欧米と比べ、距離が近くて費用も安いフィリピンへの英語留学をレポートしてきた本連載も最終回。8週の留学期間を経て、実力アップして帰国した著者・江藤詩文さんの目下の課題は、英語力のキープとさらなるブラッシュアップだといいます。働きながら有効な学習法はあるのでしょうか?

これまでの連載一覧 オトナの海外留学【1】~【6】

フィリピン滞在中に出会い、帰国後も交流が続いている日本と台湾の女性8人全員が、留学による英語力向上を実感していた。“オトナの留学”は学生と違って、ほとんどの生徒が「パーフェクト・アテンダンス」つまり皆勤賞を達成する。

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今回、筆者が留学したフィリピンの留学先は2つ。リゾート地としても名高いセブ島と、ネグロス島の学園都市・バコロド。時差が1時間、フライトに要する時間は約5時間、近距離を生かした弾丸留学が人気の秘密だ。

1日8時間の授業を受け、4週間留学した場合、英語に触れる時間は8時間×5日×4週間=160時間。日本にいながら英会話スクールで1時間のレッスンを週3回受けたとして、160時間に届くには1年以上かかる計算だ。留学は、短期間に集中してこれだけの英語量に触れるのだから、成果が出るのはある意味で当然ともいえる。

しかし一方で、短い間に覚えたことは忘れるのもまた早いという現実もある。私自身はたった8週間しか滞在しなかったわけだが、それでも成田空港に到着した時には、「日本ってほんとに英語がないわ」と、軽くカルチャーショックを受けるほどだった。「これは英語を忘れそう」と焦ったのもつかの間、慌ただしい日常生活に戻り、会食だ、飲み会だと日本語で楽しんでいるうちに、帰国後3カ月しか経っていないのに、もう英語力が低下したような気がする。

私とは反対に、「帰国後もシームレスに英語学習を継続できるよう、フィリピン滞在中に信頼できる講師と相談しながら学習法まで確立して帰国した」というのが、連載第5回にも登場した山本紀子さん(仮名)だ。

当たり前のことだが、英語の習得は「留学したらそれで終わり」ではない。短期留学はいわばスタートダッシュ。さらなる英語力向上を目指して帰国後も奮闘する彼女たちの、 “フィリピン仕込み”の学習継続のヒント5つを紹介しよう。現在、日本で英語を学習しているみなさんにも役立つ術になるかもしれない。さっそく次ページから見てみよう。

留学帰国後も英語力をキープするヒント5つ

【ヒント1】TOEICの受験日を設定して受験料を振り込む

オトナの留学の場合、ビジネスシーンなどで即戦力となる英語が重要なわけで、試験勉強は遠回りに思えるかもしれない。しかしフィリピン人講師によると、市販のTOEIC攻略本といった学習参考書は、バランスよく学習するために適したつくりになっているそうだ。

英語力をアップするために、フィリピンではまず(1)ボキャブラリー(単語が分からないと話すことも聞くこともできない)、(2)リスニング(相手の言っていることが聞き取れれば、返事は単語を並べるだけでも最低限のコミュニケーションが成り立つ)、(3)リーディング、(4)スピーキングの順番での学習を薦められるが、TOEICの試験対策をすると、語彙、リスニング、リーディングといった優先すべき分野に自ずから注力できるわけだ。とはいえ、テキストを買っただけではなかなかモチベーションが続かない。「目標スコアを設定して、受験料を払うとやらざるを得ない気分になる」といった声があった。

【ヒント2】アプリを利用、通勤など“すき間時間”を活用

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【左】「Newsy」/いろいろなスピーカーが登場して、世界のホットなニュースをさまざまな発音で聴くことができる無料アプリ。流行語や略語などソーシャルメディアで流通している“ナマの英語”に触れることができるのも特徴。【右】「TED」/言わずと知れた、世界のプレゼンテーションに触れられる無料アプリ。プレゼン術の勉強にもお薦めだ。

「これまでゲームをするか、Facebookを見ていた通勤時間を英語学習に充てています」とある日本人女性。満員電車でも、スマホなら無理なく取り出して見ることができる。では、数あるアプリの中からどれを選べばよいのだろうか。

私がついた講師は「英語は英語のまま日本語を介さずに習得する」をモットーとしていた。私が興味を持って続けられるアプリとして、講師が選んでくれたのが「Newsy」というニュースアプリの「World News」と「Entertainment」のカテゴリー。このアプリは1分ほどの短いニュース動画がいくつも並んでいるのだが、動画の下に英語字幕が折り畳まれていれるのがポイント。1度聞いて8割ほど意味が分かれば十分ニュースを理解できるし、英語でニュースを見られたという自己満足にもつながる。聞き取れない場合は、字幕を開いて確認すればいい。「Newsy」で使われる単語は比較的平易なものばかりで、辞書を引いて精読するといった手間がほとんどかからないのも継続しやすい。ほかに「TED」のアプリも薦められた。

SNSをフル活用!
時差最小のアジア圏だからできること

【ヒント3】英語でコミュニケーションできる相手を見つける

「夫も英語を勉強しているので、日常会話の中で“これって英語で何ていうんだろう”と疑問に思ったことをその場で調べます。最近は“まめまめしい”“もどかしい”“八重歯”などを調べました。初めて知った単語は、同意語や例文なども一緒に覚えるようにしています」と教えてくれたのは、山本紀子さん。

身近な相手がいない場合は、ソーシャルメディアを活用したい。私の場合は「日本のことをもっと知りたい」というフィリピン人講師のリクエストに応えて、FacebookやInstagramで、写真と英語のキャプションをアップすることにした。講師は私の文章を見て「この表現は不自然かも」といった指摘をしてくれる。また、メッセンジャーでリアルタイムのやり取りをすると「今の表現は時制が違っている」「レスポンスはフルセンテンスで」「時間がかかっているけれど日本語で考えないで」と、ほとんど授業のようになることも。

さらに、台湾人の女性とは、お互いの国の気になるニュースがあれば、英語で訳し合うという約束をした。お互いが英語を勉強しているので、面倒くさいと断れないところがツライが……。ちなみに最近では、私はSMAPの解散騒動について、彼女は台南地震について英語で説明してくれた。

【ヒント4】オフタイムには英語で映画鑑賞してリフレッシュ

超字幕『プラダを着た悪魔』3490円(税抜き)/「初級」などレベル別、「ビジネス英語」などテーマ別、「コメディ」などジャンル別から自分に合った作品を見つけやすい。山本紀子さんのお気に入り作品『プラダを着た悪魔』はビジネス英語も学べる。

これも山本紀子さんのアイデアだ。「私は、ソースネクストの『超字幕』という英語学習ソフトを使い、『The Devil Wears Prada(邦題:プラダを着た悪魔)』を繰り返し見ています。ストーリーがおもしろいし、ビジネス英語も学べるのでお薦め。『超字幕』は英語と日本語の字幕が同時に表示され、さらにカーソルを当てると単語の意味が出てくるのが気に入っているところです。最初は0.8倍のスピードにしないとついていけませんでしたが、今は通常の速度でも台詞を追えるようになりました。そろそろ新しい映画に移行しようかなと思っていて、次は『Meet Joe Black(邦題:ジョー・ブラックによろしく)』を見るつもりです」

私の場合は、日本語字幕の出るソフトではなく、英語字幕を表示しての映画鑑賞を薦められた。作品の選び方も重要で、例えば、日本でも大人気のベネディクト・カンバーバッチの「SHERLOCK(邦題:シャーロック)」シリーズは、アメリカ人でも聞き取りづらいイギリス英語で、専門用語も多いため、英語学習にはあまり適さないそうだ。私に合った作品としては「Big Hero 6(邦題:ベイマックス)」や主人公がライターということで「Congessions of a Shopaholic(お買いもの中毒な私!)」を推奨された。

気軽にトライできるオンライン英会話も魅力

【ヒント5】オンライン英会話を予約して学習時間を確保する

【写真上・写真中】オンラインレッスン風景。【写真下】「QQ イングリッシュ」ITパーク校のオンライン英会話専用フロア。24時間いつでもレッスンを受講できる。

「できる時に勉強しようと思うと、結局時間が取れなくなってしまいます。そのため私は、留学中に指導を受けて私の英語レベルを理解してくれている先生に絞って、オンライン英会話を続けたいと思っています。先生に会えるという楽しみもあり、継続しやすいですね」と話すのは、連載第4回に登場した伊藤知香さん。こうして先に留学をして、気の合う先生を見つけてからオンライン英会話に取り組むのもいいが、留学未体験者の学習法として、まずは気軽にオンラインから試してみるのもお薦めだ。

【番外編】海外に住む

最後に「ウルトラC」ともいえる番外編が“海外に住む”という選択だ。海外に住むというのが英語力向上にもっとも役立つことは間違いない。実は留学を終え帰国して3カ月間のうちに、冒頭の8人中2人の女性が海外での就職を決めた。2人とも留学する前には海外に住むことなど考えてもいなかったそうだ。「英語が話せれば世界が広がる」。フィリピン英語留学が、彼女たちの人生の可能性を広げたことは間違いない。

~連載の最後に~

日本にいても、街中に訪日外国人が増え、英語の必要性を実感する2016年。あまり行動的ではない私が重すぎる腰を上げ、英語力獲得へのファーストステップは、とにかくスタートダッシュで乗り切った。その結果、英語メールのやり取りが苦ではなくなったり、英語のWEBサイトで情報収集するなど、ちょっとした変化だけでも仕事の効率が上がり、選択肢が広がった。私の結論としては

・何度か海外旅行の経験があって
・どうがんばっても今からネイティブには、なれない年齢で
・あまり時間をかけずにビジネスで使える英語力を身につけたい

という3つの条件に当てはまる人には、フィリピン留学を絶対にお薦めしたい。

全7回にわたってお送りしてきたこの連載。最後までご愛読くださり、ありがとうございました。

江藤詩文/旅する文筆家
年間150日ほど海外に滞在し、その土地に根ざしたフードカルチャーをメインに、独自の視点からやわからな語り口で綴られる紀行文を雑誌やウェブサイトに寄稿。これまで訪ずれた国は50カ国ほど。女性を中心とした地元の人たちとの交流から生まれる“ものがたり”のあるレポートに定評がある。旅と食にまつわる本のコレクターでもある。現在、朝日新聞デジタル&Wで「世界美食紀行」、産経ニュースほかで「江藤詩文の世界鉄道旅」を連載中。著書に電子書籍『ほろ酔い鉄子の世界鉄道~乗っ旅、食べ旅~』シリーズ全3巻(小学館)。
【世界美食紀行】http://www.asahi.com/and_w/sekaibisyoku_list.html
【江藤詩文の世界鉄道旅】http://www.sankei.com/premium/topics/premium-27164-t1.html