全国で「空き家問題」が広がり、民間・行政ともに新しいサービスが始まっています。親の亡き後、無人になった実家をどうするか? 愛着のある実家でも、空き家を放置するわけにはいきません。将来、実家をどう処分、あるいは活用すればいいのかについて、住まいの解説者・中川寛子さんと考えます。
その1:実家を売りに出す
■取壊し費用は100万円以上!?
中古一戸建ての場合、築年数が20年を超すと建物価値はほぼゼロとされるため、どんなに親がこだわって建てた家も評価されないことが多く、更地にしたほうが売りやすい。そのためには家の規模、構造などにもよるが、100万円以上の解体費用がかかる。解体の予算がない、あるいはそこまで古くない建物の場合には、家があるままで売ることになる。
解体費用と売却費用が見合わない場合は、取り壊したことで固定資産税の軽減が受けられなくなるなら、解体は買い手が出てきてから、と考える人もいる。その場合には建物が周囲に迷惑をかけないよう、維持管理はきちんとしておく必要がある。
■地方都市なら買取り再販ビジネスも
ちなみに、人口が5万人以上の自治体で、5000人以上が集まっているエリアなら、買取り、リフォームをした上で再販するという会社がある。マンションでは一般的な買取り再販だが、一戸建てでは建物の劣化状況の判断が難しいこともあり、現状は「カチタス」が一社独占の状態だ。遺品その他が残っていてもそのままで買い取ってくれ、かつ現地下見後、決済まで最短なら3週間という。早く、楽して売りたい、でも愛着のある家なので次世代に大事に使って欲しいという人なら考えてみる価値はある。
ちなみに地方で売買価額が低い場合は、不動産会社に頼んでもなかなか売れないケースがある。これは買いたい人がいないわけではなく、不動産会社にとって“おいしくない仕事”だからという本音もある。
ご存じのように不動産会社の仲介手数料は取引価額によって決まる。一戸建ての売買には価額とは関係なく、それなりにさまざまな調査を要し、賃貸仲介よりはるかに手間がかかるのだが、例えば、100万円の物件の手数料は5万円プラス消費税。大きい金額の取引と比較して、不動産会社にとっての優先順位が低くなるのは、言わずと知れたことだ。
■新サービスも登場! 不動産を自分で売るサイト
不動産を自分で売るという手もある。「家いちば」は2015年に始まったサービスで、売りたい人が自分で、売りたい物件の写真や情報を掲示板形式のサイトに掲載できるというもの。まだ物件数は少ないが、首都圏近郊のごく一般的な住宅から父親の建てた郵便局、摩周湖近くの別荘など変わった物件も掲載されており、認知度は高まりつつある。掲載は無料なので、相続はまだ先、あるいは売却までに時間がかかっても良いという人であれば、とりあえず掲載しておいても損はないだろう。
その2:実家を貸しに出す
■多様化する貸し方
貸すためにはなんらかの手を入れなくてはいけないことが多いが、そのためには
・どのような貸し方をするか
・誰がどの程度の額を投入するか
・その結果、収支がどうなるか
という点が問題になる。まず、貸し方としては一般的な賃貸住宅、広さや立地によってはシェアハウス、オフィス、店舗、ゲストハウスなどもあり、今後適法になる可能性がある「Airbnb」も考えられるだろう。
ただ、貸し方は多様化しているものの、それぞれに事業者が異なっており、1カ所に相談すると複数の貸し方を提案してくれるような人、会社はほとんどない。自分でやれるなら問題ないが、貸して活用してもらいたいなら実家周囲でどのような貸し方がされているかを調べ、そうした事業者に活用してもらえないかというアプローチをするのが手だろう。実際に行われている様々な貸し方については拙著『予算100万円でもできる 不動産投資成功しました』(中川寛子著/翔泳社刊)でまとめているので参考にしていただきたい。不動産の活用方法が紹介されている。
■借り手にDIYしてもらうなら、自己資金がなくてもOK
貸すつもりで不動産会社に相談、改装を提案されたものの、想像以上に費用がかかることが分かり、貸すのを諦める例も少なくないが、その場合にも手がないわけではない。1つは入居者に自分でDIYしてもらうことを条件に、躯体(くたい)、水回りなど住むために必要な最低限の改装を行い、後は入居者にお任せするというやり方である。住まなくなった期間が短い家であれば、さほどに躯体に手に入れる必要はないだろうから、この手なら比較的少額の投資で貸せる。改装可能な賃貸物件だけを紹介するサイト「DIYP」のようなサービスも誕生し需要もあるので、実家の活用法の1つに加えるのもいいだろう。ただし、その分、賃料は高くはできないし、もし、入居者が自分でやるというのなら、水回りなどの改装費用を負担することも検討したい。
■事業者に貸す
親の家が東京23区内にあり築30年以上だったら、事業者に改装してもらい、一定期間その事業者に安く貸すことで、その期間に事業者が転貸、改装費を回収するという仕組みを利用する手がある。一定期間終了後は改装済みの、価値が上がった住宅が戻ってくるので、それ以降の家賃収入は所有者のものになる。
このやり方であれば所有者が改修に自分で費用を出さずに済み、最初に貸す時のリスクも不要。空き家を活用するには非常に画期的な仕組みだが、残念ながらある程度の家賃が取れる目算が立たなければ難しい。事業者に話を聞くと、ここ1年ほどで100件近い問い合わせがあったものの、実際に活用に至ったのは10件程度という。だが、今後似たようなビジネスモデルを手掛ける会社が出てくる可能性もあるので、問合せてみて損はない。
その3:自治体の空き家バンクに登録する
地方都市、農山村などに立地する場合には地元の自治体が空き家バンクを作っていないかを調べ、委託するというやり方もある。ただし、そこで借り手(場合によっては買い手)が見つかるかどうかは自治体の姿勢次第。ホームページを見て物件の詳細情報が載っていない、移住についての説明会などのイベントを開催していない、パンフレットやポスターなどを制作していないなどの自治体は、この先も成果が上げる可能性は低い。
その4:他者、自治体に贈与する
誰かにあげてしまうという手もある。実際、地方ではそうした事例が散見されるようになっている。特に評価額が110万円未満であれば贈与税がかからないため、もらってもらいやすい。自治体に寄贈するという手もあるが、取得自体にはお金がかからないものの、土地家屋に維持管理費がかかることを敬遠、受け取らない自治体が増えている。防災上公園を作る必要がある地域や既存の自治体施設に隣接しているなど、特殊な事情があれば受け取ってもらえるケースもあるので、とりあえずは相談してみることだ。また、まだ建物が使える状態なら、地域の社会福祉法人その他、高齢者や子供相手に公益的な事業をやっている団体に寄贈するという手もある。
その5:委託管理をして維持する
どうしたら良いかが分からない、感情的に取り壊すつもりになれない、兄弟姉妹との意見が調整できない、でも自分では面倒は見切れないという場合には放置せず、管理業者に依頼、劣化を食い止め、周囲の迷惑にならない手配をしておきたい。首都圏などであれば空き家、管理で検索をかければ、複数の事業者が出てくる。大手の不動産会社でも手掛けている会社もある。地方都市では自治体が空き家見回りなどに助成金を出してくれる例もあるので調べてみると良いだろう。
その6:家庭裁判所に申述して相続放棄する
そもそも、相続しないという手もある。相続放棄である。これは相続があったことを知った時から3カ月以内に家庭裁判所に申述することででき、専門家に依頼せずとも一般の人でも手続きできる。ただ、相続を放棄する場合には家は相続しないが、預貯金は相続したいというような財産を選択しての放棄、相続はできない。単純相続で全部相続するか、相続放棄で全部相続しないか(*)。いずれにしても、あらかじめ財産全貌を把握しておく必要がある。
*もう1つ、被相続人に債務があり、しかもその額が不明な場合に相続人が相続で得た財産の限度内で被相続人の債務の負担を受け継ぐ限定承認というやり方もある
番外編:親がリバースモゲージを利用し、家を処分する
相続する人が取る手段ではないが、親にその気があるのなら、自宅を担保に生活費を借り、亡くなった時にその家を売却して返済するという仕組みがある。リバースモゲージと呼ばれる方法で、金融機関、地域の社会福祉協議会などが行っている。
所得、不動産の評価額などに制限があるため、使える人は限定されるが、2013年以降手掛ける金融機関が急増、現在は地方銀行を中心に約30行が取り扱うようになった。三大メガバンクも手掛けているが、金融機関の場合は担保の要件が厳しいので、社会福祉協議会の利用のほうが現実的かもしれない。以下に東京都の例を挙げた。実家のある自治体で同様の制度がないかを探してみてほしい。
番外編:不要品の処分
一般的な賃貸住宅として貸そうとした場合にハードルになるのがモノの処分、そして改装だ。特にモノの処分は想像以上に費用がかかり、また、自分で処分しようと思うと思い出がある品が捨てられず進まないなど、活用の妨げになることがしばしば。ただ、いずれ片付けようと思っていると、どんどん億劫になり、家が傷んでしまうので3回忌までにはなどと自分なりに期限を決めて取り組む、あるいは思い切って業者に依頼するのが賢明。最近では早め、早めに老前整理としてモノの処分に取り組む人もいるが、捨てろ、捨てろと言うのは逆効果になることもあるので注意したい。
ちなみに私も2DK集合住宅の遺品処理を業者に頼んだ経験があるが、当初の見積もりは100万円近く。溜め込んでいた粗品のタオルや予備の寝具、食品のストック、新聞等の紙類が意外に高くつくことが分かり、自分で処理したが、一戸建てならそれ以上になる可能性もある。
東京情報堂代表、住まいと街の解説者、日本地理学会会員、日本地形学連合会員。
住まいの雑誌編集に長年従事。2011年の震災以降は、取材されることが多くなった地盤、街選びに関してセミナーを行なっている。著書に『キレイになる部屋、ブスになる部屋。ずっと美人でいたい女のためのおウチ選び』『住まいのプロが鳴らす30の警鐘「こんな家」に住んではいけない』『住まいのプロが教える家を買いたい人の本』など。新著に『解決!空き家問題』(ちくま新書刊)がある。