女性の活躍には、家庭と仕事を両立できる環境が必須だ。その環境づくりには企業の努力が必要だが、そこに力を入れる企業の株価は上がっていくという。その背景には市場からのどんな評価があるのか。大和証券の吉野貴晶さんに寄稿していただいた。
経済成長の新しい推進力として期待される新3本の矢が2015年9月に発表された。その3本のうちの一つが「夢をつむぐ子育て支援」である。安倍首相は、日本社会の構造的課題である少子高齢化の問題に真正面から挑戦したいと意気込みを示している。企業側も、一層対応する取り組みが必要とされる。
厚生労働省は、女性労働者の能力発揮を促進するための積極的な取り組みなどを行い、他の模範となるような企業を「均等・両立推進企業」として毎年表彰している。こうした企業が重視される理由は、社会における女性の活躍が必要とされるからだ。
わが国の合計特殊出生率は1.4程度である。若年人口が減ることは、将来の労働力人口の減少となる。今後の労働力の担い手として、女性に対する期待が高まっている。日本経済の今後の成長には、女性の活躍が欠かせないと見られているのだ。
均等・両立推進企業の株価は上昇
こうした国家レベルで女性の活躍が期待される一方、個々の企業に目を向けた場合に、本当に女性が活躍できる環境の企業は、成長を実現し、株式市場でも評価されているのだろうか。
そこで「均等・両立推進企業」として表彰された企業が、株式市場でも投資家から評価されて株価が上昇しているか、分析を行った結果がグラフである。
グラフの青色の線が「均等・両立推進企業」表彰企業の平均株価の推移を示している。これらの企業は、表彰後に安定して株価が上昇している。均等・両立推進で表彰された企業は、投資家から評価されて長期的に株高となったというわけだ。
では、なぜこのような結果になったのか? これは女性を積極的に活用する企業風土の背後には、男女を区別せずに個人の能力や成果に基づく評価や処遇を重視する経営方針があるからだ。これが企業の経営成果として表れ、株式市場から評価されていると考えられる。
均等・両立推進企業は厚労省のウェブサイトで公表されている。15年度の発表はすでに9月に行われている。このような情報を使って投資する銘柄を選ぶことも効果的だろう。
ファミリー・フレンドリー企業が特に注目される
では、厚労省の均等・両立推進企業の表彰について、もう少し詳しく見てみよう。
均等・両立推進の表彰は、「ファミリー・フレンドリー企業部門」と「均等推進企業部門」に分かれている。
「ファミリー・フレンドリー企業」とは、厚労省の定義によると、仕事と育児・介護を両立できるようなさまざまな制度を持ち、多様で柔軟な働き方を労働者が選択できる企業のことだ。一方、「均等推進企業部門」は、女性労働者の能力発揮を促進するために積極的な取り組みをしており、女性社員比率を高めたり、女性の採用を拡大したりする企業がイメージされる。
グラフでは緑色の線が「均等推進企業部門」表彰企業、赤色の線が「ファミリー・フレンドリー企業部門」表彰企業の株価の平均的な推移である。これを見ると、「均等推進企業部門」はマイナスにこそならないが、株価の上昇が鈍く、「ファミリー・フレンドリー企業部門」の一貫した上昇と比べると見劣りしてしまう。
ここで男女の均等度に関して、さらに考えてみよう。まず、女性が活躍する企業という観点で、最も基本的な基準が男女の均等度である。女性の活躍には、女性が仕事の機会を広く持てる環境であることが大前提だ。
ただ、これは女性が活躍するスタート段階といえる。より高度な活躍の機会を考えるなら、仕事に対するスタンスや時間的な制約など、個々人の違いに応じた活躍の機会を提供していくことが重要だからだ。
仕事に対する意識は千差万別
たとえば子育てをするなかで、自分の能力を生かして社会に貢献したいという強い意識を持つ人材もいる。一方、シンプルに仕事は報酬のためと割り切る人材もいるなど、仕事に対する意識は千差万別である。さらには社員それぞれが、仕事に対する考え方、生きがいを考えるうえでの位置付けも異なるなかで、会社の業務における個人の役割が適切に与えられることが、会社にとっても個人にとっても幸せな関係になる。
このような観点も踏まえて、女性の仕事の機会をより高次元で達成できるシステムが「ファミリー・フレンドリー」なのである。
ファミリー・フレンドリーは、社員の個々のスキル、仕事へのスタンス、生活における仕事の位置付けなどに応じて、企業が業務の役割を与えられるシステムがどの程度つくられているか、を見るものだからだ。
実際にファミリー・フレンドリーの面で優れた企業は特に投資家から評価されているようだ。近年は女性の活躍に関しても、投資家はより高次元の活躍企業を評価する時代になってきた。
●厚生労働省「均等・両立推進企業表彰受賞企業一覧」http://www.mhlw.go.jp/general/seido/koyou/kintou/jyusyou07.html
大和証券チーフクオンツアナリスト。筑波大学大学院博士課程修了。日経ヴェリタス人気アナリストランキング・クオンツ部門で14年連続第1位を獲得。著書に『No.1アナリストがいつも使っている 投資指標の本当の見方』(日本経済新聞出版社)など多数。