最近、ビジネスの現場でしばしば“ミッション”という言葉を耳にします。皆さんも「私の会社におけるミッションは~」など言ったことがあるのでは? この言葉に縛られたり、言い訳にしたりすると、あなたの成長はそこで止まってしまうかもしれません。
ミッションという言葉を辞書で調べると「任務」や「使命」といった意味を持っていると解説されています。
この言葉、最近はビジネスの現場で、頻繁に耳にするようになりました。以前なら「自分が任せられている仕事は」とか「会社から求められている役割は」というセリフで説明していたシーンで、使用されることが多いようです。例えば「自分のミッションは」とか「会社からのミッションは」という感じでしょうか。元々の意味である任務や使命という言葉に置き換えてみると、言い得て妙というか、しっくりくる言葉だなと、個人的には思っています。しかし、このミッションという言葉、意外にくせ者。
仕事をしている中で、少なからぬ人たちが「ミッション」という言葉に縛られてしまい、身動きが取れなくなるケースを見かけます。新しいことを何かしようと思ったときに「自分のミッションには含まれていない」とか、「ミッションとはズレているので、優先順位が上がらない」という感じで、何かをしない、新しいチャレンジを先送りする、その言い訳のフレーズに使われているのです。確かに組織から与えられている使命や、求められている任務から外れたことに関して、仕事として取り組むのは難しいことなのでしょう。しかし同時に、がんじがらめに縛られていて大丈夫かと、心配になってしまいます。
自らが成長する、その戦略は誰が作成し、実行するのか
もちろん組織に属している以上、その組織が求めることに応えることが最も優先されるべきです。しかし、昔のように多くの企業が終身雇用を前提として、従業員のキャリアプランを考えて、その成長に合わせて仕事を差配してくれる、という時代ではありません。
ということは、裏を返せば、自分のキャリアプランと、そのキャリアに見合った能力をきちんと身につけるためには「キャリアプランを自分で考え」て、「そのために必要な能力を整理、獲得するために努力」しなければならないのです。そういうことをすべて考えてくれている企業もありますが、減少傾向です。
ミッション優先と言って、その枠の中だけで仕事をしていたら、極論、成長の機会を奪われる可能性すらあるということ。以前から言われていた「会社に尽くしたのに、結果的に捨てられてしまった」という悲劇が形を変えて現れてくるのです。もちろん、企業にとってミッションを確実に遂行してくれる人はとても有能かつ、貴重な人材です。が、いつまでもそのミッションがあるとは限りません。企業の戦略によって戦術が変わり、その結果あっという間にミッションが変化し、今まで粛々と任務を遂行していたという人も「外されて」しまうことがある。そうならないためには、先に手を打っておく必要があるはずです。
企業と自分の関係性を見直し、ミッションの外で能力を磨く
このコラムの読者の皆さんには、ミッション以外の仕事を増やすのは、酷な話かもしれません。会社ではベテランで仕事ができ、さらに管理職で……という立場の女性だとしたら、時間的には目いっぱいで、もう余裕がないという人も多いでしょう。
そういう人は、まずミッションに必要な能力を磨き直すところから始めてみてください。そうすることで、今までよりも短い時間で仕事ができるようになるはずです。そう、早い話が自分磨きの時間を「自らで作り出す」ことから始めよう、ということ。その上で、次に「ミッションの外での自分磨き」を、考え始めてみるのです。まずは、組織の中で「ミッションじゃないけど興味があること」に首を突っ込んでみる。
同僚や同期などが取り組んでいる仕事で、面白そう、興味深い、自分もやってみたいというものがあれば、手伝いを申し出る。ミッション外なので、組織での評価は高まりません。場合によっては「そんなことはやってはいけない」ととがめられることもあるでしょう(与えられたミッションがクリアできていないのに他の仕事に首を突っ込むと、怒られること請け合いです)。
しかし、その場合でも、仕事の相談の相手くらいはできるかもしれません(俗に「壁打ち」と言います)。それを引き受けるだけでも、視野が広がり、新しい能力を獲得できる可能性が広がります。少なくとも、現状よりも成長することは間違いありません。
組織から与えられるミッション以外に、自分でミッションを作る
さらに、組織の外に出て、自分を磨く、新しいキャリアを考えるという選択肢もあるでしょう。副業可能な企業なら、それに取り組んでみてもいいかもれません。起業などにトライすると、当然、いま与えられているミッションとは、全く違う成長をするはずです。習い事を始めてみるというのも、1つの手です。単に趣味を増やすということではありません。上長として、今後のキャリアを考えたときに「分かりやすく」「人に伝える」「指導する」というスキルは必須です。習い事は、それらのメソッドがある程度確立されていて、実はビジネス社会に応用可能なケースもある。それを“盗んで”身につけるのです。
つらつらと「こんなことをやってみたら?」と提案してきましたが、今、最もやっておきたいのは、組織からのミッション以外に、何か自分自身でミッションを設定することです。自分自身に何を求めるのか、それを考えてみる。仕事に関する未来予想図を描いたときに、そのために必要なスキルが身に付いているのかどうか考えて、不足しているのであれば「それは組織で働いていて、ミッションを果たせば得られる」のか「組織からのミッションだけでは不足なのか」を考える。その上で、自分自身で新しいミッションを設定する。未来の自分に責任を持てるのは、属している企業ではなく、現在の自分自身なのです。
就職や転職、若手社会人のキャリア開発などの各種サービスやウェブサイトのプロデュース、ディレクションを、数多く&幅広く手がけている。直近は、企業の人事が持つ様々なデータと個人のスキルデータを掛け合わせることにより、その組織が持つ特性や、求める人物像を可視化、最適な配置や育成が可能になるサービスを作っている。リクルートワークス研究所『「2025年の働く」予測』プロジェクトメンバー。著書に『就職のオキテ』『会社のオキテ』(以上、翔泳社)。「人が辞めない」という視点における寄稿記事や登壇も多数。