本に人生を支えられたこと、本に行動を促されたこと、本にはっとさせられたこと、本の中に自分のなりたい姿を見つけたこと……。人生で一番の読書体験、語ります。

想像以上のスピードで現実化している

インターネットで人材と仕事をマッチングするクラウドソーシングのサービスを始めて半年後くらいだったと思います。あるユーザーさんから「御社は仕事を紹介してくれるが、風邪を引いたときに面倒を見てくれるわけではない。気楽でいいね」と言われて、考え込んだことがありました。

当時は「それはうちのサービスではない」と考えていましたが、そのユーザーさんの言葉はずっと心に引っかかっていました。

本当にこのままでいいのか。そう悩んでいたときにヒントをくれたのが『ワーク・シフト』です。

『ワーク・シフト』

この本では「ポッセ(頼りになる同志)」という概念が紹介され、働く環境が変化して人間関係が希薄になっていく中で、互助の精神が重要になることが指摘されていました。私はこれを読んで深く共感し、クラウドワークスをただのマッチングサービスではなく、個人の働くインフラ、生活のインフラを担うサービスにしていこうと誓ったのです。

今回、『ワーク・シフト』をあらためて読み返したのですが、この本の中で描かれている未来が想像以上のスピードで現実化していて、恐ろしいくらいですね。

例えば、「テクノロジーが人間の労働者に取って代わる」という予測があります。3年前に読んだときは「いずれそうなるかも」と悠長に受け止めていましたが、現実ではすでにIBMの人工知能「ワトソン」が銀行の窓口業務をやることが計画されています。高い専門性がなかったり、人間らしいセンスを発揮できない人がロボットに仕事を奪われる時代は、すぐそこに来ているのです。

私は10代は純文学、20~30代はビジネス書ばかり読んでいました。起業するまではビジネス書がとても役立ちましたが、いまは自分のスタイルを確立する時期だと思っているのでビジネス書を読むとかえって迷いの原因になります。

吉田浩一郎さん「ロボットに仕事を奪われる時代が、すぐそこに来ている。」

いま、よく読むのは歴史の本ですね。100年続く組織をどうつくるのかと考えると、参考になるのは国しかない。ローマ帝国の盛衰や中国唐代の『貞観政要』は本当に奥が深いです。

SFもよく読みました。弊社のオフィスの入り口には「エンジニア・ア・ベター・フューチャー」という言葉が書かれています。これは私が好きなSF三大作家の一人、ロバート・A・ハインラインの言葉で、「機械はベストをつくりだすが、人間はつねに改善を重ねて未来をよりよくしていく」という意味が込められています。ロボットが台頭する新しい時代になると、この言葉の持つ意味がますます重要になってくると思っています。

●好きな書店
青山ブックセンター

●好きな読書の場所
ファイアーキングカフェ(代々木上原)

●好きな作家
寺山修司

吉田浩一郎
1974年兵庫県生まれ。東京学芸大学卒業。パイオニア、リード エグジビションジャパンなどを経て、ドリコム執行役員として東証マザーズに上場後、独立。2011年クラウドワークスを創業、代表取締役社長兼CEOを務める。