仕事も、結婚も、出産もあきらめない。そんな女性の生き方が当たり前になっている一方で、日本人男性の家事参加は世界ワースト2位(OECD調べ)。そんな中、家族の新しいあり方を模索する婚活企画が開催された。新・男女のマッチングとは?

秋が深まりつつある金曜の夜。東京・都心に近いオフィスビルのホールに、仕事帰りらしき約40名の男女が、緊張した面持ちで複数のテープルを囲んで集っていた。

集いの目的は婚活。しかし、いわゆる婚活イベントと比べて、落ち着いた色味の通勤着姿で集う参加者に、ギラギラした雰囲気はない。

このイベントは「『主夫志望男子』と『働き女子』のためのハッピーワークショップ」。「主夫」という生き方に関心を持ってもらうことを目的に活動する「秘密結社 主夫の友」と、慶應義塾大学大学院SDM研究科ヒューマンシステムデザインラボ「ハッピーワークショップ」のコラボレーションで実現した企画だ。

女性活躍推進法の施行が2016年4月に迫る中、「女性の社会進出3割なら主夫を3割に」というキャッチフレーズを掲げて活動する「秘密結社 主夫の友」。本記事では、今後増えていくだろう新しい家族のカタチと、それを模索する男女側のリアルをレポートする。

女性活躍には、男性の家庭進出が不可欠

「『女性の活躍』という言葉がよく言われるようになりましたが、その裏側には『男性の家庭進出』が必要です」。冒頭でそう挨拶したのは、「秘密結社 主夫の友」(以下、主夫の友)のCEO、堀込泰三さん。堀込さんは東大大学院を経て大手自動車メーカーに勤務し、2007年長男誕生時に2年の育児休暇を取得、育休中に研究者である妻の渡米が決まり、家族で過ごすことを優先して一緒に渡米、後にフリーランスに転身した。現在は兼業主夫として、翻訳業の傍ら家事をこなし、妻のサポートと男の子2人の子育てに邁進(まいしん)している。

内閣府の調査によると、「男は仕事、女は家庭」という考え方に賛同する人の割合は、2009年時点でいまだ4割以上に上る。また、OECD(経済協力開発機構)の統計では、日本人男性の家事時間は、加盟している先進国34カ国で、韓国に次ぐワースト2位(2014年発表)という結果だ。

「女性活躍を推進するためには、“男性の家庭進出”が必須。それを進めるには、制度、風土、意識の3つのポイントがあります。実は制度も風土も改革は進んできており、残るは意識です」と堀込さん。「パラダイムシフトを起こし、固定観念を打ち破るには、発信活動が大事。いろいろなところから耳にすることで意識は変わっていきます」と、「主夫の友」の取り組みを語る。

イベントは前後半に分かれ、前半は、実際に専業主夫として子育てに奮闘中の男性によるトークライブ、後半は慶應義塾大学大学院SDM研究科ヒューマンシステムデザインラボを率いる前野隆司教授の人気ワークショップだ。

専業主夫、佐久間さん一家。乳幼児期の子育ても、修一さんのサポートで乗り切った。

前半の登壇者は、専業主夫の佐久間修一さん。男の子1人の父親だ。18年前、30歳で結婚し、結婚からわずか3カ月で難病に倒れたことを機に専業主夫になった。金髪のソフトモヒカンが印象的だが、髪型をあえてそうしたのは、「妻を応援する決意の証だった」と振り返る。

妻が大黒柱。僕たち家族のいいカタチ

「当初は、ご近所さんからも“穀つぶしと言われ、妻の実家の敷居も高く、肩身の狭い状況でした。難病で働けないものの、自分にも“男は働くものだ”という考えが残っていたので、妻を送り出した後、スーツを着て家事をしたり、周囲の目をごまかすため、スーツを着て買い物にも行くような生活が3年ほど続きました。でも、フリーランスでグラフィックデザイナーをしていた妻が優秀で、20代前半にして僕がシステムエンジニアをしていた時の収入をあっさり超えてしまったんです。僕が働くことを模索するより、バックアップに徹した方が、世帯収入を上げられると思ったんです」。

世間体を気にしながら主夫をしていた気持ちを切り替えるため、髪を金色に染めた。「家事をやるのは面白いこと。楽しく主夫をして、幸せな夫婦生活や家族の形を作ってもらえればと思います」と、一緒に登壇した妻と子供に囲まれ、「僕たちの家族のカタチ」を語る佐久間さんの話に、参加者たちは熱心に耳を傾けた。

ハッピーワークショップで「幸せ」を共有する

慶應義塾大学院SDM研究科ヒューマンシステムデザインラボ・前野隆司教授。幸福学の研究成果に基づいて、幸せ度を高める検証結果のある「ハッピーワークショップ」は人気の講座だ。

イベント後半は、『幸せのメカニズム』などの著書多数、慶應義塾大学院SDM研究科・前野隆司教授による、幸福度に影響する4つの因子を高めるためのワークショップだ。前野教授が提唱する幸せの4要因とは、「夢や目標を持つこと」「人に感謝していること」「前向きと楽観」「独立とマイペース」。反対に長続きしない幸せは「カネ・モノ・地位」だという。ワークショップでは、同席した男女が、これら4つの要因について自分の考えや経験を発表し、互いに意見を交換した。

和やかに盛り上がる参加者に、「主夫の友」の顧問を務める少子化ジャーナリストの白河桃子さんは、「条件だけを判断し合う、通常のお見合いパーティーはもう限界にきていると思う。お互いの幸せをしっかり考えて話し合うとカップリング率が高い、という研究結果もあります」と、企画意図を語ると同時に、婚活へ熱意をかける参加者たちにエールを送った。

「将来の妻が望めば主夫でもいい」男性参加者の柔軟な考え方

参加した男性の声を聞いてみよう。47歳会社員の岩崎裕介さんは「現在、特に結婚願望が強いわけではないが、仕事を頑張ってキャリアを積もうとしている女性に魅力を感じます。もし結婚して、それが互いのためになるなら、主夫になる選択肢はアリだと思っています」と言う。

写真上/家族の多様性に興味があると参加した岩崎さん(右)。写真中/家事、育児を主導してビジネスキャリアを築きたい兼業主婦希望のNPO職員。写真下/将来は育休制度を活用して、妻となる人とバランスの取れたパートナーシップを結びたい、と参加を決めたITベンチャー勤務の26歳。

一方、「子育てのために女性だけがキャリアの選択を迫られるのはおかしい」と参加を決めたNPO職員で33歳の男性は、「自分は兼業主夫が希望。仕事は人生の一部ですから」ときっぱり。将来のパートナーには「自立性のある人を求めますね」と語る。

ITベンチャーに勤める26歳の男性は「兼業主夫希望ですが、お互いのバランスによって柔軟に」と言う。この日は、同じ価値観を持った人たちとの出会いの場を増やしたいとワークショップに参加した。「パートナーは、フラットに議論できる人、固定観念にとらわれない人がいいですね」。

必ずしも専業主夫を希望するわけでもないが、共働きを基本として、積極的に、時には主導で家事を行い、パートナーの状況次第では専業主夫も厭わない――。家族のカタチを柔軟に考え、職場の育児休業制度なども積極的に利用していきたいと話す男性が多数を占めた。

前出の佐久間さんは言う。「僕は専業主夫ですが、『主夫の友』の男性たちも働いてはいるんですよ。夫婦2人ともに働いていることがリスクヘッジになる。兼業主婦と兼業主夫が家庭にいるのが理想だと思います。今の35歳以下の男性って、家事をすることに非常に抵抗が薄いんです。教育制度の変更で、高校で家庭科が必修になっていますから。僕のまわりには、『自分も働くけど、できれば家のことをやりたいし、奥さんに求められれば専業主夫になる』という高校生がいる。なので、これからキャリアを積んで管理職を目指したい、結婚も出産もしたいという女性は、若い男性をパートナーに探すといいかもしれません(笑)」

「秘密結社 主夫の友」が提案する、固定観念にとらわれない新しい家族のカタチ。読者のみなさんにはどう響くだろうか?