「子供は授かり物」とは言いますが、誰にも深く相談できず、ひっそりと妊活に取り組んでいる夫婦がいるのも事実です。2015年11月にスタートした日本初の“成果報酬型”妊活サポートサービス「ファミワン」、その内容は10カ月の期間限定で月額2万円、妊娠しなかったら返金という思い切ったもの。サービスを立ち上げたファミワン代表取締役社長の石川勇介さんに話を聞きました(本文敬称略)。

成果報酬型妊活サポートサービスとは

――「ファミワン」とは具体的にどのようなサービスなのですか。

【株式会社ファミワン代表取締役社長 石川勇介(以下、石川)】ファミワンは成果報酬型の夫婦参加妊活サポートサービスです。ダイエットで話題のライザップの妊活版と考えると分かりやすいと思います。ただし、ファミワンは妊娠を保証するものではなく、10カ月間という期間を区切って妊活に取り組んでもらうことを目的としています。世の中には「妊娠を保証します」とうたった商品やサービスもありますが、それは決して簡単に言えるものではありません。10カ月で妊娠に至らなかった場合は返金し、区切りをつけて未来に進んでもらいたいと考えています。時間を意識していたとしても、夫婦だけで取り組むと年月はあっという間に過ぎてしまいますので。

株式会社ファミワン 代表取締役社長 石川勇介さん。2006年3月慶應義塾大学経済学部卒業。前職のエムスリー株式会社では、AskDoctors評価サービスを担当し、企画、営業、運用を実施。2015年6月に株式会社ファミワンを設立。結婚後、1年間の妊活を経て、2015年7月には第1子が誕生。

ファミワンでは夫婦1組に専任コンシェルジュが1人付き、webを介して、妊活状況の整理や夫婦それぞれの個別ヒアリングなどを行います。また、体外受精や男性不妊を経験した人、妊活が原因で離婚をした人、医療に関わる職業を専門とする人たちがアドバイザーとなり、掲示板やチャットで相談を受け付けます。本気で子供がほしいと思って集まっている登録者を対象としたクローズドの掲示板ですので、同じ悩みを持つ人同士で安心してやりとりが行えます。チャットではアドバイザーと1対1で相談を行うこともできます。そのほか、サプリメントや妊活グッズなどをお送りすることにより、食生活の見直しや体作りや夫婦仲に関するアドバイス、またストレスとの向き合い方や医療の知識などを提供します。

――ファミワンが考える妊活の定義や、妊活と不妊治療の違いについて教えてください

【石川】定義に関しては諸説があるのですが、我々は「子供をつくるための活動」そのものを妊活と考えています。親や祖父母、それ以上の前の世代も含め、昔から多くの夫婦がやってきていることですね。現代では医学が発展し、検査によって治療の必要性などが分かるようになりました。その治療法も、人工授精や体外受精など、いくつかステップがあります。昔ならば子供を諦めるしかなかった夫婦も、不妊治療の発達により妊娠に向けて取り組むことが可能になりました。ですので“妊活”の言葉の中に“不妊治療”が含まれていて、どちらも「子供をつくるための活動」というイメージで捉えています。

夫婦で・第三者を交えながら・期間を区切って取り組む

――サービスにおいてこだわっている“妊活のポイント”について教えてください

【石川】ポイントは3つあります。1つ目は夫婦で参加するということ。これが最も重要な譲れない点です。妊活は夫婦どちらか片方、特に女性側に比重が偏る場合が多いです。最初こそ夫も協力するけれど、仕事が忙しくてだんだんモチベーションが下がり、妻に任せっきりになってしまうという話も多く聞きます。家族の未来に向けた活動ですので、どちらかに偏るのではなく、夫婦そろって取り組み続けることが何よりも大切だと考えています。また、夫婦の片方だけが積極的に妊活をしていると、子供が生まれた後にも育児に関する意識に差が出てしまうケースもあります。

サービスの利用開始時にプレゼントされる「妊活ギフトボックス」。食生活や健康をチェックする診断キットやサプリメントお試しセットなど、妊活をサポートするグッズを中心に考えられている。(※プレゼントはこれらのグッズの中から一部の発送となります。またプレゼントの内容は変更となる場合があります。)

2つ目は、妊活に適切に第三者が介入すること。夫婦だけでは感情論に陥ってしまい、話し合いも平行線になりがちです。専門家ではないとしても、妊活経験者に「私の場合はこうだった」と言ってもらえることで、冷静になれたり考えが広がったりすることも多いです。また夫婦だけでは見落としがちな“知っておくべき情報”も伝えられます。

3つ目は期間を区切ること。「10カ月」と妊活期間を定めることが、次のステップに進むきっかけの1つになると思います。実際に通院や不妊治療を始める、場合によっては子供を産むことだけではなく、養子縁組や夫婦だけの暮らしを検討してみるなど、いろいろな可能性について、考えたり行動したりしやすくなります。区切りをつけないと、何年も妊活を続けることとなり、次のステップに移るのが遅くなったり、結果が出ない苦しさから夫婦関係が悪くなってしまったりするケースが多く見られます。

“夫婦で・適切に第三者を交えながら・期間を区切って取り組む”、これがファミワンのサービスで実現したいと考える妊活に込めた3つの願いです。

――「10カ月で20万円」という期間や価格について、利用者からはどのような反応が寄せられていますか?

【石川】期間、価格ともに、さまざまな反応があります。期間に関しては、ある程度の知識がある方には「10カ月は短過ぎる」と言われることが多いです。体の細胞が代謝により入れ変わるのが約半年だとされているので、体質改善を並行して行うと考えると「10カ月を1セットとして、2セット、3セットやるくらいじゃないとダメ」と言う方もいます。もちろん、それとは逆に「10カ月は長い」と感じられる方もいます。日本産科婦人科学会では不妊の定義を「1年間」と定めており、年齢にもよりますが、早期に、少なくとも10カ月後には、検査などに進んでほしいです。

価格に関しては、「夫婦の未来」のために、何に投資するかという観点から考えてほしいです。例えば、体外受精を行う場合、1回の治療で平均30万円かかります。「10カ月で20万円」という価格は、夫婦2人で2万円、1人あたり1万円を毎月貯蓄していると思えば決して高額ではありません。10カ月間取り組んでみて妊娠に至らなかった場合は、戻ってきた20万円を使って体外受精を含む次のステップを検討する。「夫婦の未来のための保険」、そんな願いも込めた返金制度です。

夫婦で煮詰まる悪循環を防ぐ第三者の存在

――サービスを始めたきっかけを教えてください。

【石川】自分自身の妊活の経験からです。私たち夫婦は1年ほど妊活に取り組みましたが、その間に妻とケンカをすることも多くありました。病院に通うまでにも、約8カ月間かかっています。また、当時、医療系の情報を扱う会社に勤めていたのですが、私と同様に妊活や不妊治療について多くの人が悩んでいることを知り、そういった人の背中を押すサービスが必要だと考えました。

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ネット上のクローズド掲示板では、ユーザー同士が交流できる。情報をシェアしたり励まし合ったり、同じ想いを持つ人と自由に意見交換することで、追い詰められがちな妊活にゆとりが生まれる。

――差し支えなければ、石川さんが妊活で感じた苦労を教えてください。

【石川】私たち夫婦の場合、世の中の多くの夫婦とは逆かもしれませんが、私の方が妊活について積極的でした。いろいろと情報を調べて伝えたり、本やグッズを購入したりすることが多く、妻にとってはプレッシャーになっていたのです。そして感情的になり、何度もケンカしましたね……。妊活は取り組み方に絶対的な正解というものがないということもあり、妻は生理が来るたびにそれまでの努力がリセットされてゼロになってしまうと感じていたようでした。

――石川さんは第三者に相談したのでしょうか?

【石川】しませんでした。というか、「相談する」という概念がありませんでした。妊活は夫婦だけでやるものと思い込んでしまっていたのかもしれません。

妻は何人かの友達に相談しており、その人たちから聞いた少数の意見に信頼を寄せていたようでした。私からすると “母数n=少数のアンケート結果”でしかないのに、うのみにしてしまうのはどうなのか、と感じていました。情報に対する認識の差もケンカの原因の1つでした。

――サービスに第三者を介入させるという発想は、石川さんの体験からきたのですね。

【石川】自分の体験を振り返り、妊活を夫婦で前向きに捉えるためにはどうすればいいかと考えた時に、「第三者による、観点が異なる複数のアドバイスが重要」ということに思い至ったのです。世の中には情報がたくさん転がっていますが、特定の情報にのめりこんでしまうとマイナスの影響となってしまうこともあります。どれが正しいかも分からないですし、知らず知らずのうちに都合のいい情報ばかり集めてしまいがちです。そこに第三者が入れば、冷静に、適切に妊活を進めることができるのではと考えました。

男性側がきっかけとなりスタートする夫婦もいる

――サービスの利用者はどのような人が多いのですか?

【石川】基本的に共働きで、年齢層で言うと30代が多いです。妊活に取り組んでいる期間はばらばらです。取り組み始めてすぐという人もいれば、ずっと悩んできた人もいます。しかし、共通するのは過去の私と同じように「夫婦だけで取り組んでいる」「夫婦間で温度差がある」「夫婦であまり話せていない」ということです。

また、特徴的なのは夫がこのサービスを見つけて入ってくるケースも多いということ。「なんとかしなければいけない」という意識を持った男性はたくさんいるのです。ただ、なんと声をかけていいのか分からないので、妻からすると「夫は協力してくれない」と思ってしまう。ある日、夫から突然このサービスについて伝えられて、妻の方が驚いたという話もあります。そもそも女性特化型サービスではないので、「こんなサービス知ってる?」と男性、女性の双方に伝えやすいというのもありますね。

2015年7月末から限定的にテスト版のサービスを提供し、先行して複数の夫婦に妊活に取り組んでもらっています。現行のサービスとは違い、テスト版ではコンシェルジュ機能がありませんでした。アドバイザーや掲示板の機能はあったのですが、サービスの使用頻度に大きく個人差が出て、全く使わない人もいるという状況でした。そこを埋めるためにコンシェルジュ機能を付けました。例えばアドバイザー選びに迷った時は、コンシェルジュがマッチングをお手伝いします。どうしたら妊活に取り組む夫婦をよりしっかりと支えることができるかを常に考えて、試行錯誤しながらサービスを開発、改善しています。継続的にご意見をいただくため、モニター会員の限定募集などもサービス紹介ページにて随時行っています。