広島県で生まれ育った水野沙織さんは、毎年原爆のビデオを見たり、被爆者の方の話を聞いて育ったという。成長するにつれ、似たような平和教育に食用気味だったとき出会った『わたしたちを忘れないで』。この本を読んで何を感じたのか?

自分のできることをやればいい

生まれ育った広島県は被爆地なので「平和教育」が盛んです。毎年、原爆のビデオを見たり、被爆者の方のお話を聞いたりして育ちました。

でも不謹慎ですが、成長するにつれて、いつも似たような平和教育に食傷気味だったのです。

水野沙織さん「平和な日常に貢献できる技術を開発していきたい。」

この本と出会ったのは、そんな思いでいた高校1年のとき。現代文の先生から薦められました。広島・因島出身である著者の東ちづるさんが、リポーターとしてドイツ国際平和村を取材した番組「世界ウルルン滞在記」(TBS系列)の見聞録です。

平和村とは、ドイツのオーバーハウゼンにある施設で、世界各地の戦争や紛争で心身が傷ついた子どもたちを預かり、医療や心のケアを行う施設。そこに滞在した東さんたちが子どもと向き合い、一緒に悩み苦しみ、それでも前を向く姿が記されています。

当時、読んで感じたのは「戦争や平和のことを何も知らなかった」という思い――。高校生の私より年下の少女たちが、爆弾や狙撃による後遺症で苦しむ姿に胸がつまりました。

東さんはドイツ平和村の訪問前から、骨髄バンクやあしなが育英会のボランティアを続けていましたが、本の中で「自分のできることをやればいい。無理は禁物」と言い切っています。

それでボランティアの道に……ではなく、実は同時期に見た人力飛行機のテレビ番組「鳥人間コンテスト」にも刺激を受けたのです。

体力なんかで勝負するな

好きな英語を生かして文系に進むつもりでしたが、「自分が貢献できる舞台」を考え直し、理系に変更。母校では進学実績がなかった東大に進むことができ、人力飛行機の研究サークルに入りました。「鳥人間」を自分で作りたいと思ったからです。でも徹夜してでも作業を進める体力勝負の世界に悩みました。

そんなときに先生からアドバイスされたのは「体力なんかで勝負するな。自分ができる分野で貢献すればいい」と。東さんの話と似ていますよね。

『わたしたちを忘れないで』

いま開発しているのは自動車の心臓であるエンジンです。私が担当するガソリンエンジンは100年前から量産されていますが、まだまだ改善の余地はあります。誰もが驚くような技術を開発して、それを搭載した自動車を世の中に送り出したい。競合よりも小さな規模のメーカーですが、「答えは必ずある」が現場の姿勢です。

いつか、自分が開発した自動車に乗って人がデートしたり、家族とドライブして楽しんだり……。そんな平和な日常に少しでも貢献できれば理想だなと思います。

●好きな本屋
丸善広島店

●好きな読書の場所
近くの図書館

●好きな作家
森 博嗣、京極夏彦

水野沙織
マツダ パワートレイン開発本部 パワートレイン技術開発部 PT要素技術開発グループ。1986年広島県生まれ。2010年、東京大学工学部産業機械工学科卒業。同年にマツダに入社し、パワートレイン開発に携わる。