今年の3月・4月に東京と大阪の認可外保育施設で2件の死亡事故が起きていたという報道がありました。どちらも、お昼寝中に1歳のお子さんが亡くなるという痛ましい事故でした。安全なはずの保育室の中で、なぜそんなことが起こるのでしょうか。
今回は、「保活」中の親にとっても他人事ではすまされない保育事故について、直視すべき問題を考えてみたいと思います。
突然死の危険因子:うつぶせ寝
2つの事故。ニュースでわかる範囲でも共通する事実がありました。
・お昼寝時間中の急死
・うつぶせ寝をしていた
・保育者が目を離していた
実は、保育施設では、このような事故が繰り返し起こっています。
2008~2012年の5年間の保育施設での死亡事故について調べた「保育施設内で発生した死亡事案」(小保内ら 2014年)によれば、死亡事故の59件のうちの55件が3歳未満児に起こっており、そのうち50件が「突然死」だったと言います。原因については不明のものも多く決定的なことはいえませんが、発見時の体位がうつぶせだった例が28件(56%)で、仰向け4件や横向き1件よりも顕著に多く(残り17件は不明)、うつぶせ寝が危険因子のひとつであることを明らかにしています。
「うつぶせ寝」は以前から危ないと言われてきた
うつぶせ寝はSIDS(乳幼児突然死症候群)の発症リスクが高いこともわかっており、日本でも1998年からの国のSIDS予防キャンペーンで警鐘が鳴らされてきました。SIDSは原因不明の病死とされていますが、窒息死との境目が明確ではなく、特に保育施設での死亡事故では曖昧になりがちです。0・1歳児は体が未発達であるため、窒息が起こりやすいのですが、たとえば、大泣きして呼吸が乱れ鼻水が出ている状態でうつぶせ寝にするという保育は、窒息のリスクが大きいと考えるべきでしょう。
いずれにしても、3歳未満児では、うつぶせ寝にリスクがあることははっきりしているので、乳幼児の保育に専門性をもつ保育施設としては、十分に注意しなければならないことのはずです。
なぜうつぶせ寝がなくならないのか
うつぶせ寝がなくならない背景には、保育者が常に忙しく、お昼寝の時間には少しでも早く寝かしつけたい、うつぶせ寝のほうが子どもは寝付きやすい、などの事情があると言われています。
通常の保育施設では、3歳未満児はうつぶせ寝させない、うつぶせ寝になる場合は保育者がそばにつく、決まった分数ごとに呼吸チェックをするなどのマニュアルが整えられている場合が多いと思いますが、マニュアルがあっても、保育者が読んでなければ意味がありません。
この3月・4月に起こった2件の死亡事故は、うつぶせ寝で発見され、どちらも保育者が相当時間、子どものようすを見ていなかったことがわかっています。
大阪のベルサンテスタッフが運営する「たんぽぽの国 東三国園」では、保育者がおやつの準備などをしている50分ほどの間に、うつぶせ寝で亡くなっていたといいます。この施設は昨年、保育従事者が1人になったり、保育士が不在になったりする時間帯があるなど、大阪市の指導監査基準を満たしていないことを指摘されていました。
東京のアルファコーポレーションが運営する「キッズスクエア日本橋室町」の事故では、うつぶせのまま2時間以上寝ていたといい、少なくとも発見前の50分間は、保育者は子どものようすを見ていなかったということです。保育者は、子どもが泣いてしまったので、他の子どもが起きないように別の部屋に寝かせたと話しました。
家庭でも突然死は起こっていますが、保育施設の事故の場合、親だったらそうはしなかっただろうと思うような状況が明らかになるケースは多いのです。
そして、その背景には、人手が不足していたり、未熟なスタッフが責任感のない保育をしていたり、子どもにこまやかに目を配れない何らかの状況がある場合も少なくないと思います。
行政の関与が事故を減らす
保育施設の中での事故というのは、密室の中で起こり、その場にいた人しか事実を知らないため、原因がうやむやにされることも多かったと思います。しかし近年、再発防止を願う遺族の方々の身を削るような努力によって、事実を検証する機運が生まれてきました。昨年から、認可の保育施設には事故報告が義務づけられ、再発防止のための情報共有が始まっています(認可外保育施設には報告義務がない点が課題ですが)。
4月18日、昨年の事故件数が発表され、死亡事故は14件でした。施設の種類別の件数を1万施設当たりの数に換算して比較すると、認可保育所0.85人、認定こども園5.18人、認可外保育施設6.28人、(内訳:認証保育所などの地方単独事業3.04人、届け出施設7.12人)となりました。行政の関与が強い制度下の施設ほど数字が小さくなっています(実際には、認可保育所のほうが1施設当たりの人数が多いので発生率にすると差は広がる。また、認可外保育施設の件数はもっと多い可能性もある)。
認可外保育施設にも、行政がもっと関与し、指導や支援をすることが事故を減らすことにつながると思います。
保護者がリスクを関知する方法
待機児童問題が深刻な地域では、行政の関与が薄い認可外保育施設(届出施設)も「保活」の対象になっています。保育施設は必ず見学して選びましょう。見学のときのポイントは、保育園を考える親の会でも紹介していますが(http://www.eqg.org/oyanokai/hoikukiso_checkpoint.html)、特に、
(1)「うつぶせ寝」についての考え方は必ず聞きましょう。事故を起こした保育者が「うつぶせ寝させちゃいけないなんて知らなかった!」と言ったという話もあります。
(2)保育者は保育士(有資格者)かどうか、朝夕の保育体制はどうなっているかなどを聞いてみます。答えを聞いても十分かどうか判断は難しいと思いますが、施設の考え方はわかるでしょう。
(3)保育者がゆとりをもって保育をしているか、子どもはだっこしたり優しく話しかけられたりしているか、ベビーサークルなどに入れっぱなしになっていないか、など保育のようすを見ることは大切です。
(4)0・1歳で寝ている子どもがいたら、保育士が顔色などを目配りできる状態になっているかもチェックしてください。
(5)施設長や保育者と目と目を合わせて会話し、信頼できる人物かどうかという直感的な判断をすることも大切です。
預け始めの事故が多いので、慣らし保育(慣れ保育ともいう)はていねいにやったほうがいいでしょう。
信頼できる保育施設と出会えたら、仕事に復帰できるだけでなく、子育ても強力に支えられます。こわいことばかり書いてきましたが、認可・認可外とも、子どものために頑張っている施設はたくさんあります。希望をもって探してください。
1956年、兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。出版社勤務を経てフリーランスライターに。93年より「保育園を考える親の会」代表(http://www.eqg.org/oyanokai/)。出版社勤務当時は自身も2人の子どもを保育園などに預けて働く。現在は、国や自治体の保育関係の委員、大学講師も務める。著書に『共働き子育て入門』『共働き子育てを成功させる5つの鉄則』(ともに集英社)、保育園を考える親の会編で『働くママ&パパの子育て110の知恵』(医学通信社)、『はじめての保育園』(主婦と生活社)、『「小1のカベ」に勝つ』(実務教育出版)ほか多数。