サカタさんが前を通るたびに不思議な違和感がある不動産会社があるといいます。違和感の理由とは? 時代は変わり、会社も変わる。ではそこで働く人は、ちゃんとその変化についていけているのでしょうか。
1台もパソコンがないオフィスの光景を想像してみてください
私がよく使う道の途中に、少し年季の入ったビルがあります。1階に入っているのは、そのビルを所有していると思われる不動産会社。大通りに面しているガラス張りの執務室は調光用の縦型ブラインドで覆われていますが、それでも中が見えることも少なくありません。毎日のように前を通るのですが、いつも不思議な違和感がありました。
何かがおかしい。何がおかしいんだろう? ある日私は意を決して、その前をわざとゆっくりと通過し、違和感の正体をつきとめることにしました。すると……
「あ、パソコンがない!」
そうなのです。古いタイプの事務机の上には緑のデスクマット、ガラスのデスクカバーがまだまだ現役です。そして、なんと、フロアにある机という机の上に見事にコンピュータらしきものがありません。1台もない。古めかしい帳簿にすべて手で書き入れて、連絡は固定電話とFAX。パソコンがないために、執務室の中の見晴らし(というのもおかしな表現ですが)がとてもいい。本当にスッキリとしていました。
そうか! と、違和感の正体にたどり着いた満足感と共に「そういえば、私が働き始めた頃には、別にこう言う光景は珍しくなかったな」と、改めて不思議な気持ちになったのです。時代はどんどん変わっている、が、自分は時代に合わせて、その中身をバージョンアップできているのか? というお話を少し。
イマドキの部下に上司が負けてしまうかもしれない「穴」の話
以前、「スキルの可視化」というテーマで開催したセミナーをプロデュースしていた時のことです。セミナーに登壇する企業の人事担当者が、興味深い発言をしていました。
人事制度が今ほど整備されていなかった時代に、年功序列的に昇格させてしまった人の中には、後で精査すると、そのポジションに求められるスキルが備わっていない人も少なくなかったというのです。いわゆる“スキルに穴がある”状態です。その人が若手だった時代にはしっかりとした育成プランがなかったとか、他の企業からの中途入社だからなど、事情はいろいろです。
精査するとポロポロと穴が見つかってしまい、さて、どう埋めればいいのかと思案した、という話でした。
さらに驚くべきは(その企業に限った話で、一般性があるとは言えないとお断りしておきます)、穴があるタイプの上司を細かく見ていくと、その足りないスキルが必要なパフォーマンスを出せない要因になっている、またはチーム全体を停滞させる原因になっているというのです。
けれども、それはポジションに求められるスキルを整理し、すべての従業員のスキルを可視化することで初めて分かった話であって、今までは「どうしてあのチームはパフォーマンスが上がらないのだろう」と思っていただけだと、その人事担当者は言っていました。
似たような話は別の企業でもあります。その企業では、上司になって伸び悩む人の多くは、上司になる前、つまり若手時代に身につけておかなければならない能力を身に付け損なっていて、結果としてそれが足かせになり伸びを欠いてしまっている、という発見があったそうです。
かつては「地位が人を作る」と言って、多少のことは目をつぶっても、その地位に就かせれば、それなりにふさわしい仕事ができるように人は成長するはずと思われていました。しかし、そうでもないケースがあったということです。
“できると思われているが、実はできない人”が見破られる時代
企業の人事評価システムに関する仕事に携わっている関係で、似たような事例は山のように見ています。例えば、評価は高いのにスキルがとても低く、年齢も高いという人は、今回のコラムで例に挙げている“穴のある人材”です。このタイプの人材は、当初、スキルは低くても、別の能力がずば抜けている(コミニケーション能力が異常に高いなど)のだろうと推測していたのですが、個人を特定していくと、実はそうでもない。
ただ、経験がある(いわゆる地位が人を作った例になるようです)ので、なんとなくは仕事ができる。そして、部下もその意を汲んで、なんとなく仕事を進めていく。結果的になんとなく成果を出し、なんとなく評価されている。
つまり、“なんとなく”の連鎖が結果オーライを作り出していた、幸運な例であることがわかったのです。しかし一度苦境に陥ってしまうと、いままで効力を発揮していた“なんとなく力”が通用しなくなる。ただ、実際にそういう場面に出くわすまでは、その評価が高い人に能力が不足していることに誰一人として気がつかない、という状態。これは、多くの企業でごく一般的です。
ただ、そういう見えなかった時代はそろそろ終わりを告げそうです。様々な人事データを分析することで、できると思われていた人が、実はできなかったと暴かれる時代が、すぐそこまでやってきているのです。
キャリアの曲がり角世代ができる、穴を埋める方法とは
若い頃にきちんとした育成プログラムを受けられなかったために、あるいは、必要となるスキルが時代の変化とともに変わってきたために、現在必要なスキルを身につけずに上司のポジションにいる。そしてその人自身がチームを停滞させている。そういう人は珍しくありません。
「そんなことを言われても、いまさらどうやって穴を埋めればいいの!」と言われてしまいそうですが、まだまだ挽回の余地はあります。やり方は簡単。若手の指導を積極的に買って出ることです。注意したいのは、自分が教えるのではなく、若手と一緒に現状に最も即したスキルを一緒に身につけること。そう、自分も一緒に学ぶのです。
パソコンがフロアに1台もない若手時代を過ごした人は、それが当たり前のご時世となったイマドキの若手と一緒に、イマドキの若手向けの育成プログラムを受ける(建前的には指導するというスタンスでOK)ことで、少しずつ、そしてこっそりと穴を塞いでいくことをお勧めします。「どうやって学べば、仕事に生かすことができるのか」ということは、いままでの経験から皆さん十分に理解しているはずです。部下に追い越されるなんてことはまずないはずですから、安心してトライしてみてください。
就職や転職、若手社会人のキャリア開発などの各種サービスやウェブサイトのプロデュース、ディレクションを、数多く&幅広く手がけている。直近は、企業の人事が持つ様々なデータと個人のスキルデータを掛け合わせることにより、その組織が持つ特性や、求める人物像を可視化、最適な配置や育成が可能になるサービスを作っている。リクルートワークス研究所『「2025年の働く」予測』プロジェクトメンバー。著書に『就職のオキテ』『会社のオキテ』(以上、翔泳社)。「人が辞めない」という視点における寄稿記事や登壇も多数。