待機児童問題が国会でもクローズアップされています。中でも問題になっているのが、首都圏や近畿圏の大都市部。今回は、特に厳しい東京23区の待機児童対策を検証します(数値はいずれも2015年4月1日時点、保育園を考える親の会『100都市保育力充実度チェック』より)

認可保育園の増え方はどうか

東京23区はこの3年間、どんな待機児童対策をしてきたのでしょうか。

表は、23区について、2012年~2015年の3年間の認可保育園の利用児童数の増加率(2015年の利用児童数÷2012年の利用児童数)が大きい順に並べたものです。

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東京23区の待機児童対策(2012年~2015年の拡大状況等)

港区の157.6%が最も大きく、3年間で利用児童数が1.5倍以上増えました。次いで千代田区の150.4%、中央区の145.0%、文京区の139.2%。これら都心自治体はニーズ増加に短期間で対応したことがわかります。

認可保育園の利用児童の増加数では、練馬区の2089人が最も多く、江東区の1920人、世田谷区の1910人、港区の1311人、杉並区の1223人と続いています。これらの自治体は、待機児童対策に大きな予算を投じていることがわかります。

なお、「注」を付した葛飾区、品川区、渋谷区、新宿区、中央区は、認定こども園の利用児童数が3ケタで増加しています(詳細数が算出できないため表では省略)。

地域型保育の整備

前表で認可保育園の増加率が10%未満で、認定こども園がふえているわけでもない足立区、板橋区、江戸川区が気になります。このうち足立区、板橋区は小規模保育をふやしています。2015年度からの新制度で新設された地域型保育のうち、家庭的保育は家庭福祉員の制度からの移行が中心ですが、小規模保育は制度開始初年度となり、注目されました。その利用児童数は、板橋区の491人が最も多く、足立区の290人、豊島区の234人、品川区の225人、練馬区の172人と続いています。これらの区はいち早く新制度を取り入れた待機児童対策を行ったといえます。

ちなみに、認可保育園の増加率が低く、認定こども園も増えているとは言えない江戸川区は、小規模保育も2015年4月時点で0か所、現在でも1か所と、認可の保育(※)を増やすことに消極的であるように見えます。

※認可の保育:認可保育園、認定こども園、小規模保育、家庭的保育、事業所内保育等

入園の難易度なかなか改善せず

認可の保育に入園申込をした児童のうち入園決定をした児童の割合を入園決定率と呼んでいます(合格率のようなもの)。調査した100市区の2015年4月での入園決定率の平均は74.3%(首都圏・政令指定都市の有効回答71市区分)でしたが、23区の平均は63.9%(有効回答19区分)と10%低く、厳しい状況が浮き彫りになっています。

世田谷区と杉並区は、認可保育園利用児童の増加数で3位と5位で旺盛な整備をした区ですが、入園決定率は下から4位と2位で低迷しており、ニーズ増加の激しさがわかります。

全体に、思わず「23区脱出……」とつぶやいてしまう状況です。

園庭をつくっているか

かつて認可保育園は園庭のあるのが一般的でしたが、待機児童対策が急務となった今、都心部においてはそれが通用しなくなっています。

認可保育園の園庭保有率を聞いた質問では、23区以外の市区も含めた有効回答85市区の平均が80.3%だったのに対し、23区の平均は63.2%と低迷しました。そして、注目されるのは、認可保育園の利用児童数の増加率が高かった上位4区(港区、千代田区、中央区、文京区)はいずれも園庭保有率が20~30%台と、きわめて低くなっていることです。

園庭をつくらなかったから、これだけの急整備ができたとも言えますが、これらの地域では、認可保育園に入れても園庭がない場合が多いということです。

子どもの心身の発達(教育)にとって、戸外遊びは習い事などよりもはるかに基本的で重要なものなので、特に3歳以上児にはできるだけ専有園庭という形で保障されることが望まれます(幼稚園には100%園庭があります)。

都心部に園庭など無理という見解がまかり通っていますが、大人向けの場所には広々としたアメニティ空間が整備されていますので、その中に子どもが育つ場所を確保しようとする知恵(民間への誘導策も含め)がもっと必要ではないかと思われます。

待機児童対策に個性があってもいいが親子のニーズをふまえて

冒頭の表を見ると、認可保育園を短期間で増やしたが園庭保有率が低い、認可保育園の増え方は下位だが認定こども園や小規模保育が多いなど、整備のやり方には自治体によって個性があることがわかります。それぞれ地域の事情があるとは思いますが、親が安心できて子どもが健やかに育つ保育を整備しなければ、数だけ足りてもやがて問題が発生するでしょう。

この調査では、認可の保育のうち認可保育園を第一希望とした申込者の割合を聞いていますが、認定こども園が多数ある区以外の区は、ほぼ100%近い申込者が認可保育園を第一希望としたと回答しています。このことは、2歳までを対象とする地域型保育(小規模保育、家庭的保育)の「3歳の壁」が親にとってプレッシャーとなっていることの現れです。3歳以降の受入れ先となる連携施設の確保が課題ですが、認可保育園、認定こども園に加えて、幼稚園との調整というのも今後必要になってくると思います。

期待される区の調整力、東京都・国のテコ入れ

[区の調整力]

地域型保育の連携協定の調整もさることながら、認可保育園の用地確保等でも、もっと自治体の調整力にモノを言わせてほしいと思います。国有地・都有地・区有地などを最大限に活用するのはもちろん、民有地も自治体が借り上げたり事業者とマッチングしたり、大規模マンション開発では保育施設併設を誘導するなど、保育課の人員を増やして取り組むべきだと思います。自治体には「ハコもの」をつくって過剰になったらどうするという不安もまだに大きいようですが、高齢者のグループホームなど、地域が求める福祉サービスへの転換は可能だと思います。

[東京都のテコ入れ]

東京都は日本で最も裕福な自治体です。そして、最も待機児童問題が深刻な自治体です。その財力をもっと待機児童対策に活かすべきです。

東京都はかつて「公私格差是正補助金」という民間保育園の職員の給与改善のための補助金を出していました。そのため、都内の民間保育園は比較的ベテラン保育士が多かったのです。都は2000年にこの補助金を廃止し、その後、民間保育園は職員の給与を切り下げざるをえなくなりました。今となっては、WHY? TOKYOTO WHY? と言いたくなりますが、東京都もそう思ったのか、2015年度から「保育士等キャリアアップ補助制度」という新しい制度を始めました。効果のほどは知りませんが、とにかく今、東京都が待機児童対策のためにできることは、とても大きいはずです。

[国のテコ入れ]

保育士不足は全国的な問題ですから、保育士の処遇改善にはなんといっても国のテコ入れが不可欠です。今後、国会でも論点になってくると思いますが、子どもたちの未来がかかっていることを念頭において、真剣に議論していただきたいと思います。

以前にも、2008年に設けられた安心こども基金で認可保育園の新設が進んだことを書きましたが、とにかく国が財源を確保しないと、かけ声だけではダメなことを私たちは体験済みです。

地方分権改革と称して、2004年に公立保育園の運営費が一般財源化され、国から直接の補助金を受けられなくなったことがつくづく悔やまれます。認可保育園の半分近くを占める公立保育園の運営費をすべて市区町村の財源から出さなくてはならなくなったのです。これが市区町村の保育予算を圧迫し、待機児童対策を抑制したことは明らかです。

保育施策に関するケチケチ作戦は失敗でした。巻き返しを期待します。

保育園を考える親の会代表 普光院亜紀
1956年、兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。出版社勤務を経てフリーランスライターに。93年より「保育園を考える親の会」代表(http://www.eqg.org/oyanokai/)。出版社勤務当時は自身も2人の子どもを保育園などに預けて働く。現在は、国や自治体の保育関係の委員、大学講師も務める。著書に『共働き子育て入門』『共働き子育てを成功させる5つの鉄則』(ともに集英社)、保育園を考える親の会編で『働くママ&パパの子育て110の知恵』(医学通信社)、『はじめての保育園』(主婦と生活社)、『「小1のカベ」に勝つ』(実務教育出版)ほか多数。