自分の好みの服を着るのは楽しいけれど、ビジネスの場では自分の役職やその場の雰囲気に合ったファッションが求められるもの。ビジネスシーンで自分をどう見せるのか、「印象管理」のプロである百貨店の役員のお二人に、自身の経験も交えて語っていただきました。

自分の仕事着にテーマを決める
●三越伊勢丹・石塚由紀さん

――普段はどんなファッションで仕事をなさっているのですか。

日々の業務がとても忙しいので、「迷わない服」に徹しています。

三越伊勢丹 執行役員 営業本部 エリア・チャネル事業 統括部 伊勢丹立川店長 石塚由紀さん

――「迷わない服」、というのは?

店長としての役割を表現しつつ、個性をさりげなく出すということです。ある時期から、自分の仕事着のテーマを決めるようになりました。

女性のマネジメント層とは、人に見られる存在ですから、与える印象に配慮したファッションが大事だと思ったのです。立川店長になってからは「エレガンストラッド」に決めています!

――「エレガンストラッド」といえば、ベーシックなアイテムを基本に、きちんとしているけれど、フォーマルすぎない軽やかさもあります。でも、どうしてそこに?

立川店のお客さまや社員の様子を見ていて、「親しみやすい店長」であることが大事だと思ったからです。

ファッションはビジネスにも重要プロのアドバイスを受けてみて

伊勢丹立川店は、地元密着型の百貨店として、愛されているところ。そこに馴染みながら、店長としてきちんとした装いであり、しかも、今という時代性をさりげなく盛り込むことを意識したのです。パリッとしたスーツではなく、少しカジュアルな雰囲気のある「エレガンストラッド」が適していると考えました。

――そのテーマにのっとれば、「迷わない服」が選べるということなのですね。

はい。私の印象がブレずに相手に伝わっていくことを大切にしています。自分のイメージを自分でコントロールすることは大事ですし、忙しい朝、迷わずに服を選べることもポイントです。

三越伊勢丹・立川店

――ビジネスの場における女性のファッションは、意外と難しい領域なのではないでしょうか。

そうですね。日本では、仕事着としての女性ファッションの歴史が浅いうえに、まだ限られたマーケットなので。でも、いろんなマーケットの中でも、働く女性の数と所得だけは増えるんです。

三越は日本で有数の長い歴史を持つ百貨店ですし、伊勢丹は「帯の伊勢丹」と呼ばれていたくらいですから、女の人のファッションを長きにわたって応援してきました。だからこそ、働く女の人に向けた提案を、もっともっとしていきたいと考えています。

――今日の石塚さんは、少し光沢のあるスーツで、上質でありながらきちんと流行を取り入れていてかっこいい! そんなファッションを選ぶには、どうすればいいのでしょうか。

紺のスーツが映える石塚さん。立川店長に決まったとき、「『明日何を着ていこう』と迷わないように」と服を買い込んだという。

手前味噌になりますが、三越伊勢丹には「シニアスタイリスト」と名づけられた販売員がいます。彼女たちは、商品についての深い知見と優れた接客力を持っている、選ばれた人たち。お客さまの要望に沿って、売り場を超えてお薦めする役割を担っている者も多くいます。

――そんな優秀な販売員のアドバイスがあったらうれしいです。一方で「買わされそう」と気後れするところも少しありますが。

そんなことありません。ぜひ、気楽に声をおかけください。

――最後に、働く女性たちに向けてのエールをお願いします。

これからは、ますます女性が活躍する時代です。私は「自分らしくあることが価値」だと思っています。その際、ファッションは表現手段として最も大切なもの。「こうあらねばならぬ」と考えすぎず、気楽にプロのアドバイスを受けながら、自分らしいおしゃれを磨き、楽しんでほしいと思います。

責任ある役割を担う女性に品格=エレガンスは必須
●高島屋・肥塚見春さん

――今日はワンピースの上に、レースのジャケットを合わせていらっしゃって、とてもエレガントですね。

こう見えて私、以前はパンツスタイルが基本だったんですよ。

高島屋 専務取締役(代表取締役) 営業本部(オムニチャネル戦略推進本部)本部長 肥塚見春さん

――そうなんですか? 何をきっかけに変わられたのですか。

岡山高島屋の店長に着任した際、「初の女性店長」ということで、個性の中にも女性らしさを表現していく必要があると感じたのです。

スカートにしてみたら、ワードローブが全部変わって。スカートかワンピースにジャケットを羽織る、そんなスタイルを楽しんでいます。

――女性店長ということ自体、社内外で目立つ存在だったわけですね。

そうですね。「見られる存在」であることを意識せざるをえない立場。その意味では、企業の中で責任ある役割を担う女性として、品格は大事。もちろんファッションにも、品格=エレガンスは必須です。

パーティーやレセプション……日常以外の装いにも対応が必要

――具体的には、どういうふうにご自身のファッションを選んでいらっしゃるのですか?

自分の趣味嗜好(しこう)もありますが、積極的に売り場のアドバイスを受けています。自分のことって、わかっているようで、実は一番、わからない領域でもあるので。

たとえばネックラインひとつとっても、微妙な開き具合によって、首元がエレガントに見えるかどうかが変わってくる。

――その気さくさが、肥塚さんのエレガンスの一部を成しているのだと感じます。2015年秋、新たにエグゼクティブキャリアに向けたオリジナルの売り場を設けられたとか。

日本橋店と新宿店に「EXCELLOUNGE(エクセラウンジ)」という売り場を作りました。

「働く女性のための服がほしい」「服選びに迷う」というお客さまの声が多かったため、高島屋オリジナルのセレクトショップを作ることになったのです。

高島屋・エクセラウンジ

――どんなコンセプトで、どんな売り場を作ったのでしょうか?

女性もキャリアを重ねていくと、日常のビジネスシーンだけではないシチュエーションが広がっていくわけです。日常のビジネスシーンだけではなくパーティーやレセプションといった社交シーン、国内外の出張といった移動シーンに対応した服と雑貨をそろえました。

肥塚さんがこの日着ていたのは華やかな黒のワンピース。「年齢を重ねても体に合うカッティングで、楽なのにきれいなんですよ」

――まさに、欲しかった売り場です! 逆にいえば、どうして今までなかったのでしょうか?

日本でエグゼクティブ的な役割を担っている女性が、まだ少数派だからでしょうか。でも、調査結果から確かなニーズがあり、これから大きくなる市場であることが裏付けられました。高島屋では、その市場を見据え、先駆けて展開していこうと考えているのです。

――バリバリのキャリアスーツだけでなく、女性ならではの華やかさや柔らかさは、どんなにステップアップしても失いたくないもの。「エクセラウンジ」に行けば、そのあたりのアドバイスも受けられるのですね。

バイヤー出身のベテランを配していますので、どんどん相談してください。女性の活躍が広がっていくように、売り場も進化させていきたいと考えています。

石塚由紀
三越伊勢丹 執行役員 営業本部 エリア・チャネル事業 統括部 伊勢丹立川店長。慶應義塾大学卒業後、1985年伊勢丹に入社。営業本部MD統括部 婦人統括部新宿婦人第一営業部販売担当長、営業本部基幹店事業部 三越日本橋本店 婦人営業部長を経て、2015年4月より現職。
肥塚見春
高島屋 専務取締役(代表取締役) 営業本部(オムニチャネル戦略推進本部)本部長。一橋大学卒業後、1979年高島屋に入社。営業を経験したのち夫の転勤に伴い85年に退社するが、87年に同社に再雇用。上席執行役員営業企画部長などを経て岡山高島屋社長に就任。高島屋取締役を経て、2013年9月から専務取締役。