同性からも異性からも一目置かれる、好感の持てる話し方ができる女性。彼女たちの話し方に共通するのはなんでしょうか? プレゼンの「伝える」技術に焦点をあてた美しく知的な話し方のコツを、元IBMのコンサルタント清水久三子さんが解説します。

プレゼンテーションの大切な要素「プレゼンス」「コンテンツ」(参照記事はこちら)に続く三つ目の要素は、“話し方”“身振り”“手振り”などを通じて相手に伝える「デリバリー」です。女性特有のクセが出がちですが、ちょっとしたところを意識するだけでも説得力のある伝え方ができるようになります。

デリバリーの鉄則「ノイズカット」と「フォーカス」

プレゼンにおけるデリバリーとは、「ボーカルインパクト」と「ビジュアルインパクト」の二つを指します。ボーカルインパクトとは、文字通り「声」のこと。声の大きさやスピード、どれくらい間を取るか、声のトーンをどれくらい上げたり下げたりするのかという抑揚をコントロールします。ビジュアルインパクトは、アイコンタクトやジェスチャー、表情や姿勢も含まれます。

この二つを、相手にうまくデリバリーする鉄則は、「ノイズカット」と「フォーカス」です。ノイズカットとは、ムダを取ること。フォーカスとは、強調する部分をハッキリさせることです。意識せずに話していると、「言葉のヒゲ」と呼ばれるムダなノイズや余計な体の動きが入りがちです。まずそのような言葉や体の動きのノイズカットをして、その後にフォーカスのテクニックで伝えるべきことを強調していきます。ノイズがあるままだと、いくらフォーカスのテクニックを駆使しても、理解しやすくなりません。デリバリーは、「まず徹底的なノイズカット、次にフォーカス」と覚えてください。

「え~」はプレゼンには不要

前項「ノイズカット」で触れた「言葉のヒゲ」について、詳しく説明しましょう。これは聞き手にとって耳障りな、理解を妨げる言葉のことです。ヒゲの例としては「え~」「えっと」「まぁ、その」「やはり」など、話始めや途中に何度も出てきてしまう口癖です。これらは意味を持たない言葉ですし、あまりにも多いと聞き手が気になって、話に集中できなくなってしまう“ノイズ”です。

また、「要するに」「基本的には」という、一見するとヒゲではないように感じる言葉も、何度も発することで「言葉のヒゲ」になってしまいます。「要するに」などはその後に要約した文が続かずに、普通の説明が続いたら、かえって「まとめられない人」と認識されてしまい逆効果です。これらのヒゲ言葉は、口グセになっている場合もありますし、普段は出なくても緊張すると焦って出てきてしまうことがあります。

沈黙への恐怖が「ヒゲ」になる

なぜ、このようなヒゲが出てきてしまうのでしょう? それは「沈黙への恐怖」が原因です。緊張している場面では、何も言葉を発しない、音がしない時間がとても長く感じられ、怖くなるものです。早く話さなければという焦りが、知らず知らずのうちに、「え~」といった言葉になって出てしまうのです。

しかし、自分が話している時にヒゲが出ているかどうか気付いている人はあまりいません。ヒゲを取るには、まず自分がどんなヒゲ言葉を発しているかに気付くことが第一歩です。まずはスマートフォンなどで自分が話している動画を撮影してみてください。動画が難しければ音声だけでも構いません。録音を聞いてみると、自分では気が付かないヒゲが見つかるでしょう。いったん見つかると、話す時にヒゲが出ると自分でも気が付くようになります。意識すると、ヒゲは自然に減っていくものです。

とはいうものの、ヒゲが癖になっていて、どうしてもとれない時はどうすればよいのでしょうか。効果的なヒゲとり対策を解説します。

ヒゲとり対策(1) 迷わず沈黙

プレゼンテーションでこのヒゲが出てきそうになった場合には、まず、迷わず沈黙してください。沈黙の時間は、話し手が思っているほど聞き手にとっては長く感じられません。次の言葉がなかなか出てこない、忘れてしまった、言葉に詰まった、などの時は、迷わず沈黙してください。

そのためには「沈黙は気まずい」という意識を変えましょう。むしろ際限なくずっと話し続けられるほうが、聞き手は疲れてきます。それまで話されたことを理解したり、考えたり、質問をしたりするためにも沈黙の時間は必要なのです。

ヒゲとり対策(2) 一文を短くする

もう一つのヒゲ取り方法として、一つひとつの文章を短くするのも有効です。文章は、長くなればなるほど主語・述語、修飾節などが絡み合い複雑になります。長文を話していると、自分でも何を言ってるのか分からなくなって、言葉につまってしまい、結果、ヒゲが出てしまうということになります。

まずは「滔々(とうとう)と長い文章を話すのが流暢でかっこいい」と思う意識を捨てましょう。プレゼンテーションが上手く説得力のある人の動画を見ていると、短くシンプルな文を、たっぷりと間をとって話しているのに気が付くでしょう。文章を短くして、その間は沈黙、つまり「間(ま)」をとるという方法でヒゲをとっていってください。

「のび」「あげ」「落ち」を減らして、幼い印象をなくす

ひげがとれたら、語尾に注意を払いましょう。語尾の「のび」「あげ」「落ち」という語尾の言い方の癖をとりましょう。

まず、「のび」とは、「◯○がぁ~、△△ですのでぇ~、□□になりますぅ~」というふうに語尾の最後の音を不必要に伸ばしてしまうことです。このような話し方は子供の話し方に似ているため幼い印象を与えがちです。若い女性はことさら気をつけたほうがよいでしょう。さらに地声が高めの場合には、聞き手が苦痛を感じる場合もあります。

二つ目の「あげ」はよくテレビのお笑い番組などでも使われます。「◯○みたいな?」「◯○です?」というふうに、疑問文ではないのに語尾を上げてしまうというものです。質問ではなく、普通の文で語尾を上げると、自問自答しているような、自信のない印象を与えます。多くの場合は日頃からそのような話し方をしていることが多いために、プレゼンテーションでも出てしまっています。友人と話すには構いませんが、そのクセがプレゼンテーションで出てしまうようなら問題です。

最後の「落ち」ですが、「これは◯○かなと……」「分析したところあまりよくなかったのですが……」というふうに、最後まで言わずに語尾が落ちてしまっているという状態です。この状態になっていると、聞き手はその文章が終わったのかどうか、判断できません。後ろに更に何か文が続いていくのか、それともこれで終わりなのか、言いたいことがあるのだけれども、言いあぐねているのか……とさまざまな考えを巡らせてしまいます。聞き手は言い切ってほしいのです。「~です。」「~でした。」「~と考えます。」としっかりと断定することを心掛けてください。

語尾を丁寧に取扱う

のび、あげ、落ちのとり方ですが、言葉のヒゲと同様に自分が持っている語尾の癖を知らなくては直しようがありません。まずは自分の話し方を録音・録画したもので分析してみてください。また、他の人に自分の話し方の特徴を聞いてみてもよいでしょう。自分は普通に話しているつもりでも、周囲は気付いている(もしくは耳障りと思っている)ことを教えてもらえるでしょう。

少し古い映画ですが、オードリー・ヘップバーン主演の「マイ・フェア・レディ」は、学のない花売り娘の話し方を言語学者が矯正し、素晴らしいレディに変身させていくという物語です。話し方は、あなた自身を表現しています。どのような環境で育ってきたのか、どのような教育を受けてきて、どのような人達に囲まれているのかを表しているのです。

話し方が変われば、自分を受け入れてくれる世界が変わります。「~みたいな? ~かも?」という照れやごまかしを含んだ語尾を普段から使わないこと。一見遠回りに思えるかもしれませんが、プレゼンテーションの時だけ気をつければいいということではありません。日頃から丁寧に大切に、最後の言葉を相手に届ける気持ちで話してみましょう。

清水久三子
お茶の水女子大学卒。大手アパレル企業を経て、1998年にプライスウォーターハウスコンサルタント(現IBM)入社後、企業変革戦略コンサルティングチームのリーダーとして、数々の変革プロジェクトをリード。
2005年より、コンサルティングサービス&SI事業部門の人材開発部門リーダーとして5000人のコンサルタント・SEの人材育成を担い、独立。2015年6月にワーク・ライフバランスの実現支援を使命とした会社、オーガナイズ・コンサルティング
を設立。延べ3000人のコンサルタント、マーケッターの指導育成経験を持つ「プロを育てるプロ」として知られている。
主な著書に「プロの学び力」「プロの課題設定力」「プロの資料作成力」(東洋経済新報社)、「外資系コンサルタントのインパクト図解術」(中経出版)、「一瞬で伝え、感情を揺さぶる プレゼンテーション」、「外資系コンサルが入社1年目に学ぶ資料作成の教科書」(KADOKAWA)がある。