20代~30代の女性たちから多くの支持を集める、人材コンサル会社・ジョヤンテの代表である川崎貴子さんと、コラムニストの河崎環さん。二人の対談から、子育てしながら働き続けるための技術を学びます。モデレーターは、プレジデントオンライン編集部の吉岡綾乃が担当。「女性が働き続けること」についてアラサー女性に伝えたいことを、40代・団塊ジュニア世代の3人が自身の経験を交えて話し合います。
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http://president.jp/articles/-/21008
子育て時のシッター代は一時的な経費。リターンは充分ある投資
――私は子どもを産まないと20代の頃には決めていたので、子育てと仕事の両立という課題に向きあうことなくここまで来てしまいました。お子さんを育てながら仕事を続けているお二人は、どのように仕事と家事育児を実践、両立してきたのか、詳しく教えていただけますか?
【川崎貴子(以下、川崎)】私は1人目を32歳で産んでいるので遅めなんですけど、それでも当時「子どもはいつか大人になったら」って思っていました。安心して産める状況なんてさらさらない。零細企業の経営者はいつも“産みどき”じゃないんです。家には化粧を落としにだけ帰るぐらいの状況で、サボテンさえ枯らしているような女だったから、「今の生活を鑑みて、どうやって生物を育むんだろう?」って(笑)。とはいえ「子どもを持たない」とはっきり決めていたわけではなくて、単にその分野に関して深く考えなかった。そういう人は多いと思います。結果的に自分は“できちゃった婚”で良かったんじゃないかなと思います。そうならないと、大体の人が決断しない。
――できちゃった結婚って、「仕事があるのに無責任だ」と女性ばかりが責められがちなところがありますよね。特に芸能界とかだと女性芸能人がそうやって責められていることが多くて、すごく気の毒。子どもができて責められる男性芸能人はまずいないのに。でも、女性が熱心に仕事をし続けていたらいつだって忙しいし、余裕なんかないわけで、「できちゃった」ぐらいの勢いがないととても産めないのではないかと思うんですが、いかがですか。
【川崎】本当、そうなんですよ。当時ちょうど会社が拡大しているときだったので、産休後もシッターや親族フル活動。メーリングリストをつくってシフト制にして、情報共有して、会社経営みたいに子育てしてました。子どもの名前を取って「プロジェクトC」。「今、なんでも口に入れちゃう時期なので、周りに物を置かないでください」ってメーリングリストでまわってくると、みんなが「ハイ!」って。
――プロジェクトCはどういうメンバーだったんですか?
【川崎】シッターさん2人と、私と夫、私の妹、母。計6名です。
【河崎環(以下、河崎)】そのぐらい必要ですよね。
――シッターさんにしても保育園にしても、子どもを母親以外の人に見てもらおうとすると、すごくお金がかかる。先日、横浜市で認可保育園に入れなかった友人が「ようやく非認可の保育園を見つけたと思ったら、月額19万円!」と嘆いているのを見てびっくりしました。そんなに高いのか……! と。子どもを預けるために、稼いでいる分と同じぐらい、あるいは稼いでいる分以上にお金が出ていってしまうこともある。そうすると「私は何のために働いているんだろう?」とか「二人目なんてとても無理」と悩んでしまう人は多いと思うんですが、いかがですか。
【川崎】たしかにお金はかかります。その時期だけ見るとそうなんだけど、でもそれは一時の経費なんですよ。人材業の立場で言わせてもらうと、その時期にキャリアにブランクがあるかどうかによって将来的に億単位で生涯年収が変わってくる。復帰できなかったり、自分で自分にプレッシャーをかけてキャリアダウンしてしまうことがあるからです。子育ての時期に出ていくお金は投資と捉えたほうがいい。そうとしか言いようがない。
【河崎】奥さん側の収入の中から考えると「マイナスだ」って心が折れてしまうんですが、そうではなくて、あくまでも家族マターだから世帯収入からの収支と考えたほうがいい。リターンは充分にある投資だと私も思います。
少女漫画幻想を持ち続けるから20代後半で不倫に走ることになる
【川崎】あと、大企業に勤めていたり、企業で役職についている女性だったら、パートナーにフリーランスで在宅勤務の男性を選ぶのは、とてもいいと思いますよ。
――私もそう思います。「妻が大黒柱で、夫が融通が利く立場」というカップルがもっと世の中に増えたほうがいいと思う。でも仕事がデキる女性は、一般的に、同じく企業に勤めていて、しかも自分より稼ぐ男性、自分より仕事ができる男性を選ぶことが多いですよね。
【川崎】そうなんです。でもそういう相手を選ぶと、自分が馬車馬のように働いて馬車馬のように家事をやらなければいけなくなる。「俺の方が忙しい」「私の方が!」って、どっちがブラックかを競い合う夫婦になってしまう。
【河崎】野田聖子さんがおっしゃっていたことなんですが「自分よりスペックがいい男性を選びたいのは、自分たちの中に少女漫画幻想があるからだ」って。スペックが自分より少しでも上じゃないと恋心を抱けない。抱かれたくない。そういう幻想が女性たちの中にどうしてもあるのが20代なんだけど、30代になると外していける。20代後半はまだ悩んでいる人が多いんじゃないかな。
【川崎】だから不倫が多くなっちゃうんですよね。
【河崎】多い多い。だって自分より仕事がデキる人を好きになるとしたら、そうならざるを得ない。
――仕事ができる男性は、年を取る前に大抵結婚してしまいますからね。
【河崎】そう。自分よりスペックが上の人しか好きになれないという幻想があったら、魅力を感じるのはそりゃ、そこ(既婚者)になってしまいますよね。
――環さんは旦那さんの転勤で海外に住んでいた時期も長いですが、どうやって子育てしながら仕事を続けてきたのでしょうか。
【河崎】物を書くって人とのつながりなんですよね。誰かからトピックを与えてもらって、それに対して打ち返す……これを繰り返し、続けてきたと思っています。ほそぼそと。人に育ててもらった感じはあります。
――キャリアを切らずに働き続けるコツは?
【河崎】SNSなどで人間関係を切らさなかったのが大きかったと思います。あとは、「こういう本を見つけました」とか「これは翻訳できるかも」「こういう作者と知り合った」とか、常に日本の編集者や出版社に向けてメールを送っていました。企画としてはなかなか通らないんですけど、「スイスにいるはずなのに、なぜこんなに連絡を取ってくるんだろう」っていう存在感、プレゼンスを下げないようにしていました。「あいつ、うるせえなあ」と思われるくらい、“うるささ”を下げなかったっていうのはあるかもしれない。
「勘違いしてる」と言われるぐらい時流に乗ってしまった方がいい
――川崎さんは経営者で、環さんはフリーですね。組織で働いている女性が働き続けるには、どうしたらいいと思われますか。
【河崎】どんな経団連企業も、今は「女性役員を30%まで引き上げる」となっています。この時流に乗っちゃうのはアリだと思いますよ。むしろ、乗らないと損。
――「私なんか」と謙遜せずに、どんどん入って行ったほうがいい?
【川崎】今は過渡期で、制度はできているのにその中での軋轢がある。たとえば、会社に時短制度があるのに、先輩社員が「いいわね~、子どもを産むと早く帰れて」なんて嫌味を言う。そこをあえて“聞こえないふり”をする図太さが必要とされているんじゃないかと思います。会社が女性役員を増やしているなら、「やるやる!」って手を挙げる。嫌味を言われても「すみません~、時代に乗っちゃって!」くらいの心持で。勘違いしてるよねって言われるぐらい時流に乗れるかどうかで、今後の10年後、20年後が変わってきますよ。
どんどん寿命が延びて、働く時間も長いのに、将来自分の仕事があるかどうかわからないのでは大変です。だから、とっとと産んでおくとか、資格を取っておくとか、マネジメントも経験しちゃうとか。やりたいことはやれるうちにやっておいたほうがいい。
【河崎】賢い人は「いいのかな?」って、頭で考えるじゃないですか。私はもっと、“快・不快”の感覚に身を任せていいと思っています。「この人と結婚したい!」とか、「この人の子どもを産みたい!」とか。それでいいんじゃない? って思うけれど、賢い女子が増えているのでそうはいかないのかな。
――働く女性たち、確かに真面目でがんばり屋さんが多いですね。仕事で悩み、家に帰れば「専業主婦のお母さんみたいに私はできてない!」と言って悩み……。「できてない」「周囲に謝ってばかり」って悩むワーキングマザーがすごく多いんですが、でも仕事と家庭の両方がそれぞれ60%しかできていなかったとしても、2つ合わせたら120%なんですよね。いつも100%以上の力を出し続けるなんて無理に決まってる。「『ごめんなさい』って周りに謝るのではなくて、いつも『私、足りないわー、ははは!』ぐらい開き直ったほうがいいよ」ってワーキングマザーの友人にはアドバイスするんですが、なかなかそうできないみたいなんですよね。なぜなら、デキる女の子は基本的にみんな真面目だから。
社会規範に捉われない子育てを。自分たちの幸せをもっと優先して
【川崎】私は娘二人に、いざというときにお金を使えるママの後姿を見せてます。たとえば寒いときにタクシーを使うとか、疲れたから2日連続で美味しい外食とか。「それが働くママのメリット。2人ともよく見ておくがいい」って(笑)。外食が続いてもピザが続いても、私が卑屈な思いになっていないので、家族が卑屈にならない。
――お母さんが卑屈にならない。それ、すごく大事ですよね。
【河崎】卑屈になる必要なんかないですよ。だって海外のお母さんは、毎日ピザですもん(笑)。旦那さんたちも「イクメンだよ!」って子どもを迎えに行くけど、料理はしないからやっぱり冷凍ピザ。でも帳尻を合わせるのがすごくうまくて、「土日にちょっといいのをつくってあげる」って。自分たちが家族経営する方法はそれぞれで、自分たちが幸せならいい。お父さんお母さんの仕事がなんであれ、ですよ。日本は「父はこうあらねば」「母はこうせねば」「子どもは……」って、「ねば」が強いけれど、その「正しい」はずの社会規範の中で、じゃあなんで今こういう状況になっているんでしょう? っていう。
【川崎】世界一の少子化、世界一の長寿大国、子どもが生まれない老人大国。
【河崎】こんな社会のままだったら、それは女性がもつわけがない。男性もやっぱりもたない。社会も持続可能じゃない。
【川崎】世界で最も家事に手間をかけてる国ですからね。
――SNSで弁当とか見ると、すごいですよね、みんな。
【川崎】私のように32歳までサボテン枯らしていた女からすると……。
【河崎】サボテンって枯れるんですよね~。
――私も枯らしたことあります(笑)。
母性信仰に意味はない、育てた人が親になる
【川崎】私は2人産みましたが、実感値としては「腹を痛めた自分の子だからかわいい」っていうのはほとんどなくて、他の家の子もかわいいです。里親をしている友人の子どももかわいい。「産めばよかった」って言ってるアラフォーの友達が多かったので、本(『愛は技術』)の巻頭では「卵子は待ってくれない」って書いたけれど、子どもを持つ方法は一つではない。
うちでは次女のときは、夫が専業主夫をしてくれたんです。10カ月ぐらいになると、「パパじゃなきゃヤダ!」って言って泣き止まない。夫は長女と血がつながっていないけれど、子育てしていたから「顔色が悪い。熱がある」って長女の具合が悪くなればすぐに気づく。私は気付かなかったです。産んだかどうかなんて大きな問題ではなく、育ててる人が親です。
――世間の皆さんは母性信仰が強すぎると私も思います。育てた人が親なんですよね。父でも養母でも祖父母でも。(3に続く)
1972年生まれ。埼玉県出身。1997年に働く女性をサポートするための人材コンサルティング会社・株式会社ジョヤンテを設立。女性に特化した人材紹介業、教育事業、女性活躍コンサルティング事業を展開。2014年から株式会社ninoya取締役を兼任。ブログ「酒と泪と女と女」を執筆、婚活結社「魔女のサバト」を主宰。11歳と4歳の娘を持つ。 著書に『愛は技術 何度失敗しても女は幸せになれる。』(ベストセラーズ)、『結婚したい女子のための ハンティング・レッスン』(総合法令出版)など。
河崎環(かわさきたまき)
1973年京都生まれ、神奈川県育ち。桜蔭学園中高から転勤で大阪府立高へ転校。慶應義塾大学総合政策学部卒。欧州2カ国(スイス、英国ロンドン)での暮らしを経て帰国後、Webメディア、新聞雑誌、企業オウンドメディア、テレビ・ラジオなどで執筆・出演多数。多岐にわたる分野での記事・コラム執筆をつづけている。子どもは、20歳の長女、11歳の長男の2人。著書に『女子の生き様は顔に出る』(プレジデント社)。