男性と女性が混在する職場。せっかくなら気持ちよく働きたい。でも、話し方のせいでいらぬ誤解を招いたり余計な軋轢が生じたり……。「そんなバカな!」と思えるほど、男女間には大きなズレがありました。
《解説してくれる人》
▼吉田照幸さん
NHKエンタープライズ・エグゼクティブプロデューサー。「サラリーマンNEO」「あまちゃん」などのヒット作を演出。大物俳優、ベテランタレントを相手に自分の思いを伝えるプロ。著書に『「おもしろい人」の会話の公式』。最新作は11月26日公開の映画『疾風ロンド』。
▼古川裕倫さん
世田谷ビジネス塾塾長。三井物産に23年間勤務後、ホリプロに入社。その後はビジネスアドバイザーとして活躍。女性が輝く社会を応援する会社・多久案代表。著書に『女性が職場で損する理由』『社会人の心得』『他社から引き抜かれる人は話し方が違う!』など多数。

【対同僚編】チクチクとイヤミを言うのは逆効果

働きの悪い同僚、頼りにならない同僚たちに苛立ち、ついそれをイヤミにして口に出してしまう……。気持ちはわかるが、これは百害あって一利なし。

イラスト=米山夏子

「目的は同僚にきちんと仕事をしてもらうこと。だったらチクチクとイヤミを言うのは逆効果。そもそも男性は同僚の女性に注意されること自体、愉快には思わない生き物ですから。『言ったはずなのにやっていない』みたいなことをチクチク攻撃しても、相手は『二度と協力してやるもんか』と思うだけ。だったらお願いしたほうがはるかにいい。で、やってくれたら『ありがとう。またお願いします!』と言えば、男なんて『またやろうかな』と思うもの。単純ですから」(吉田さん)

男性上司と同様、同僚の男性もまた「プライドを転がす」ような話し方がもっとも効果的らしい。

「総じて女性は正論を振りかざしがち。しかもそれを『私は絶対に正しい』と声高に主張する人もいますが、これでは人間関係を悪化させるだけ。人は正論ではなく、心で動きます。『あの人のためならがんばろう』とは思っても『あの人の言うことは正論だから協力しよう』とはなりません。むしろ『言い方が気に障るからやりたくない』となるのがオチです」(古川さん)

女性は自分の苛立ちを言葉にして、誰かにわかってもらいたいと思いがち。でも、職場では自分の一言がどういう結果を生むかを常に意識しよう。

▼シーン別話し方実例

▼シーン1:仕事が遅いことを注意したい

NG「○日までにお願いしたはずですが、この件はどうなっているんですか。先方にも早く返事をしなければいけないので、急いでもらえませんか。」
OK「お客さまが困っています。○日までにお願いしたものを、急いでもらえませんか。」

「『はずですが』『どうなっているんですか』の部分は、自分の感情を言葉にしているだけでイヤミ」(NHKエンタープライズ・エグゼクティブプロデューサー 吉田照幸さん)。「主語をお客さまにして、簡潔に用件だけを伝えましょう」(世田谷ビジネス塾塾長 古川裕倫さん)

▼シーン2:生意気な態度を注意したい

NG「あなたの態度が感じ悪いって、みんなが陰で言ってるよ。私は気にならないけど嫌な気分になる人もいるみたいだから、気を付けたほうがいいかも。」
OK「……。」

「自分の価値観を相手に押し付けて相手を変えようとするのは、はっきり言って傲慢。むしろ相手を嫌いであることを認め、距離を取ってみて。案外、生意気が気にならなくなったりするものです。何も言わない、が正解」(吉田さん)

▼シーン3:自分の仕事を手伝ってほしい

NG「忙しいのに悪いけど、ちょっとこの仕事を手伝ってもらえませんか。今度お礼をするので……。」
OK「今度お礼をするので、ちょっと手伝ってもらえませんか。忙しいのに悪いけど。」

「大事なのは言葉の締めくくり。『お礼をするので……』を最後にもってくると相手は金につられたような気になり、協力しづらい。最後に『忙しいのに悪いけど』で締めれば、相手のプライドをくすぐって効果的です」(吉田さん)

【対部下編】自分の感情を満足させようとしない

上司や同僚とは違い、部下に対しては厳しく叱責したり、命令したりしなければいけない場面があるが、両人とも共通して指摘するのは「自分の感情を満足させようとしないこと」である。

イラスト=米山夏子

「たとえば部下がミスをしたときに、『どうして?』とか『いままで何をしていたの?』といった言葉で部下を責めても、何の生産性もありません。男性部下にとっては、苛立ちをぶつけられたと思うだけ。すべきなのはミスを挽回すること。そしてどうすればいいかを部下の口から言わせること。過去のことを注意するのは、それがすべて終わってからのことです」(NHKエンタープライズ・エグゼクティブプロデューサー 吉田照幸さん)

世田谷ビジネス塾塾長の古川裕倫さんも「頭がよくて弁の立つ女性ほど、相手を徹底的に糾弾しがち」と警告する。

「『私は前にこう指示したわよね』『あなたはこう説明していたわよね』と言質をとって逃げ道を塞ぎながら、部下を徹底的に論破しようとする女性がいますが、これも結局は感情の発露。相手の出方次第では感情的になって『あなたは最低の人間ね!』と人格否定になってしまうことも。大事なのは自分の意見を部下に伝えることで、相手を屈服させることではありません。逃げ道をつくり、大事なところ以外は相手に譲る余裕も必要です」

せっかく正しいことを話しても「女は感情的だから」と部下に陰口を叩かれるようでは、優秀な上司とはいえないようだ。

▼シーン別話し方実例

▼シーン1:仕事の進捗状況を確認したい

NG「あの人のアポイントは時間どおりに取れているんだよね? 決まったらすぐに報告してよ。」
OK「アポイント、時間どおりに取れてる?」

「この『だよね?』の部分が詰問調。女性はよく使いますが、意味のない感情的な言葉です」(NHKエンタープライズ・エグゼクティブプロデューサー 吉田照幸さん)。「単純に進捗状況だけを事務的に確認するのがベスト」(世田谷ビジネス塾塾長 古川裕倫さん)

▼シーン2:期日を守れなかったことを注意する

NG「今まで何やってたの? 遅れそうなら、どうして途中で相談しなかったの!」
OK「いつまでならできる?」

「期日が守れなかったときに言うべき言葉は『いつまでならできるか』ということのみ。『どうして途中で相談しなかったの』という言葉には生産性はありません。可能な期日を部下の口から言わせましょう」(吉田さん)

▼シーン3:仕事相手を怒らせているとき

NG「やっぱり○○くんには、まだこの人とのやりとりは早かったみたいだね。すぐに担当を替えるから、もう何もしなくていいよ。」
OK「まだ○○さんとのやりとりは早かったみたいだね。すぐに担当を替えるから。」

「NGのほうは部下の全人格を否定している。部下にも承認欲求はあるから、人格を否定されるとパフォーマンスはどんどん落ちていく。部下を叱るときは内容を限定し、人格否定をしないよう注意が必要です」(吉田さん)