認可保育園の入園申込はまだ先ですが、早めに見学を始めて、認可・認可外の選択肢を広げる人がふえています。そこで、園見学の「見る目」を養うための予習として、少し突っ込んだ解説をしておきましょう。

0歳児の「担当制」って何?

見学では、案内役の先生から「0歳児クラスは担当制でやっています」と説明されることがあるかもしれません。え? 何? 担任のこと? と思うかもしれませんが、ちょっと違います。

「担当制」とは、子ども一人一人に主に関わる保育者を決めておく保育のやり方のことです。

0歳児には3人に1人以上の保育者がつく決まり(最低基準)なので、たとえば15人のクラスだと、担任は最低5人います。さらに早朝保育や延長保育、給食時間などには補助の保育者が入るので、子どもにかかわる先生はたくさんいることになります。でも、0歳から2歳にかけての子どもは、「人見知り」することからもわかるように、特定の大人を頼りにして心を安定させる時期があります。この関係を発達心理学では「愛着関係」と言います。世話をしてくれる大人と愛着関係を結ぶことは、栄養や衛生と同じくらい、子どもの発達に影響を与えることが研究で明らかになっています。家では親、保育園では特定の保育者が、子どもにやさしく話しかけたり、スキンシップをもったりすることで、愛着関係は自然に形成されます。

担当制の保育でも、先生の勤務のローテーションがありますので、ずっと一人の先生が見るわけではありませんが、おむつを替えたり授乳したり、泣いたときにだっこするなどのことを、主に担当の先生がすることで、子どもの安心感つまり情緒の安定を確保するというのが、担当制のねらいです。なお、クラスの人数が少ない場合は、担当制にしなくても自然に親密な関係が形成されやすいとも言えます。

発達を脅かす保育に注意

「担当制」の裏返しで、なんらかの理由で保育者が十分に子どもにかかわれない場合には、子どもにとって問題のある保育になってしまうことがあります。泣いても誰もきてくれない、物を扱うように無表情で世話をされるというような保育を受けていると、子どもは他者と関わることへの意欲を失い、最悪はサイレントベビーといって、泣かない赤ちゃんになってしまうことがあります。これは発達の黄色信号です。

見学で0・1歳児の保育を見るときには、次のようなことに注目したり質問したりしてみてください。

・喃語(なんご)にも答えるなど、先生が子どもに応答的に関わっているか
・おむつを替えるとき子どもにやさしく語りかけているか
・子どもを長い時間泣かせっぱなしにしていないか
・保育士が子どもとゆったりするゆとりがあるか
・短時間保育士が入れ替わり立ち替わり保育するような体制、系列施設から応援の保育者がこないと人数が足りないような体制になっていないか

保育士資格をもっていない先生もいる?

認可にも認可外にも、次のような「子ども対保育者」の人数の基準(配置基準)があります。

●0歳児→3対1
●1・2歳児→6対1
●3歳児→20対1
●4・5歳児→30対1

認可保育園ではこの配置で、保育士の資格をもった保育者を配置しなければなりません。一方、小規模保育や認証保育所等の認可外保育施設では、有資格者の割合が低くてもよいことになっています。

保育士は、さきほど解説した子どもの年齢・発達に応じて必要な保育内容も含め、保育の理論や技法、子どもの発達や心理、保健、栄養、児童福祉などについて学び、養成校を修了するか試験に合格するかして資格を取得しています。家庭での子育てとは違い、さまざまな個性をもつ子どもに適切な保育を実施するためには、保育士としての専門性を身につけていることが必要になります。

見学の際には、保育者の人数や資格の有無を質問してみてください。その場合、

(1)担任(そのクラスの指導計画を立て実行する常勤者)
(2)保育補助(担任を助ける補助者)

を区別して聞かないと、基準を満たしているかどうかはわかりません。

前述の人数の基準は、(1)の担任についての基準です。そして、認可保育園ではこれが全員、有資格者(保育士)でなくてはならないということです。実は、基準上は(1)を短時間保育士(パート保育士)でつないでもいいことになっていますが、保育者の入れ替わりが激しいのは子どもにとって負担ですし、安全面にも不安があるため、認可保育園も助成を受ける認可外保育園も、常勤者を担任にしているのが普通です(助成を受ける認可外とは、東京都の認証保育所や横浜保育室などのことです)。

(2)も担任に代わる役割を担う人は有資格者が望ましいのですが、それ以外の用務的な仕事や遊びの補助は、資格がなくても務まると思います。地域の高齢者のボランティア、子育て経験者や保育学生のアルバイトなど、いろいろな人材が保育に参加するのは、むしろ子どもにとってメリットがあるでしょう。いずれにしても、日本の配置基準は、諸外国と比べても少なすぎると言われており、補助者を入れないと「ゆとり」をつくり出せないのが現状です。

今、保育士不足で、保育士の配置基準を緩和しようとする動きがありますが、子どもにとって保育者の質こそが保育の質であることを念頭に置く必要があります。

一人一人を理解することの大切さ

乳幼児期は、言葉を話せない時期から始まります。自分の気持ちや意思を表現できるようになるまで、子どもは「伝えたい」一心で一歩一歩発達を重ねていくのですが、その間、理解しようと耳を傾けてくれたり、指差した先を見て言葉に置き換えてくれたりする大人の存在が大きな助けになります。

言葉だけではありません。乳幼児期はいろんなことが次々にできるようになっていく発達著しい時期ですが、実は発達の個人差・月齢差、つまりクラスの中の「できる」「できない」の差も大きいのです。そこで、一人一人の発達を理解し、寄り添ってくれる保育のあり方が重要になります。

保育園の集団生活は、食事、トイレ、着替え、お昼寝などのメニューが多く、3歳くらいまではかなりの部分を保育者が援助しますが、保育者が子どもの発達を理解できていなかったり、忙しくて余裕を失っていると、「できない子ども」につらく当たってしまいがちです。その子どもにとっては「まだできない」のに、「できない困った子」という扱いをしてしまうのです。これは、子どもの自信や自尊心の育ちにとっては痛手です。

通常、認可保育園では発達を見通した指導計画を立てて、実施した保育が適切であったかどうか振り返りをしながら、保育を軌道修正していくことになっていますが、そのためには、保育士の専門性と子どもを見る目がしっかりしていなくてはなりません。

見学では、午前中の遊びの時間しか見られない場合が多いと思いますが、そんな中でも、保育者が子どもに合わせた対応をできているかも見てみましょう。

・子どもが泣いたときなど、子どもがどうしたいのか聞き取り、理解しようとしているか
・クラスの中で遅れがちな子どもが自分でやろうとする意欲を大切にしているか

少し高度な着眼点になりますが、これらも保育を見る重要なポイントになります。

保育園を考える親の会代表 普光院亜紀
1956年、兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。出版社勤務を経てフリーランスライターに。93年より「保育園を考える親の会」代表(http://www.eqg.org/oyanokai/)。出版社勤務当時は自身も2人の子どもを保育園などに預けて働く。現在は、国や自治体の保育関係の委員、大学講師も務める。著書に『共働き子育て入門』『共働き子育てを成功させる5つの鉄則』(ともに集英社)、保育園を考える親の会編で『働くママ&パパの子育て110の知恵』(医学通信社)、『はじめての保育園』(主婦と生活社)、『「小1のカベ」に勝つ』(実務教育出版)ほか多数。