長期の資産形成のために購入を検討したい投資信託。しかし購入可能な投資信託の数は約5900本もあり、売られ方も窓口販売、ネット販売などさまざまです。セゾン投信社長・中野晴啓さんは、このうちの0.2%にあたる“例外の商品”に目を付ける必要があると言います。いったいどういうことでしょうか。
上場企業より数が多い投資信託、どうやって選ぶ?
前回の「日銀がマイナス金利を導入した背景」では、「投資信託(投信)」とは、生活者が誰でも容易に長期投資に参加できる最も合理的な仕組みであるとお伝えました。にもかかわらず、日本の投資信託業界では、生活者の将来に向けた長期資産形成という本来の目的とは乖離(かいり)した短期志向の投機的な商品が売れ筋として名を連ねており、また「お客様のために」という意識に欠けた売られ方をしている現実があります。それを知らずに、“まっとうな投資信託”を選ぶのは難しいという前提から、実際に投資信託がどのように販売されているかをつまびらかにしていきましょう。
皆さんが現在購入可能な公募投資信託は、約5900本あります。すごい数でしょう? 日本の上場企業数は3600社余りですが、それよりはるかに多くの商品から自分の考える長期投資にふさわしい投信を選ぶ必要があるのです。
これら約5900本の投資信託の平均保有期間は、昨年まででみると2年弱でした。平均保有期間とは、投信1本あたりに入る資金の平均滞留期間のことであり、言い換えれば、投資信託全体の実質的な平均寿命を意味します。
これから皆さんに始めていただきたい長期投資とは、10年、20年、30年……とお金をじっくり育てていく行動ですから、平均保有期間2年弱という投資信託全体の現実とのギャップに驚かれたのではないかと思います。なぜ既存の投資信託の平均保有期間は短命なのでしょうか。その理由は販売金融機関の営業姿勢にあります。
短命投信、その理由
投資信託とは、投資家から集めたお金を大きな資金としてまとめ、運用の専門家が株式や債券などに投資・運用する商品のことで、この運用の専門家にあたるのが投資信託運用会社です。投資信託運用会社で作られた投資信託は、その国内投信残高の99%超が、販売金融機関と呼ばれる銀行や証券会社などを経由して間接的に売られています。ですから常識的に考えると、投資信託を買おうと思ったら、身近な銀行や証券会社に相談に行ってみようとなるわけです。
販売会社は通常、窓口で投信販売を行っており、顧客に販売手数料が課されます。販売手数料は安いものなら購入金額の1%程度ですが、大半は2~3%超となります。例えば、あるお客さんが販売手数料を3%の投資信託を1000万円購入したとすると、販売金融機関は販売手数料として30万円が得られます。
販売会社の窓口での対面販売には、直接商品の説明を受けたり、分からない点について質問をしたりできるという利点があります。その一方で、販売会社が販売手数料の獲得を目的として、販売手数料の高い商品を薦めたり、それだけではなく同じお客さんに何度も商品を買ってもらおうとしたりするということも考えられます。つまり、投資信託を購入したお客さんに、それを売却して違う商品に買い替えてもらうことで、再び販売手数料を得ようとするということです。こうした行為は、回転売買や乗換営業といった業界用語で呼ばれています。「まさか」と思われるかもしれませんが、平均すると2年に1回ずつ同じお金が違う商品に移っていくという現象が実際に起きており、それが、投資信託全体の平均保有期間を短くしているのです。
皆さんが「自分にふさわしい投資信託を薦めてもらいたい」と、販売金融機関の窓口を訪れれば、販売手数料が高い商品を「人気の売れ筋投信」と言って買わされてしまう可能性もあるのです。“まっとうな投資信託”を選ぶ上で、やってはいけない行動として「いきなり金融機関の窓口に相談に行く」ということが挙げられます。「有名な銀行や証券会社だから安心」という思い込みは禁物です。
たったの10数本の例外、直販のメリットとは
銀行や証券会社の窓口販売顧客の多くは、まとまった資金を持ち、対面の直接販売によるアドバイスを求める高齢者層です。では、プレジデントウーマンオンライン読者世代の皆さんは、どうやって投資信託を買えばよいのでしょうか? ここで、今、記事を読むために使っているパソコンやスマートフォンの出番です。インターネット証券か、同じ販売金融機関であっても窓口ではなくインターネット販売を用いて、“自ら考え判断し”投資信託を選んでみてください。ネット経由であれば、販売手数料が高い商品や不要な買い替えを避けることもできます。商品によっては販売手数料がかからないものもあり、それらを取り扱っているネット証券もあります。
そして約5900本ある投信のうち、たったの10数本ですが、例外があることに注目してみてほしいのです。これらの例外とは、投資信託運用会社が販売会社を通さず直接販売(直販)している投資信託です。販売会社を介さないため、直販の投信はどれも販売手数料がかかりません。
私が代表取締役社長を務めるセゾン投信が直接販売のため、我田引水となり恐縮ですが、直販スタイルにこだわる運用会社は、回転売買、乗換営業によって大事な長期投資が損なわれることを嫌い、あえて自ら運用する商品をダイレクトに提供しているのです。
“まっとうな投資信託”を見つけるためには、自ら学び、考え、判断して行動することが必須です。ネットを使って購入するという方法や、販売金融機関を通さない直接販売の商品などにも目を向けてみてください。では、投資信託業界の内幕を学んだところで、次回は長期投資にふさわしい商品選択の条件について、いくつかのポイントを示しながら解説します。
セゾン投信株式会社 代表取締役社長。1987年明治大学商学部卒業後、現在の株式会社クレディセゾン入社。セゾングループで投資顧問事業を立ち上げ、海外契約資産などの運用アドバイスを手がける。その後、株式会社クレディセゾン インベストメント事業部長を経て2006年に株式会社セゾン投信を設立、2007年4月より現職。米バンガード・グループとの提携を実現し、現在2本の長期投資型ファンドを設定、販売会社を介さず資産形成世代を中心に直接販売を行っている。セゾン文化財団理事。NPO法人元気な日本をつくる会理事。著書に『投資信託はこうして買いなさい』(ダイヤモンド社)、『預金バカ』(講談社)など。