常勤監査役として、通常の業務監査のほかに全220支店の30%ほどの店舗を監査する遠藤さん。「すべての問題は現場から上がってくる」の考えから、役員となった今も精力的に支店に足を運び続け、本社デスクは常に空席だ。遠藤さんがナックに入社したのは、1979年23歳のとき。離婚後、生活のために働かなくてはならない状況だったからだそう。


■会社概要
【社名】株式会社ナック
【事業内容】宅配水事業(クリクラ)、注文住宅(レオハウス・ジェイウッド)、レンタル事業(ダスキン)、通販事業(JIMOS)、建築コンサルティング事業など(東証1部)
【売上高】854億円(連結、2015年3月期)
【従業員数】2103人(連結、正社員)
【役員】男性6人/女性1人(女性比率14%)


入社3年、真摯な態度が会社側に評価される

株式会社ナック 常勤監査役 遠藤彰子さん

「事務職採用ですし、最初は腰掛け程度の軽い気持ちでした。でも、当時のナックは急成長中。やるべきこと、覚えなければならないことがたくさんあるのですが、とてもユニークな会社なので仕事がおもしろくておもしろくて……土日に会社を休むのがもったいないくらい夢中で仕事をしていたら、入社3年で事務方のリーダーとして新支店の事務指導や教育を任されるようになりました」

店舗状況をきちんと把握していなければ的確なアドバイスはできない。遠藤さんは、時間を掛けて多くのものを見て回り、各店舗の状況を根底から理解したうえで、プラスαの個人的見解を加えてアドバイスし、より皆が働きやすい環境をつくるために尽力した。創業者である当時の社長は「女性店長、女性管理職、女性役員をつくりたい」という姿勢だったので、真摯(しんし)に仕事に取り組み、事務方として会社を支える遠藤さんの仕事ぶりは大きく評価され、次々と責任ある役職を任せられたのだ。

仕事は誰のためでもなく自分のためにするもの

「常に心掛けたのは、『仕事は自分のためにする』ということ。会社のためではなく、上司のためでもなく、自分のため。それが結果的に会社の利益につながるんだと思います。自分以外の何かのために働いていると、見返りを求めてしまいますからね。『あれだけやったのに』って。

以前、こんなことがありました。チーフ、主任……とトントンと階級が上がり、28歳で副長になったとき、今までは与えられる役職をただ受け入れるだけだったのに、『ここまできたのだから、次は課長を目指したい』と欲が出てきたんです。でも、何年経ってもどんなにがんばっても、一向に結果が出ない。そうしているうちに、がんばることに疲れて『なれないならなれないでいいや。今までどおり、自分のやるべきことをやろう』と肩の力を抜いた途端、課長に昇進。今考えると、空回りしていた期間は『認めてもらうため』に仕事をしていたんですね。会社や上司はちゃんと部下を見ているものだと感心しました」

つらいときは踏ん張って乗り越えるからこその未来

前のめりに仕事に取り組む遠藤さんにも会社を辞めようと思ったことが3回ほどあったそう。

「1度目は、チームで取り組んでいた仕事に失敗したとき。会議の席で謝罪を求められたんです。でも、個人プレーで失敗したのではなく、あくまでも上司の判断のもとでの失敗。失敗は失敗なので謝るのは当然ですが、それならば上司も一緒に謝るべきだと、辞職覚悟でお偉方の前で要求を突っぱねたんです。そうしたら、社長が『確かにそうだ』と私の主張を理解してくれて、チームで謝罪して幕引きに。

2度目も仕事の失敗。このときは私個人の失敗だったので、かなりへこみ、社長に『仕事を続ける自信がない』と伝えると、『聞かなかったことにする』とのひと言で終了。

3度目は、仕事が乗りに乗っていた時期、突然、周りの人間が私を無視するようになったんです。社長に目をかけられていたこともあり、同僚からねたまれていたのかもしれません。でも、こんなことで辞めるのは悔しいじゃないですか。どうせ辞めるなら、引き留められる状況で辞めたい。その後、外野を無視して目の前の仕事に集中していたら、誰も何も言わなくなりました。

これはひとつの考え方ですが、転職しても同じようなことはあります。つらいことがあって『もう無理!』と思っても、そこでがんばれなかったらほかでも同じ結果になるでしょう。やっぱり、根性は必要。私には根性があったから、今の地位を得ることができたんだと思います。学歴だって、性差だって、コンプレックスだと考える必要はないし、たとえコンプレックスだとしても、今更変えようがないことで悩んでも仕方がありません。今、目の前にある仕事を一生懸命やっていれば、会社や上司はちゃんと評価してくれます。そして、今を楽しむこと。そうすれば、結果はおのずとついてくるんじゃないでしょうか」

●学歴・性差を超えて、役員になるための資質とは?
・どんなことにも一生懸命取り組む
・根性がある
・外野のヤジを気にしない
・反骨精神がある
・仕事を楽しむ
・あらゆることに興味を持つ

共通するのは、パワフルで気骨あふれる女性であること。そして、出世を望んで仕事に取り組んできたのではなく、目の前の課題にまじめに取り組んできたからこそ、今があるということ。それは受け身の姿勢ではなく、向上心を持って自己研さんを積み、コツコツ丁寧な仕事ぶりが出世の要因に。学歴や性差という問題が出世の妨げにならなかったのは、単純にその実力故といえる。

■遠藤さんの経歴

(1956年)北海道虻田郡倶知安町で生まれる
(18歳)神奈川県の高校を卒業/製菓会社へ事務職として入社
(20歳)結婚を機に退職
(21歳)離婚後、パートで経理業務に携わる
(23歳)ナックへ事務職として正社員入社
(26歳)新支店の指導・教育係を任される
(28歳)副長就任
(36歳)課長就任
(39歳)事務長就任
(45歳)執行役員レンタル事業部/事務長就任
(49歳)取締役レンタル事業部事務長就任
(54歳)取締役経理部経理会計室長就任
(55歳)常勤監査役就任/現在に至る