起業のきっかけは、前職のインターネット通販の健康食品会社で考えた仕組みづくり、というクックパッド ダイエットラボ の高木代表。日本初・100人の管理栄養士が個別で行うダイエット個別指導サービスとは?
管理栄養士がダイエットの個別指導を行う企業を設立
「たくさん食べていても、栄養素は足りないことが多くて。管理栄養士がコメントすると、お客さまは『こんなに食べていいんですか?』と驚かれます」
そう話すのは、クックパッド ダイエットラボ代表取締役の高木鈴子さん。同社は国家資格を持つ管理栄養士による一般消費者向け個別指導ダイエットを行っている日本初の企業だ。
管理栄養士が対面のカウンセリングで食生活や身体の状態などを分析して、最も効果的なダイエット法を個別指導。また、日々の栄養管理はスマホのアプリで行う。「ダイエット」という言葉の本来の意味は「食事療法」や「治療法」であり、ギリシャ語の「生き方」を意味する「diaita」を語源とする。食生活の変化を通じて気持ちが明るくなることで人生が変わっていく。その手助けをするのが、この会社の目標だ。
高木さんはもともと健康に興味があるわけではなかった。新卒当時は、航空会社関連の旅行会社に入社したが、3年で辞めてしまう。
転機となったのは新聞の求人広告だった。日本便を就航させたばかりで当時話題となっていたヴァージン アトランティック航空 (以下、ヴァージン)で経理担当社員の募集があり、応募した。英語が話せないので、面接では自己紹介を丸暗記して臨んだところ、採用された。ところが、転職3カ月目に経理からマーケティング部門に異動することに。当初はマーケティング未経験だったが、着実に力をつけ、31歳でマーケティング部長になった。
ヴァージンの会長であるリチャード・ブランソンは底抜けに明るい若き創業者で、彼のパーソナリティーが社風に影響を与えていた。“Nothing ventured,nothing gained. (冒険をしなければ何も得られない)”―冒険家でもあるリチャードが取材でよく言っていた言葉だ。会社は大好きだったが、高木さんもまた、違う環境で“冒険”し、さらに実力をつけたいと、11年勤めたヴァージンを離れることにした。
管理栄養士の仕事を「女神」ととらえる
転職先は、当時はまだ黎明期のインターネットを使った通信販売を手掛ける健康食品の会社だ。ここでは、カスタマーセンターに大勢の管理栄養士を配置し、顧客の食生活にアドバイスをしていた。この時、顧客が商品や会社よりも、管理栄養士に対して非常に感謝していることに気づいたのだった。
管理栄養士が一人の顧客を継続的にサポートできる仕組みをつくってはどうか――。彼女はアイデアをまとめた。経営者になるつもりはなかったが、厚さ数cmにもなる事業計画書を見た友人から出た言葉は、「自分で起業したら」だった。“してしまったことを悔やむより、したかったのにやらなかったことのほうが、 悔いが大きい”というユダヤの格言がこのとき脳裏をかすめた。そして、友人の応援と自分の蓄えで、一歩踏み出すことを決心する。
わが国の死因の約6割を占める生活習慣病は、食事指導と生活習慣の改善によって発症や重症化を予防できるといわれている。より長く元気に生活できる結果、寿命を延ばせるならば、管理栄養士は女神のような存在だととらえ、ギリシャ神話の女神の名前から「アグライア」という会社を設立した。
その後、各社健康保険組合を通じた指導を中心に順調に成長し、2014年にはクックパッドグループへ。現在、同社には、約100人の管理栄養士が在籍し、この1年で約4000人をカウンセリングしている。
「管理栄養士の仕事は病院や学校のメニュー開発が主で、利用する人に会うことがなかなかできなかった。ここでは、一人一人とじっくり向き合え、『ありがとう』と言ってもらえる」
同社の管理栄養士の一人はうれしそうに話した。顧客だけでなく、管理栄養士の生き方も変えたのだ。高木さんの冒険はまだ続いている。
株式会社クックパッド ダイエットラボ 代表取締役。成城短期大学卒業。全日空ワールド(現・ANAセールス)を経てヴァージン アトランティック航空日本支社に入社。マーケティング部長を務め、マーケティング全般に関わる。2006年アグライア創業。14年クックパッド ダイエットラボに社名変更。