損害によるダメージを少しでも軽くする制度

今年も確定申告の季節が近づいてきました。会社員が申告して税金を取り戻す方法として、比較的知られているのは「医療費控除」。これは、このコーナーでも何度か取り上げていますので、みなさんももうご存知かもしれませんね(「医療費控除」で税金を取り戻すための4つのステップ http://woman.president.jp/articles/-/946)。

でも、医療費控除以外でも、税金を取り戻せるケースがあります。その一つが、ここで紹介する「雑損控除」です。

「雑損控除」は、自然災害や火事、盗難などで財産に損害が出たときに、税金が安くなる制度です。思わぬ被害にあったときは、気持ちも落ち込んでしまうもの。そんなときに「雑損控除」の存在を知っていれば、少しは救いになるはずです。

では、「雑損控除」を使うための条件を、少し詳しくみてみましょう。

自然災害や火事、盗難などによる損害が対象

雑損控除を申告できるのは、次のような原因によって損害が出た場合です。

(1)震災、風水害、冷害、雪害、落雷など自然現象の異変による災害
(2)火災、火薬類の爆発などによる異常な災害
(3)害虫などの生物による異常な災害
(4)盗難
(5)横領

こうした損害の中には保険でカバーできるものもありますが、保険に加入していなかったり、補償対象外だったりすることも少なくありません。たとえば、空き巣に入られて現金を盗まれた場合、火災保険では補償があったとしても「現金は20万円まで」といった上限があるのが普通です。また、一般の火災保険では震災や噴火、津波による損害は補償されません(震災・噴火・津波による家財の損害を補償するのは地震保険のみ)。保険でカバーできない部分は、雑損控除の申告を検討するといいでしょう。

最近の寒波で豪雪に見舞われている地域もありますが、雪下ろしの費用も雑損控除の対象になります。このほか、白アリによる家屋の被害や、シカやイノシシが家屋を壊したようなケースも「生物による被害」として申告できます。

なお、盗難、横領による被害は対象になりますが、詐欺や恐喝は対象外とされています。残念ですが、「オレオレ詐欺」のケースは申告することができません。

生活に必要な財産に限られる

ただし、雑損控除の対象となる財産には、次のような条件があります。

(1)納税者本人か、扶養する配偶者、親族(所得38万円以下の人)の財産
(2)生活に通常必要な財産

別荘やゴルフ会員権などは「生活に通常必要な財産」に含まれないため対象外。また、貴金属や絵画などで1個(または1組)30万円超のものは対象外です。

自動車の場合はちょっと微妙。通勤に使ったり日常の買い物に使ったりしている場合は対象になりますが、レジャー専用だったり趣味で持っているセカンドカーなどは対象外になりそうです。

所得から差し引ける金額の計算方法

雑損控除で所得から差し引ける金額は、次の順番で計算します。

(1)「差引損失額」を計算する
「差引損失額」=「損害金額」+「災害等に関連したやむを得ない支出金額」-「保険金などによる補てん額」

「損害金額」は損害があったときの時価のこと。「災害等に関連したやむを得ない支出金額」とは、被害のあった住宅の取り壊し・撤去費用など(=災害関連支出)のほか、盗難や横領の場合に原状回復のために支出した費用が入ります。また、「保険金などによる補てん額」には、損害賠償金なども含みます。

大雑把にいえば、「損失額には関連費用も含めていいですよ、でも、保険金をもらったら差し引いてくださいね」ということになります。

(2)雑損控除額を計算する

雑損控除として申告できる金額は、下の2つのうち多いほうの金額です。

(A)「差引損失額」-「所得金額」×10%
(B)「災害関連支出」-5万円

(A)で差し引く「所得金額」×10%は、いわゆる“足切り額”のこと。所得金額とは収入から必要経費を引いた金額を指し、収入が給与だけの会社員なら、源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」欄にある金額です。年収500万円の会社員だと、この「給与所得控除後の金額」は346万円。つまり、この10%にあたる34万6000円が“足切り額”で、これを超えた額が(A)の金額になります(源泉徴収票の見方については、捨てないで! 「源泉徴収票の見方」キホンのキ http://woman.president.jp/articles/-/924をご覧ください)。

(B)はちょっとわかりにくいのですが、たとえば火災にあった住宅を取り壊す費用は、100万円、200万円といった額になることも少なくありません。こうした支出が「災害関連支出」にあたります。取り壊し費用は火災保険で補償されないこともあり、こうしたケースなどでは(A)より(B)の金額のほうが多くなることが考えられます。

では、雑損控除を申告するとどれだけ税金が安くなるでしょうか。

空き巣の被害にあった雪美さんのケース

昨年の秋に空き巣に入られた会社員の雪美さん。空き巣は窓ガラスを割って家に入りました。盗まれたのは、隠してあったヘソクリ30万円のほか、新しいノートパソコン(時価10万円)、ゴールドのアクセサリー数点(時価20万円)で、計60万円。窓ガラスの修理費用2万円は火災保険から支払われましたが、盗まれたものに対する補償はありませんでした。

このケースでは、上記(1)の差引損失額は次のようになります。

●差引損失額=損害金額(60万円)+災害等に関連したやむをえない支出金額(2万円)-保険金などによる補てん額(2万円)=60万円

雪美さんの昨年の年収は500万円で、所得金額は346万円、所得税率は10%でした。そこで、(2)の雑損控除額は次のようになります。

(A)差引損失額(60万円)-所得金額(346万円)×10%=25万4000円
(B)災害関連支出はなし

このケースの雑損控除額は、(A)の25万4000円です。

所得税率10%の雪美さんが雑損控除の申告をすると、戻ってくる所得税は25万4000円×10%=2万5400円。このほか、今年6月から支払う住民税(税率は一律10%)も2万5400円安くなるので、所得税・住民税合わせて5万800円の税金が安くなります。

「被害に較べれば少ないなあ」と感じるかもしれませんが、ダメージを受けたときには嬉しいお金だと思います。申告する際には警察の盗難証明書や関連した支出の領収書などが必要となり、少し面倒ですが、こんなときこそぜひ申告したいところです。

なお、被害がもっと大きくて、雑損控除の額が所得金額を超えるようなときは、3年間にわたり、繰り越して控除を受けることができます。また、家財の価格の2分の1以上の損害があったときは、雑損控除に代わって「災害減免法」という救済措置も選択できる場合もあります。大きな被害があったときは、税務署で相談するのがおすすめです。

雑損控除を申告するようなことは、そう起きるわけではありません。でも、自分だけでなく、家族や友人に何かあったときのためにも、こうした救済措置があることを覚えておくといいですね。

マネージャーナリスト 有山典子(ありやま・みちこ)
証券系シンクタンク勤務後、専業主婦を経て出版社に再就職。ビジネス書籍や経済誌の編集に携わる。マネー誌「マネープラス」「マネージャパン」編集長を経て独立、フリーでビジネス誌や単行本の編集・執筆を行っている。ファイナンシャルプランナーの資格も持つ。