出生率の向上のため、安倍総理は「3世代の近居・同居を促進する政策」の実施に取り組む意向を示しました。その是非について、3人の女性に議論していただきました。

紺野さん/現在就職活動中。夫と2人暮らし。母と弟家族が比較的近くに住んでいるが、同居はうまくいかず……。
杉山さん/人材会社勤務。1歳半の子どもが1人。実家が近くにあるので実母のサポートを受けながら働いている。
クリスタルさん/コンサルティング業界にてキャリアを積んできたが、別業界への転職を予定している。2児の母。
※エン・ジャパンの協力を得て3人の方にご参加いただきました。

効果は限定的。その前にもっとやれることがあるのでは

【紺野】私はまだ子どもはいませんが、3世代同居は非常に難しいと思います。というのも、2014年に、私の弟一家が母と3世代同居を始めたのですが、生活パターンや価値観が合わず1年しないうちに弟一家が出ていってしまったんです。

【クリスタル】それは残念でしたね。私はモンゴル出身で子ども2人のワーキングマザーですが、母国では3世代同居は当たり前なんですね。私もおばあさんに育てられましたし、子育ては大体、祖父母がやるのが伝統です。

【杉山】私も子どもが1人いますが、子どもの面倒は、近隣に住む母親のサポートを受けています。今日も娘の保育園のお迎えは私がやって、自宅で母親にバトンタッチしてから来たくらいで。クリスタルさんは、両親のフォローなしで2人のお子さんの子育て、大変でしたでしょう。

【クリスタル】職位が上がるにつれ、責任範囲が広がり、仕事が大変になるでしょう。そのとき、仕事を頑張りすぎて子育てを旦那に任せきりにしてしまったことがあったんです。そうしたら、旦那が子どもをお風呂に入れずに子どもに湿疹が出来まして。

【紺野】そんなとき、お母さんのサポートが欲しかったでしょうね。

【クリスタル】そうですね。たまにもう無理というときは、モンゴルから呼び寄せて来てもらうのですが、ビザの関係であまり長居することもできないんです。

【杉山】勤務地と出身地が違う人は3世代同居しようにもできないし、協力も仰ぎにくい問題がありますよね。

【クリスタル】親が遠方にいる場合、私もお願いしていますが、地域のボランティアの人に頼るなどコミュニティーを活用するといいですよね。行政は、もっともっと、こうした公的なファミリーサポートや保育ママの使い勝手の改善に注力してもらいたい。

【紺野】ベビーシッターを雇うのは高いし、日本人は他人を家に入れるのにも抵抗がありますものね。でも、いいファミサポさんや保育ママを見つけるのは大変だと聞きます。そう考えると、民泊システムのAirbnbのように、お客さんもお客さんを招くホストファミリーも相互に評価が付くようなシステムがあればいいですよね。そうすれば子どもを安心して預けやすくなります。

【杉山】地域の連携は重要ですよね。子育ても介護も、自分が面倒を見きれないときに、時間がある地域の方にお金を払って見てもらうことができればと思います。

【クリスタル】私自身、時間的余裕があるときに思うんですよ。子どもの保育園の送迎のとき、お友達も一緒に連れて帰って家で一緒に遊ばせてあげればお友達の親は喜ぶだろうな、と。

【紺野】地域のファミサポさんたちにも年金を増額するとか税金が一部免除とか、もっとインセンティブがあってもいいですよね。

【クリスタル】国の経済活動に貢献しているのですからね。

【杉山】でも日本の母親は、自分が子どもをちゃんと育てなくてはみたいな意識が強い。

【クリスタル】それがストレスになってかえって子どもにつらく当たるケースもあります。ですから、親が近くに住む人の場合、同居はすごくいいアイデア。

【紺野】ただ、うまくいくのは娘家族と住む場合でしょうね。私も、同居すれば母の体調の変化に気付きやすいですし、一人にしないですむし……と考えています。

【クリスタル】3世代同居すると、相続税がなくなるとか(笑)、経済的インセンティブがあると、いい後押しになるのではないかと思いますね。母国では、同居の効果もあって女性がみな活躍しています。日本のように、男性だけが14時間くらい働いて、子育ては女性に任せきりというより、2人で働いて早く帰ってきてワークライフバランスを楽しむほうがいいにきまっています。

■「3世代同居」に関する要望書

総理が推奨される3世代同居につきまして、下記により要望いたしますので、宜しくご配意賜りますよう、切にお願い申し上げます。

(1)同居・近居がかなわない人も多いですし、相性が合わず悲惨な結果になることも。登録制の子育てヘルパー、介護ヘルパーを増やし、マッチングすることで血のつながらない3世代が協力できる社会を目指すべきかと。
(2)地域を支えるボランティアやコミュニティーの活動にインセンティブをつけて活性化をお願いいたします。

以上 第11回 座談会参加者 一同

提言:子育て世代が望むのは、親の協力なしに産めないような社会ではない

●TVディレクター、ライター 藤村美里さんから

政府が「3世代同居の支援策」を打ち出したと聞いて、驚いた人は少なくないと思います。それも、少子化対策の一環として。子育て世代からの反対意見は、ほかに取るべき少子化対策があるはず、順番が違うという憤りが理由です。

昔のように3世代同居に戻れば、介護施設や保育園を増設せずに済む、そんな単純な問題ではありません。3世代同居が減ったのは、今の社会の形に合わなくなったから。祖父母の協力はありがたいものですが、同居はトラブルが多く、近居も親世代が持ち家か、首都圏か地方か、と格差を生むことにもなります。

今、3世代同居を推進したら、増えるのは母方祖父母(妻の両親)との同居でしょう。家事や育児を手伝ってくれる実母がいたら、女性は安心して働くことができます。

でも、育児のパートナーが夫ではなく実母になってしまいそうですし、共働き子育て世代が集中する大都市圏のマンションに3世代同居して、本当に子どもが増えるのかも疑問です。

そもそも、3世代同居を推進することで目指すのは、どんな社会なのでしょうか。

欧州連合統計局の統計によると、3世代で同居をしている世帯は欧州のほとんどの国で5%以下、少子化対策が成功している北欧のフィンランドやスウェーデンでは1%にも届きません。

今の子育て世代が望んでいるのは、仕事も育児も夫婦で協力してできる社会。親の協力なしには子どもが産めないような社会ではないのです。

女性活用で労働力不足を補いつつ、両親を介護し、定年後は孫の面倒を見る。そうして限界まで働かざるを得ない社会が、政府が目指す社会なのでしょうか。日本が、本当の意味で女性が輝ける国になることを切望します。