日々増えていく業務。睡眠を削って仕事に忙殺……任される年代とはいえ、ワーク・ライフ・バランスは健全に保ちたいもの。仕事も私生活も上手に楽しみ、人生を謳歌する国の代表格・デンマーク出身のマレーネさんに、生活のバランスを取るための、効果的な交渉術を教えてもらいます。

▼第1回「キャリアをつかむための交渉術~戦う前に自分を知る」はこちら
▼第2回「全員が勝者となるための交渉術~他者との違いを認める」はこちら

あなたの働き方、現状で満足していますか?

あなたはワーク・ライフ・バランスが取れていますか? 人生で大切なことをする時間がありますか? それとも仕事のし過ぎでしょうか? 追加の仕事を断るのは難しいですか?

職場からの配慮がなければ、健全なワーク・ライフ・バランスを保つのは難しいものです。自分以外の誰もが長時間働いていて、少なくとも上司が帰るまでは残っているような時に、自分だけ早く帰りたいとはなかなか言いにくいですよね。

ワーク・ライフ・バランスについてみなさんと話す時、問題が起きてから対応する、という話をよく聞きます。職場でどんな目に遭って、上司や同僚の要求に応えるのがいかに大変だったかというような話です。本音では「イヤだなぁ」と感じる要求や要望に、誰もが直面しているわけです。

しかし、そういう状況は全て「交渉術」を発揮するチャンスになります。そう、“あなたの仕事の枠組みを変える”、言い換えれば“勤務条件をもう一度見直す”ように頼んでみるとか、“あなたが限界に達しているのだと周囲の人たちに知ってもらう”ために話をするチャンスなのです。

一方で、誰もが、自分がひねくれ者で非協力的なスタッフだと思われたくない、という願望もあります。誰かが助けを必要としている時に「ノー」と言う同僚にはなりたくありませんよね。

しかも組織の中では、ほとんどの人が「イエス」と言うほうがいいと思っているし、私たちの多くは「イエス」と言うように期待されていると感じています。

しかし、どれぐらいの時間、どんな環境で働きたいのか、という枠組みをきちんと設定するために「ノー」と言えなければ、ワーク・ライフ・バランスという楽観的な言葉だけが1人歩きをして、空疎に響くばかりです

自分の枠組みを整理して「対話=交渉」しよ

ワーク・ライフ・バランスを健全に保つために、次の2つを心掛けましょう。

●「ノー」と言うこと
●「どれぐらいの時間と労力を仕事に注ぎたいか」枠組みを設定すること

これらは日常の中での交渉です。交渉のためには、まず自分の限度を正確に把握することが必要です。この仕事量は大丈夫か? 私は自分に合った仕事をしているのか? 私は時間を有効に使っているだろうか? 私はどのように働きたいと思っているのか? このように自分に問いかけることは、あなたにとって何が合理的で、何がそうでないかを自分で決める際に役立ちます。

何がフェアで、自分にとって無理がないと思えるか、まず自分で決めましょう。そうすれば、次に誰かが無理な仕事を頼んできた時に、交渉に入るのがずっと簡単になります。

肝心の交渉を切り出すには、次のいずれかの言い方が有効です。

●健全なワーク・ライフ・バランスのための交渉術
A「それは私にはできかねます。でも、誰か代わりにできる人を探すお手伝いはできますよ」
B「はい、できます。もしもその代わり、ほかの業務を何か免除していただければ。それでもよろしいでしょうか?」

Aの答え方で、あなたはその追加の仕事を引き受けないとはっきり言い、しかし、それと同時に、その仕事を頼んだ人の力になろうとしている意思を示すことができます。

Bの答え方では、あなたはその追加の仕事に対応しようとしているけれど、何かほかの業務を免除してもらえないのであれば同意できないと言うことによって、健全なワーク・ライフ・バランスを保つことができます。

前向きな交渉で「健全な働き方」を実現する

健全なワーク・ライフ・バランスを見つけ、維持するには、社会も企業も個人も、それぞれ努力を要します。しかし、安直に楽観論を述べる政治家の耳触りのいい言葉や意図を本当に実現するには、自分がどのように働きたいのかを要求し、バランスを失わせるようなものに対しては「ノー」と言う必要があります。

「ノー。でも……」あるいは「イエス。もしも…ならば」という言うことで、前向きに交渉することができ、誰もが自分の状況を見てもらい話を聞いてもらえるようになるのです。

「ワーク・ライフ・バランスを保つ交渉術」の3つのポイント
●今のワーク・ライフ・バランスが自分の理想と違っていたら、どのように変えたいのかを考えてみよう。どれぐらいの時間、どんな仕事をしたいのか、枠組みを明確に。
●会社と自分の両方のニーズに合うように、ワーク・ライフ・バランスをどう調整したいのか、上司と幅広く交渉できるよう、自分から率先して持ちかけよう。
●あなたの時間を取る無理な要求に対しては、日頃から「ノー。でも……」「イエス。もしも……ならば」という言い方で交渉しよう。
エグゼクティブアドバイザー マレーネ・リックス
1965年、デンマーク生まれ。エディンバラ大学卒業。イギリス、アメリカ、メキシコ、オーストラリアなどの国々で学び、働いてきた経験がある。フリーのアドバイザーとして企業や個人にリーダーシップや交渉術を教える。