研修もなく上司からも教えてもらえない、取引先とのメールや手紙の書き方。“一目置かれる”にはどんな書き方をすればいいのか? 「告白」「復縁」「お礼」「謝罪」「遺言書」など、あらゆる分野の相談を受ける代筆屋、中島泰成さんに教わります。

取引先とのメールや手紙、どんな工夫をしていますか?

重要なことなのに、会社では研修もなく上司からも教えてもらえないこと。取引先とのメールや手紙の書き方は、その一つではないでしょうか。

教えてもらえないだけに、悩んでいるウーマン読者も多いのでは? と添削にチャレンジしてくれる人を募集したところ、想定より多くの方からご応募がありました。

選考の末に選ばれた読者は、これまで思い悩みながらも、ビジネスレターに向き合ってきた方々。ある方は便せんやシールを用いて感謝の気持ちを込めようと心掛けてこられました。ある方は、心を打たれる文面を見つけるとファイルにとじ、少しでも自身の文章を良くしようと努めてきました。それでも皆さん、口をそろえてこう言います。

「自分のやり方で本当に合っているんでしょうか」「自分の業務に適したやり方を本やネットで探しても、どこにも載っていないんです」

そこで指南をお願いしたのが代筆屋の中島泰成さん。「どの文章もルールを守ってしっかり書けています。でもそれだけでは“どこにでもある文章”になってしまいます」

型にはまった文章を卒業して「その先」に行きたい。他と違った一目置かれる文章を書きたい。そんな希望をかなえる、優しく愛のあるスパルタ文章塾の始まりです。

指令1:手紙編

●挑戦者:横尾ちひろさん(仮名)/製薬会社に勤務。文章がマンネリ化しているのを何とかしたい。

【指令】何度か直接お会いしたことのある比較的距離の近い医師(超多忙)への、講演の依頼文を書いてください。

【横尾さんの疑問】署名はどこに、どのように入れるのがいいのでしょう?/メールで使っている文章構成そのままですが、手紙もこれでいいでしょうか

先生のお手本

【先生が指摘する4つのポイント】
(1)お決まりの時候の挨拶はやめる
自分が実際に感じたことを時候の挨拶として入れたり、相手のことを思いやる言葉を加えたりして文章に心を注ぎ、他と差をつけましょう。
(2)相手を立てるひと言を真っ先に
プロジェクトうんぬんの話は相手には関係のないこと。相手を立てるひと言を先に置き、最後に相手の力が必要なことを念押しすれば完璧。
(3)段落と行間で読みやすくする
段落の頭は一字空け、話の区切りで改行する。それだけでぐっと伝わりやすくなります。読みやすくする工夫は、書く人の最低限のマナーです。
(4)「拝啓」を書いたら、「敬具」で締める
「拝啓」を書く必要のない時代になってきたとは感じていますが、書いたのなら対応する「敬具」は必要です。署名の位置は敬具の後に。

●忙しい売れっ子をその気にさせる差別化を考えよう

文章って読むだけで疲れますよね。形式ばった手紙なら、なおさらです。そのため僕が代筆する際は、できるだけ言葉をやわらかくしてクライアントの思いが相手に伝わるように心掛けています。今回のように忙しい人に宛てた依頼文となると、より一層その点に気を配りたいところです。

横尾さん(仮名)の手紙を一読した印象ですが、まず、宛名の後の「御侍史(おんじし)」に驚きました。固い! 業界ではよく使う表現とのことですが、何度か会ったことのある相手なら省いてもいいでしょう。

次に気になったのは、先生の必要性よりも先に自分のことを伝えようとしている点。構成を入れ替えるだけで印象がぐっと良くなります。

先生は依頼状をたくさん受け取っているはず。そんな中で、「この会社の力になろう」と思ってもらうには差別化が重要です。最初の「先生の顔を思い出しました」は、誤解を生じそうな場合は省いてくださいね。

指令2:メール編

●挑戦者:八重川朋子さん/アサヒビール広報部。役員秘書、宣伝部を経て現職。手紙やカードを送る習慣はすでにあるが(年間30~40通)、さらにブラッシュアップしたい。

【指令】仕事でお付き合いがあり、何度も飲みに行ったこともあるくらい距離の近い方に向けて、異動の挨拶を書いてください。


件名:異動のご挨拶
プレジデント社
赤池 淳一様

拝啓、平素は格別のご高配を賜り誠にありがとうございます。※1
さて、私事ではございますが、9月1日付にて、マーケティング本部宣伝部より、マーケティング本部広報室への異動となりました。

宣伝部在職中は赤池さんをはじめ、「dancyu」スタッフの皆さまには大変お世話になり、誠にありがとうございました。
※2毎月のタイアップ連載では、数多くの飲食店での撮影にご協力いただきましたが、この4年間で特に印象深かった撮影は、本年5月に実施いただいた、ニッカウヰスキー余市蒸溜所と宮城峡蒸溜所の撮影です。企画の決定から撮影、原稿制作、校了まで非常にタイトな※3スケジュールの中、ニッカウヰスキーのブランド価値向上につながるような素晴らしいタイアップ広告に仕上げていただいたのは、いつも弊社のことを考えて頂いているスタッフの皆さまのお陰と心より感謝申し上げます。※2(「毎月の~申し上げます。」まで)

「宣伝」と「広報」、アプローチの※3仕方は違いますが、“お客様に当社商品の価値をお伝えする”ミッション※3は変わらないと思っております。
今まで皆さまから教えて頂いたことを活かし、広報部門でも数多くのメディア様に取り上げていただけるよう精進いたしますので、引き続きご指導・ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。※4

アサヒビール株式会社
八重川 朋子
敬具

※【八重川さんの疑問】目上だけど親しい方。どこまでくだけていい?


先生のお手本


件名:異動のご挨拶
プレジデント社
赤池 淳一様

いつもお世話になっております、八重川です。※1
私事ですが、9月1日付で、マーケティング本部宣伝部よりマーケティング本部広報室への異動となりました。
宣伝部在職中は赤池さんをはじめ、「dancyu」スタッフの皆さまには大変お世話になりました。
本当にありがとうございました。
※2毎月のタイアップ連載では、数多くの飲食店での撮影にご協力いただきました。
この4年間で特に印象深かったのは、本年5月のニッカウヰスキー余市蒸溜所と宮城峡蒸溜所の撮影です。
企画の決定から撮影、原稿制作、校了まで非常に過密な※3スケジュールでした。
厳しい日程の中、ニッカウヰスキーのブランド価値向上につながる素晴らしい広告に仕上げていただいたことは忘れられません。いつも弊社のことを考えてくださるスタッフの皆さまのおかげだと、心より感謝しております。※2(「毎月の~感謝しております。」まで)

「宣伝」と「広報」、表現の※3仕方は違いますが、“お客様に商品の価値をお伝えする”本質※3は変わらないと思っております。
赤池さん、スタッフの皆さまから学んだ「相手のことを考える」という心構えを仕事に活かし、広報部門でも数多くのメディア様に取り上げていただけるよう頑張ります。
このご縁を大切にしたいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。※4


【先生が指摘する4つのポイント】
(1)堅苦しい決まり文句は不要
定型句は大半の人が目で追うだけで、頭に入っていません。「簡単な挨拶+名前」で、文章を読む態勢をつくってもらいやすくなります。
(2)一文は60字以内に収める
一文が長い文章はメールでは非常に読みにくいです。読みやすい一文は60文字以内。強調したい一文は、さらに改行しましょう。
(3)カタカナ語はできるだけ避ける
カタカナ語は便利ですが、軽く見えて文章を安っぽくします。日本語を知らない人だと思われやすいので、言い方を換えることをすすめます。
(4)今後もつながっていたいことを伝える
異動の挨拶は、異動後もつながっていたい相手に送るもの。相手から学んだことを具体的に書き、この先もご縁を大切にしたい気持ちを伝えて。

●失礼にならないギリギリの線を狙いたい

異動の挨拶は、同じ時期にたくさん受け取る文章の一つ。埋もれてしまわないように、きらりと光るものを届けたいですね。

八重川さんの挨拶文は、きれいにまとめられているのですが、どこかで読んだような……。相手の方は立場上、手紙やメールをたくさんもらう方ですよね。だからこそ、ほかの人と違う表現で、一歩踏み込む必要があります。

「いただいた」「いただきたい」といった固い言葉をあえて崩し、失礼に当たらないギリギリのところで、友達とのやり取りのような表現を、随所に入れましょう。文中に相手の名前が入っているのはとてもいいことです。誰でも自分の名前を見るとドキッとして、特別な文章が届いたという気持ちになります。相手の立場が上だからこそ、表現を演出し、喜ばせましょう。

中島泰成
代筆屋、行政書士。小説『代筆屋』(辻仁成著)をきっかけに代筆業をはじめ、テレビ、新聞などで紹介。「告白」「復縁」「お礼」「謝罪」「遺言書」など、あらゆる分野の相談を受ける。著書に『プロの代筆屋による心を動かす魔法の文章術』。