結婚、出産、転職、介護……、人生には転機がつきもの。その判断をする際に、大きな影響を及ぼすのが夫や恋人といったパートナーです。共に支え合って生きていく存在である一方で、時としてそのパートナーの存在や考え方が、判断の妨げとなることも。パートナーが「壁」になったとき、どう解決すべきでしょうか?

キャリアプランに対するパートナーの影響について激論

「パートナーの壁」という言葉を聞いて、皆さんはどのようなイメージを持たれるでしょうか。

ビジネスマガジン&コミュニティの「“未来を変える”プロジェクト」で、2015年6月に「パートナーの壁」という記事が公開されました。

これは職場、仕事の現場を離れた時、個人で向き合わなければならない「家庭」「パートナーとの関係」について、20代~40代の男性ビジネスパーソン50人が行った議論に基づいて作られた記事で、「自分のキャリアプランを考える際に発生する、恋人や妻などパートナーによる影響」を浮き彫りにし、ソーシャルメディアを中心に大きな話題となりました。

記事公開後に、「“未来を変える”プロジェクト」読者から起こった「同じテーマで、女性同士の議論を行いたい」という声をきっかけに、2015年10月に、PRESIDENT WOMAN Online読者も参加して、約40名の女性ビジネスパーソンが「パートナーの壁」について議論を行いました。

この女性目線で考える「パートナーの壁」の詳細については、「“未来を変える”プロジェクト」の記事、「女性の出産と仕事:「議論」を止めて「対話」でパートナーとの価値観を擦り合わせるための11の質問」で詳しく紹介されており、議論から導かれた話として「1つのチームだからこそパートナーである必然性がある」「子育て前後で大きく捉え方は変化する」「価値観を変えるのは難しいから、議論でなく対話を大切にしたい」という3つにまとめられています。

ここでは議論で上がった声を交えながら、改めて「パートナーの壁」について考えていきたいと思います。

「パートナーの壁」をテーマに、男性ビジネスパーソン50人が議論を行ったところ、起業や安定した大企業からベンチャー企業への転職などキャリアチェンジを考える時、また地方や海外への転勤など働き方に変化が起こる時に、「パートナーの理解をなかなか得ることができず、壁を感じた」という声が挙がりました。さて、女性だけで行った議論の結果は……?

「パートナーの壁」って何?

「“壁”は自分が作り出しているものかもしれません。お互いを理解し、違いを尊重することをお互いができていれば、話し合いで折り合いをつけたり、または放置したりするという選択肢をとれるのかも(30代 女性 金融)」

この意見に代表されるように、「『パートナーの壁』とはいったい何なのか?」「パートナーとの間に壁はあるのか、無いのか?」と、壁の存在について問う発言が多く見られました。パートナーを持つ人の中からは、「壁を感じない」という声もありました。

同じく、多くの人が論点として挙げたのがパートナーとの関係性について。

「パートナーは対立するものではなく、チームとして捉えるべき。よって、違う考えや立場をとるパートナーはポートフォリオとしてみると安定することもある(40代 女性 流通)」

このほか、「パートナーと考え方の違いがあったとしてもそれは壁ではない」、「多様性があることは、チームとして強くなれる」といった意見が挙がりました。

一方で、「女性にとって、出産は壁に大きく影響を与える」という声も多く見られました。「出産により、働き方を考えなければならない」という変化が、壁が生まれるきっかけになると言うのです。この「出産」ですが、男性だけの議論では大きなターニングポイントとしてはクローズアップされなかったとのことで、女性だけの議論の特徴と言えそうです。

パートナーとはチームであり、パートナーとの意見の違い=壁ではない。けれども「出産」などの節目では、壁が出現する……。これは何を意味するのでしょうか。

パートナーの壁は、社会の壁によって出現する?

今回の女性による議論を踏まえて、筆者は次のような仮説を持ちました。

人と社会との間には壁が存在する。パートナーそれぞれに対する「社会の壁」の高さに差が生まれる時、その差が「パートナーの壁」として2人の間に横たわるのではないか、と。

「パートナーの壁」と「社会の壁」の関係

ここで「社会の壁」とは、人が社会と関わろうとした時、越えなければならないハードルのこととします。例えば、産休・育休を経て、復職しようとした場合、子供をどこに預けるか、会社で働ける時間は何時から何時までなのかなど、いろいろなことを調整し、実行していかなければなりません。出産を経た女性、またこれから出産を考える女性にとっては、とても高い壁として感じられることが多いのではないでしょうか。子供の預け先や勤務時間などは、パートナーと共通の課題とも言えますが、一方で、一般的には男性の方が、「自身が産休を取っているわけではない」などの理由から、この壁が女性よりも低く感じられる場合が多いと考えられます。

「私ばかり大変な思いをしている」「私が譲歩して働き方を調整しなければ立ちゆかない」「会社での私の立場を理解していない」「協力すると言っているが、パートナーは実際には復職後の生活がまったくイメージができていない」というように相手の在り方とのギャップを感じる時、その差が「壁」として現れるのではないでしょうか。

育休からの復職を例に挙げましたが、この「社会の壁」は、結婚、介護などでも存在します。また「自分とパートナーによるユニット」を最小単位と考えれば、自分やパートナーの親兄弟との間にも「社会の壁」が在ると考えられます。

パートナーの壁は、高さをコントロールできる

では「社会の壁」によって発生する「パートナーの壁」は、解決することができるのでしょうか。仮説に基づくと、「パートナーの壁」は、パートナーそれぞれに対する「社会の壁」の高さの差によって生まれるため、この差を解消すれば、「パートナーの壁」はなくなることになります。

今回の議論では、「出産」「その後の仕事」といった大きなテーマに向き合う方法として、「対話を通した価値観の理解が重要」という声が多く挙がりました。これは、お互いに立ちはだかる「社会の壁」の高さについて、まずは理解するということに通じます。さらにその理解に基づき、自分の行動を変えれば、相手の「社会の壁」を低くすることができるかもしれません。

また「社会の壁」の高さは、自分とパートナーとの相互理解だけではなく、個人の努力や外部要因によっても下げられます。例えば育休からの復職であれば、「休職前に仕事の実績を作っておく」などが個人の努力に、「会社の制度や公的なサポート、民間のサービスなどを活用する」などが外部要因に当たります。

「社会の壁」は生きている限り、つきまといます。パートナーとともに歩んでいく際、その壁は、自分の方が高いこともあれば、パートナーの方が高いこともあるでしょう。「パートナーの壁」が生まれることはやむを得ません。いずれの場合も、対話や外部サポートなど方法を組み合わせながら、「パートナーの壁」の高さを2人でコントロールしていくことによって、それぞれが目指す働き方、生き方の実現に近づけるのではないでしょうか。

「そもそも男性よりも女性は考えたり悩んだりすることのバリュエーションが多いのでは? と思いました。自分の結婚・出産・キャリアや仕事・働き方のこと、自分の家族や、結婚すればパートナーの家族のこと、子供が成長すれば教育のことやママ友のこと……テーマの多様さにびっくりしました。いろいろな生き方・選択肢がある今の時代が恵まれているのか、大変なのか、答えを出すのは難しいですが(属性不明)」

議論の参加者から寄せられた声です。人生において、男性以上に多くの選択を迫られるのが女性。一人一人異なる「パートナーの壁」について見つめ直してみると、新たな選択肢が発見できるかもしれません。