2005年、エン・ジャパンの取締役となった河合さん。最近は、大きな失敗を経験したという。スピードが他社との勝負を決めるインターネットの世界にあって、時間優先か、品質確保かはついて回る課題だ。失敗の根本もそこにあった。河合さんは誠心誠意、謝ることに徹した。
リーマンショック対策で立ち上げた事業が……
インターネットの求人求職情報サービスでおなじみのエン・ジャパン。2005年、エン・ジャパンの取締役となった河合さんは、中学生のころ、こう考えていたという。
「勉強が嫌いだったので、きっと社会に出たら仕事ができるに違いないと思っていたんです（笑）」
予感はかなり当たっていた。
短大を卒業して入った会社は教育関連の大手だったが、「直接社長と話ができるような会社で働きたい」と考え、6年後にエン・ジャパンの前身、日本ブレーンセンターへ移る。求人広告を取る営業で成果を挙げた。
「営業は好きではありませんでしたが、数字がはっきり出る仕事が性に合っていたんでしょうね」
30歳でマネジャーとなり人材派遣事業の立ち上げや、数々のサイトを企画・開設し、42歳で取締役。仕事も充実し、昇進もとんとん拍子だ。
ところが、つい3年ほど前、50歳を目前にして手痛い失敗を経験した。それも同じ年に2つも。キャリアにも厄年があるのかもしれない。
会社が過去最高益を出した翌年、リーマンショックで一気に業績が悪化する。そこで、人材サービスだけでなく新規事業にも力を入れようと、河合さんはウエディング事業を提案し立ち上げた。ウェブをつかって結婚式場を探せるサービスだ。ところが3年を待たず撤退することになってしまう。
「けっこう大きなマーケットだったので参入したのですが、人材サービスと違って予算決定のタイミングが年1回しかなく、商談の機会が少なかったり、利益率が低い業界なので新たなメディアに広告宣伝費をつかう余裕がないということを後から知りました。やはり、自分の土俵で戦うべきということを思い知った経験です」
これ以上続けても黒字化の可能性がないと見切って、自ら事業に幕を引いた。
もう一つの大きな失敗
ウエディング事業から撤退したわずか2カ月後、もう一つの大きな失敗を犯してしまう。別事業のサイトをリニューアルするその日にサイトが立ち上がらず、元に戻すしかないというまさかの事態に陥ったのだ。
「スピードが求められる仕事でしたが、もっと検証を重ねればよかった」
クライアントの派遣会社がおよそ500社。その先には何十万人ものユーザーがいる。すべてに迷惑をかけてしまった。なかには同じタイミングで自社のシステムも変更しようと準備していたクライアントもあった。
「ひたすら全力で謝るしかありませんでした」
なかなか許してくれなくても、最後には「でも取引はやめないから」と言ってくれる顧客もいた。それだけ期待されているのだから、必ずどこかで挽回すると心に誓った。
これほど大きな失敗でなくても、「1年の間にいくつも新サイトを開いたり、複数リニューアルしているので、中小規模の失敗は何かしらしています。10億円くらいのことは簡単にしでかします」。
もちろん少しはヘコむ。
「でも『ごめんなさい』で済むのが、うちの会社の寛大なところで……（笑）」
トップに懐の深さがあるから河合さんを活かせるのだろうし、本人も失敗を補って余りある成果を出しつづけられたのだろう。
ベンチャーで働くことは女性にとってチャンス
ベンチャーという水も合い、伸びやかにキャリアを築いてきた河合さん。いま自分のキャリアを振り返ったとき、ベンチャーで働くことは女性にとってチャンスを広げると考える。
「私がこの会社に入ったときは社員が50人くらいでした。人が足りないので早くから大きい仕事を任されたのが、自分にはよかったんでしょうね」
いまだ男女ともに、就職活動での大手志向は強い。だが人材を潤沢に抱える会社で、チャンスをつかむのはハードルが高い。
「もちろん特別に優秀な方ならいいでしょうが、多くの女性にとって大手企業で仕事の裁量を広げていくというのは、ものすごい競争です。勢いがあって、これからという会社で働けば可能性が広がると思います」
仕事に没頭する時期があってもいい
30年のキャリアの中には、ときに寝食を忘れて働くという時期もあった。たとえば37歳のとき。自身で企画した派遣サイトの開設前は2カ月間、朝7時半に出社し、終電まで仕事をつづける日々。会社の責任者として外部パートナーとともに開発を進め、業界ナンバーワンのサイトに育て上げた。
「ただ忙しいだけなら疲弊してしまったかもしれませんが、オーナーの立場で決裁権を持って仕事ができたので楽しかったですね。それまでのキャリアすべてが役に立ったと感じられる経験でした」
女性が敬遠しがちな管理職も「さらに裁量が広がって楽しい」と言う。そういう経験から女性も、若い独身のときに一度は仕事に没頭するときがあってもいいのではないかと考える。
「結婚し出産となれば家庭との両立が必要になります。24時間、仕事のことを考えられるのは独身のときだけ。もちろん体や精神のコンディションと相談すべきですし、できないことは、はっきり『できない』と断るべきですけど」
押しが強いわけではない。むしろ当たりは柔らか。だがタフな精神が垣間見える。オーナーシップを持つ働き方がそのタフさを支えているように思える。
■河合さんの経歴
1984年（20歳）短大卒業／教育業界に就職
1990年（26歳）日本ブレーンセンター入社（トップの顔が見える会社へ転職！ 初めての営業職）
1995年（32歳）人材派遣事業を立ち上げ（ポータルサイトを立ち上げ）
2000年（37歳）現「ミドルの転職」「エン派遣」事業部長就任／エン・ジャパンへ移籍
2005年（42歳）取締役就任
2008年（45歳）3事業の部長を兼務（リーマンショック）
2011年（48歳）「グリーン・ウエディング」事業部長就任（新規事業に失敗→撤退）
2013年（50歳）ブランド企画室長就任（プロジェクトのリニューアル失敗）
2014年（51歳）日経広告賞を受賞
■Q＆A
■好きなことば
蓼（たで）食う虫も好き好き（人と企業を結び付ける仕事においては、百人百様の価値観や事情があることを理解することが大切）
■趣味
乗馬
■ストレス発散
寝ること
■愛読書
『「超」入門 失敗の本質』鈴木博毅著
1963年、愛知県出身。84年に短大を卒業後、教育業界に就職。90年日本ブレーンセンターへ転職。人材派遣事業を立ち上げ、2000年にエン・ジャパンに移籍。05年より取締役。
