代女性)
「お茶出しが女性の仕事なのかどうか」という質問に対する私の答えは「ノー」です。ただ、このルールは職場によって異なります。そして、そのルールは働く私たちひとりひとりがつくっていくものです。
私の会社では「お茶出しは新人の仕事」と決めています。性別を問わず、同じようにお茶出しをお願いします。
旧態依然とした価値観にイライラしている場合ではありません。“うちの部署の常識・ルール”をどんどんつくっていきましょう。
ここでもケンカ腰になる必要はありません。上司に「○○さん、応接室にお茶をお願い」と言われたら、にっこり笑って「1年生、行かせます!」と答えればOK。「ほら、呼ばれてるよ」と部下を促せば万全です。もちろん、男女分け隔てなく声をかけることです。
「男性だから」という価値観の押し付けにも敏感になりましょう。たとえば、女性社員が荷物を運んでいるとき、「ちょっと○○君、代わりに運んであげて」と男性社員を駆り出していませんか?
ここもやはり、「新人だから」のルール適用がおすすめ。女性社員ひとりでは手に余る力仕事なら、2人で協力すればいいのです。
男性に手伝ってもらうのはやめましょう。都合のいいときだけ、“女”を利用しないこと。こうした日々の積み重ねが、ジェンダーフリーな職場の実現につながるのです。
【川崎さんのアドバイス】「1年生の仕事!」と振ってみよう
お悩み3:男性と同じはずなのに「怖い」?
管理職になりたてです。同い年の男性管理職と同じような話し方をしているのに、「言い方がきつい」「怖い」と言われてしまいます。物腰の柔らかさが求められるのはわかりますが、それだけでは仕事は回りません。(40代女性)
もしかしたら「同い年の男性管理職と同じような話し方をしている」という自己評価と、周囲が抱く印象にズレがあるのかもしれません。
部下のミスを指摘するとき、ダイレクトに伝えず、「どうしてわからないの?」「新人のとき、習わなかった?」など遠まわしな言い方をしていませんか。
実はこの叱り方は女性管理職がやりがちな間違いのひとつ。「あれだけ教えたのに、こんなミスが起こるのは一体どうして?」という驚きや失望を相手に伝えたくなってしまう。でも、ネチネチ責められるほうはたまったものではありません。
もっとも、男性管理職にも陰湿な言い方をする人はいるでしょう。ただし、女性がやると男性以上に目立ちます。なぜなら、管理職に占める割合が女性のほうが少ないため、注目を集めやすいのです。
また、「女性はきついことを言わない」という潜在的なイメージがあるぶん、バッサリ切られたときのショックが大きいというのもあるかもしれませんね。
ただ、質問者の方もご自身で言っているように、「物腰の柔らかさが求められるのもわかる」のであれば、適宜取り入れていきましょう。
「仕事が回らない」という苛立ちや、管理職になりたての不安を部下にぶつけるのも禁物です。
男性もまったく同じですが、始終ピリピリしているような余裕のない上司に、部下はついていきません。
「この仲間で働けてラッキー」と口角を上げ、楽しく働くのも管理職として大切な仕事のひとつです。
【川崎さんのアドバイス】陰湿な言い方になっていませんか?
お悩み4:「女じゃだめ」と言われてショックです
営業担当なのですが、トラブルを起こしてお客さまを怒らせてしまいました。その案件の対応をしようと思ったのですが、男性上司から「女じゃだめなんだよ!」ときつい一言。かなりショックを受けています。(40代女性)
もし、男性上司から「女じゃだめ」と言われてショックを受け、そのままになっているとしたら非常にもったいないことです。
というのも、男性上司はトラブルを収拾するために、その状況でのベストを尽くしただけ、という可能性があります。
たとえば、クレームをつけてきた相手が女性に対しては居丈高になるタイプなのかもしれません。その場合、男性社員を謝りに行かせたほうが事態の収拾が早くなるという判断もあるはず。ただ、上司の側も言い方に気を付けるべきですし、部下にきちんと説明すべきだと思います。
一方、私たち働く女性も被害者意識にとらわれないよう、気を付ける必要があります。
仕事をしていると、「女だから」という理由で嫌な思いをしたこともあれば、傷ついたこともあるでしょう。でも、そこに意識が向かうと視野が狭くなります。
「女性だから排除された」という悲しみに浸っているうちは「自分の何がよくなかったのか。次はどうすればいいのか」という反省も生まれません。本人は「二度と失敗できない」と追い詰められる一方だし、上司にとっても、何かにつけて被害者ぶる部下は使いづらいものです。
事態が収束し、落ち着いた頃をみはからい、「今回はすみませんでした。次回からこういうことがないよう成長したいので教えてください」と上司に伝えましょう。
失敗を恐れず、チャレンジし、すべてを糧に成長していく。それが大人の女の生きる道です。
【川崎さんのアドバイス】なぜそう言われたのか、上司に聞いてみて
お悩み5:料理の取り分けは女性の仕事ですか?
部署の飲み会ではいつも、「女性が料理を取り分けるのがあたりまえだよね」という雰囲気があります。男性が取り分けると一目置かれるのに対して、女性はやって当然という空気。お酌を求められることもあるし、飲み会が憂鬱です。(30代女性)
もし「女性が料理を取り分けるのがあたりまえだよね」という雰囲気があるとしたら、変えられるのは自分です。私の会社では「取り分け」も「お酌」も禁止。みんな好きなペースで飲んだり食べたりしようと伝えています。
もちろん、私もシチュエーションによっては料理を取り分けます。目の前に大皿があり、手が届かなそうな人がいて、お皿を回すより取り分けるほうが早いなら、そうします。でもそれは「女だから」ではなく、「人として」やっているのです。
私たちの先輩の時代には「女性はこうあるべき」という価値観に従って行動するのがあたりまえとされてきました。当時はそうしなければ、男性社会に受け入れてもらえなかったのです。
ところが時代は変わりました。先輩たちが忍耐と苦労を重ね、私たちが活躍できる場を開拓してくれたことに感謝しつつ、「女だから」の呪縛からそろそろ解放されましょう。
私たちはビジネスの現場で経験を積み、職場をリードしていくべき立場にあります。リーダーたるもの、「女性がやらなくちゃいけないのかしら」などと悩んでいる場合ではありません。自分はもちろん、部下の女性にお酌をさせたり、料理を取り分けさせたりするのはやめましょう。
時代に合った新しいビジネスマナーをつくっていく。私たちはそれができる能力もポジションもすでに持っているのです。
【川崎さんのアドバイス】女としてではなく、「人として」ならやりましょう!