近年、若年者に対する金融教育の必要性が叫ばれています。セゾン投信社長の中野晴啓さんが、ある大学で投資に関する講義を行ったところ、事前のアンケートではほぼすべての学生が「投資」のイメージを“良くないこと”と回答したそうです。「投資」に対するネガティブなイメージは、何に起因するのでしょうか?
あなたの“株式投資”に対するイメージは?
前回の連載第5回「『インフレなのにゼロ金利』が引き起こす恐ろしい事態」(http://woman.president.jp/articles/-/726)では、「脱・預金バカ」の行動規範は、「預金をインフレに打ち勝つ資産に置きかえる」ことであると述べました。その具体的な手段が「貯蓄から投資へ」、すなわち投資であり、私たち生活者にとって最も一般的なアプローチは株式投資でしょう。
さて皆さんはどうでしょう? “株式投資”と言われてどんなイメージを持ったでしょうか? きっと素直に受け入れられる人は少ないはずです。なぜなら「投資」という言葉は、世間では一種のネガティブワードと言ってもいいほどイメージが良くないのです。
先日、ある大学で400名程度の学生たちに向けて、投資について講義してきましたが、アンケートを見たら受講前の「投資」のイメージは、ほぼすべての学生が“良くないこと”と回答していたのです。恐らくプレジデントウーマンオンライン読者の皆さんも、そうなのではないかと推察します。
僕のこれまでの経験値と照らし合わせて見ても、多くの人の「投資」のイメージは、「怖い! 危ない! 損しそう!」あるいは、「下品! ダーティー! ブラック!」といった悪印象のフレーズが並びがちです。まずは日本社会にデファクト化された、「投資」に対するイメージの誤解を解くところから話を進める必要があると思います。
本物の「投資」とは「お金による事業参画」だ!
結論から申し上げれば、世間の多くの人たちが「投資」だと勘違いしている行為は、単なる「売買」のこと、カタカナで言うならトレードです。売買とは読んで字のごとく、買って売ってを繰り返す行為で、証券会社の店頭に来て、毎日株価ボードを見ているおじさんたちは、大方この類です。「投資」との最大の違いは、「時間」という概念が欠如していることでしょう。必然的に短期売買となり、リターンをもたらす源泉は「時間」に代わり専ら価格変動となります。
それこそ株式市場における株価が常時変動を続ける中で、ある方向の値動きに賭け、当たった者がリターンを享受します。短期売買はそのトレードの繰り返しで利益を積み上げていくゲームであり、これは決して「投資」ではなく、相場に勝負を挑む「投機」なのです。
そして「投機」の対象はあくまでも値動きを当てることですが、日々の値動きは結局市場参加者の欲望と恐怖、といった感情・思惑で動いているものなので、合理的に当てることはできません。つまり目先の株価が上がるか下がるかを当てるのは、サイコロでチョウかハンかを当てることと同様、ギャンブルなのです。
もちろん短期売買は悪い行為だと言うわけではないですが、一般的にこうした「投機」を「投資」と混同したならば、それは決して「投資」を良いイメージとは捉えられないであろうことも納得できます。両親から「株式投資なんて絶対やっちゃだめよ!」と言われて育てられた人も多いわけで、明らかに「投資」への誤解がその原因でありましょう。
ではプレジデントウーマンオンライン読者の皆さんに行動していただきたい、本物の「投資」とは?
再び結論を申し上げます。本物の「投資」とは、「社会的需要に裏打ちされた事業・ビジネスが必要とする資金を融通する行為」であり、「お金による事業参画」であるのです。
何を言っているのかよく分からないと言う読者さん、ごめんなさい。大上段で小難しい表現になりましたが、この定義こそが「投資」の本質であり、「投機」との最大の違いは、時間的価値という概念を必定とするもので、畢竟(ひっきょう)本物の投資は長期投資になる、ということです。
「脱・預金バカ」への行動規範として皆さんに実践してほしい、本物の投資=長期投資の考え方を、次回は徹底してやさしく深掘りしていきましょう。
セゾン投信株式会社 代表取締役社長。1987年明治大学商学部卒業後、現在の株式会社クレディセゾン入社。セゾングループで投資顧問事業を立ち上げ、海外契約資産などの運用アドバイスを手がける。その後、株式会社クレディセゾン インベストメント事業部長を経て2006年に株式会社セゾン投信を設立、2007年4月より現職。米バンガード・グループとの提携を実現し、現在2本の長期投資型ファンドを設定、販売会社を介さず資産形成世代を中心に直接販売を行っている。セゾン文化財団理事。NPO法人元気な日本をつくる会理事。著書に『投資信託はこうして買いなさい』(ダイヤモンド社)、『預金バカ』(講談社)など。