政府は2020年までに指導的地位に女性が占める割合を3割にする、と目標を掲げた。2015年11月現在、上場企業における女性役員はわずか1.2%。女性役員の多くは50代かつ大卒か院卒の経歴を持つ。が、大卒なら誰でも出世できるわけではない。「大卒」の切符を持たず、上場企業の役員となったシーボンの金子靖代さんにインタビューし、その資質を分析した。


■会社概要
【社名】株式会社シーボン
【事業内容】化粧品製造販売(東証1部)
【売上高】約140億円(2015年3月期)
【従業員数】1162人(正社員)
【役員】男性4人/女性6人(女性比率60%)


反骨精神は誰にも負けない

「この会社に入社していなかったら、今の自分はない」

そう語るのは、化粧品会社シーボンの代表取締役社長、金子靖代さん。女性、短大卒、転職組、さらに美容部員からスタートし、トップに昇りつめたという1部上場企業では、ある意味異色の経歴を持つ代表である。

株式会社シーボン 代表取締役兼 執行役員社長 金子靖代さん

「入社以降、化粧品会社としてのすべての業務を経験しました。化粧品会社なので、女性が活躍する土壌はあったのだと思います。けれど、どんな職場でも仕事ができる女性はねたみを受けるし、生意気だと言われる。私も『海千山千』と呼ばれたことも。逆にそれを褒め言葉と捉えて突き進みました。反骨精神は誰にも負けませんでした」

シーボンへは医薬品卸会社からの転職入社。短大卒業から3年後、23歳のとき。

「メイクは習いに行くほど好きでしたが、事務職が希望。でも配属されたのは美容部員。単に『研修』だろうと思っていましたが、いっこうに事務職になれる気配はなく、だまされたと思ったほどでした(笑)」

美容部員として2年、その後東京本社へ異動し、当時珍しかったネイリストとして2年。教育担当として、支店長クラスの教育にも携わった。

「それまで2年周期で猛烈な“辞めたい症候群”に襲われました。『製品開発がしたい』と伝えたところ、『ならば、そういう課をつくれ』と言われ企画室を立ち上げました。室長として多くの製品開発に励みました」

未経験の分野である管理本部長に抜擢

転職から18年目となる2000年、これまでの実績と手腕を買われ、まったく未経験の分野である管理本部長に抜擢。取締役に就任した。総務・人事・経理・システムすべてを網羅する管理部の知識はゼロに近い。

「このときほどハードルの高さを感じたことはありません。まるで10段飛びのよう。知識のない人間が管理本部長なんて考えられない。一体何をやればいいかすらわかりませんでした。社内の誰にも不安な気持ちを相談できず、顧問である公認会計士の先生に相談したところ、『大丈夫。今、会社は上場準備をしているから、1年も経てば全部わかるようになる』と。そういうものかと思いましたが、『金子ならやれる』と抜擢されたのだから、毎日無我夢中でやるしかありませんでした」

株式公開実現に向けて当時の代表が掲げた、「専門知識がなくても信念があればできないことはない」という言葉を胸に、独学で勉強しながら、実務をこなす日々。大抜擢に対する社内の風当たりも感じたという。

「『部長は、何も知らない』と言われたことも。でも、結局知らなくていいこともあるんです。知らなければ『この人に言ってもしょうがない』と部下も言い訳するのをやめ、結果を出すしかなくなります(笑)」

女性だってもっと貪欲になっていい

02年、43歳で専務取締役に就任。管理本部から営業本部の統括となり、取締役副社長を経て、46歳で代表取締役社長に就任した。先進的な土壌を持ったシーボンに転職したからこそ、開けた道。が、先進的な社内とは裏腹に社外では女性であることで、不愉快な思いも多々経験したという。

「男性役員と会合に出席すると、『奥様?』と言われることも。国が掲げる女性活躍とは裏腹に、実態は遅れていると痛感しました。

わが社には学歴や性差の壁はありません。実力第一。優秀な人物が100%有名大学に行くわけではないので、有名大学出身者しか採用しない、役員にしないという考えはありません。上に上がるには人格的要素も重要だし、総合力で判断されるものだから。けれど、上ができると判断しても、昇進にストレスを感じる女性は圧倒的に多いですね。肩書、収入がアップするぶん責任は倍増するので、負担を感じるのでしょう。

女性だからといって、家庭と仕事の両方を得てはいけない理由はありません。まずはチャレンジしてほしい。千手観音のようにたくさんの手であれもこれも手に入れてもいいはず。最初からあきらめる必要はないのです。手に入れたかどうかは結果でしかない。タイミングや“運”もあるかもしれないけれど、運を引き寄せるには、置かれた場所で一生懸命やることしかないのです。その姿を誰かが見ていて、より広いいけすへと放してくれる。放された池での泳ぎを楽しんでいれば、階段を上るように徐々に小さな魚でも大きく成長できます」

■金子さんの経歴

(1959年)北海道美唄市で生まれる
(20歳)札幌市の短大を卒業/医薬品卸会社へ就職、3年間事務員として働く
(23歳)シーボン札幌支社へ転職、美容部員として配属される
(24歳)東京本社へ異動/ネイルサロン勤務となり、米国研修へも参加/ネイリストとして活躍後、美容部教育担当となる
(30歳)企画室を立ち上げ、企画室長に/さまざまな製品を開発
(41歳)管理本部長に抜擢
(43歳)専務取締役就任
(44歳)専務取締役営業本部長就任
(45歳)取締役副社長就任
(46歳)代表取締役社長就任/就任後、株式上場を果たし、現在に至る