決算書と言うと、「専門用語と数字だらけで苦手」と思われがちですが、ポイントを押さえれば決して難しいものではありません。分析指標の意味と使い方を学んで、まずは自分の会社の経営を見極められるようになりましょう。

成績表は次に役立てなければ意味がない

前回の連載第3回「あなたの会社は絶対につぶれない?」では、重要な決算書の1つである貸借対照表から会社の安全性を読み解いてみました。決算書というと「専門用語と数字の羅列でうんざり」と思われるかもしれませんが、実は会社がその1年にどんな活動をしてきたかが分かる成績表なのです。

経営判断を行う時に必要となる決算書のさまざまな指標。用語を暗記するのではなく、その意味と使い方を身につけていきましょう。

みなさんは子どもの頃、学校や塾の成績表をもらった後、どうしていましたか? 「テストの後の復習が大事だよ」と言われたことがあるのではないでしょうか。結果のよしあしに関わらず、成績表をよく見て、自分がやったことを振り返ることで次につながるのです。経営の成績表である決算書も同じ。決算書に書かれた結果を振り返ることで、企業は問題点を改善し、成長することができます。「経営」とは、ずっと続いていくべきものですから、未来を見据えた改善は必須です。そこで成績表を見ないというのは実にもったいないことなのです。

では、どんな視点から成績表を見ればいいのでしょうか。市販の書籍などを見るといろいろな指標があることが分かります。

(1)もうかっているか(収益性):営業利益率、経常利益率など
(2)経営者は効率的な経営をしているか(効率性):総資産回転率、売上債権回転率など
(3)会社がつぶれないか(安全性):流動比率、固定長期適合率など
(4)過去に比べて成長しているかどうか(成長性):売上高成長率、総資産成長率など
(5)生産効率が高いかどうか(生産性):労働生産性、資本生産性など

今回は主に(1)収益性と(2)効率性、さらにそれらを統合した指標である「ROA(Return On Assets、総資産利益率)」を取り上げます。また、(3)安全性の指標である「流動比率」は連載第3回で詳しく取り上げています。

【指標を活用するためのポイント】
いずれの指標を見る時にも、2つの観点が必要です。1つは、同じ会社で過去との比較を行うこと、もう1つは、同じ年で同業他社との比較を行うことです。基準をそろえて数値の比較を行うことで、初めて数値のよしあしが把握できます。

会社はもうかっているか? 数値で捉えて、原因を探ろう

まずは(1)「収益性」という言葉で表される指標についてです。収益性は、損益計算書に出てくる各種の利益を売上高で割って求めます。売上からどれだけ各種の利益を算出したかという指標が「収益性」になります。

連載第1回で取り上げた「損益計算書の中でも大切な2つの利益」を覚えていますか? 「営業利益」と「当期純利益」でしたね。

営業利益とは、本業による利益のことでした。

ですから、(1)「収益性」のうち、たとえば営業利益率は、営業利益÷売上高×100(%)で求めます。また経常利益率なら、経常利益÷売上高×100(%)という具合です。

【指標を活用するためのポイント】
大事なことは、計算したらその数値をチェックし、次のアクションを決めることです。例えば営業利益率が前年より下がっていたら、売上に比べて売上原価や販売管理費(コスト)がかかってしまったということになります。それが計画通りであれば問題ありませんが、そうでなければ、原因を考えて、次の年には同じ問題を起こさないようにしなくてはなりません。

宣伝広告費が増えたことで営業利益が前年よりも減ったということが決算書で分かったとします。まず「前年より2割増しになっている」というように現状を数値で捉えます。そして、その原因を追求します。複数社からの見積書の取り方が甘かった、あるいは予算の決め方が適切ではなく、コストがかさんだ結果、営業利益を減らす一因になったとすれば、やるべきことは決まってきますよね。

このようにして、自分の部署が損益計算書のどの費用に関わっているのか、あるいは売上を作っているのか、そうした観点から担当業務を見直してみましょう。会社全体の利益と自分の仕事がリンクして、実務の進め方に対する意識も変わってきます。

会社は効率的な経営がなされているか?

次に(2)「効率性」です。最も代表的な指標である「総資産回転率」を見てみましょう。

●総資産回転率=売上高÷総資産

総資産回転率を導き出すためには、貸借対照表と損益計算書の2つを使います。売上高とは売上の総額のことで、損益計算書の1番上に記入されています。総資産とは、流動資産・固定資産・繰延資産など、会社の全ての資産を合算したもののことで、貸借対照表で確認できます。

さて、総資産回転率は、「率」という字がついていますが、その単位は「回」。総資産を何回転させて売上をつくりだしたか、という指標です。

総資産回転率が大きいということは、経営者が効率的に経営をしているということを意味します。式をみると、売上高が大きくなる、もしくは総資産が小さくなれば、総資産回転率は大きくなることが分かります。つまり、総資産回転率=効率性の指標の値が大きいということは、「いかにムダな資産を持たずに、売上に結び付けているか」ということを意味しているのです。

【指標を活用するためのポイント】
私は普段、中小企業診断士として活動しています。以前に、もうかってはいるものの、効率性を示す数値の1つである固定資産回転率(売上高÷有形固定資産)が業界平均よりも低いという事業者から企業診断の依頼を受けたことがあります。美容サロンでしたが、お店の一角に新品の大型エステ機器が放置されていました。機器を使用して売上に貢献できていれば問題はないのですが、これから使う予定ということで全く使われていなかったため、資産は大きいのに売上は全く上がっていない、つまり資産がダブついていたために、決算書分析では効率性に関する数値が低く出ていたのです。

連載第1回で説明した通り、会社は漫然と経営されているのではありません。売上を出し、そこから社員の人件費を含めたコストを捻出し、その結果として利益を現金で回収して初めて経営を継続していけるのでしたよね。だからこそ、自分の部署で何か物品を購入する時には、「これは現在、あるいは将来、売上を生み出すものか、もしくはコストを減らすものか」という点を意識してみましょう。お金があるから、モノを買おうということでは、効率的な経営はできません。

ROAとは、収益性と効率性の掛け合わせ

「ROE経営」というような言葉を耳にされることがあるかもしれません。連載第1回で触れましたが、ROE(Return On Equity、自己資本利益率)とは株主が会社に拠出した金額(=自己資本または株主資本、といいます)に対して、どれだけ会社がもうけたか、という指標です。それに似た言葉で、ROAというのがあります。

●ROA=経常利益(あるいは当期純利益)÷総資産×100(%)

ROAとはReturn On Assets、総資産利益率のことです。総資産を使ってどれだけの経常利益を獲得することができたかを示す指標になります。利益のところは経常利益を使うこともあれば、当期純利益を使うこともあります。今回は経常利益を使います。

上の式は次のように書き換えられます。

●ROA=(経常利益÷売上高)×(売上高÷総資産)×100(%)

少し戸惑われるかもしれませんが、2つのカッコ内の割り算を分数で考えると、分母と分子にあたる「売上高」は相殺されるため、元の式(ROA=経常利益÷総資産)と同じになります。その上で、カッコ内の(A)経常利益÷売上高、(B)売上高÷総資産に注目してみましょう。どこかで見たことがありませんか?

そう、(A)は「どれだけもうかっているか」を示す経常利益率、(B)は「どれだけ効率的に経営しているか」を示す総資産回転率を導くための式ですよね。

ですから、ROAの式は「収益性×効率性」を表すと言えるのです。

世間ではROEのほうが着目されがちですが、ROEは株主の立場に立った指標だと言われています。それに対し、このROAは経営者の立場に立った指標、すなわち、経営者が任されている総資産をどれだけ効率的に運用して利益に結び付けることができたかを表す指標になるのです。

経営数値の把握で働き方も変わる

いかがでしたか。決算書分析というのは、「足し算・引き算・掛け算・割り算」の四則演算と、「企業って利益が大きい方がいいんだよね」という基本スタンスが分かっていれば、計算、理解できるものなのです。その正確に計算することはもちろん大事ですが、決算書分析は、計算して数値を導き出すことが目的ではありません。経営、もっといえば社員それぞれが次の行動をどう変えていくのかを示す道しるべを決めるために行うものです。

例えば、ROAの式をもう一度思い出してみましょう。ROA=経常利益(あるいは当期純利益)÷総資産×100(%)で、「収益性×効率性」を表すのでしたね。この値が同業他社よりも低い値だということは、他社にくらべて総資産を効率よく売上に結び付けられていないことを意味しています。分解して、収益性と効率性のどちらが低いのか、低いなら何を改善すべきなのか細かく見ていくことが必要です。数値を見て現状を把握し、目標に近づけるために、日常業務の中で収益性を高める努力が必要なのか、効率性を高める努力が必要なのかという方向性をつかまないといけません。より短期間で成果を出すためには、“見当違いの努力”は大敵です。

決算書分析は、決算書が専門用語と数字の羅列であることに加え、分析指標としてたくさん数値が出てくるので、苦手意識を持つ人が多いようですが、「何のために計算しているのか」「会社にとってこの数値は大きい方がいいのか小さい方がいいのか」「前年の自社、同年の他社と比べてどうか」というように、「検証(Check)し、次に生かす」という観点さえ忘れなければ、興味を持てますし、仕事もより効率的にできます。決して難しいものではありません。

これをきっかけにみなさんが会社の決算数値に興味をもち、ご自身の仕事をどう変えていったらいいのかを考えてもらえることとなれば、こんなにうれしいことはありません。

小紫恵美子(こむらさき・えみこ)
株式会社チャレンジ&グロー代表取締役、経営コンサルタント事務所Office COM代表。2児の母。東京大学経済学部卒業後、大手通信会社にて主に法人営業に従事。1998年中小企業診断士取得後、のちに退職。10年間の“ブランク”を経て、独立開業。現在は企業研修講師や中小企業への経営支援、執筆活動を行う。企業研修では会計、ロジカルシンキング等ビジネススキルを伝えるとともに、女性経営者を中心に数値とロジックに基づいた経営の重要性を伝える自主セミナーを展開
最近は、これまでの実績と、自身の大企業勤務→専業主婦→子育てしながら独立開業、という経験を踏まえ、女性の働き方についての執筆や講演に力を入れている。「活き活きと働くオトナが増える社会」を目指して日々活動中。