ギフトシ-ズン到来。今月は親しい人や自分へのエールを込めて、プレゼントで贈って、贈られてうれしい本をご紹介。ほっこりする1冊、元気がでる1冊……せわしない日常を離れ、読む人をショートトリップへ誘う2冊です。
『冬の本』
毎年、寒い季節になると本棚から取り出し、かばんの中へ入れ、通勤途中や休憩時間に読む本がある。年末、その年に出会った大切な人にプレゼントしたい本、それがこの『冬の本』。
「冬」と「本」を唯一のルールとして約1000字で書かれたエッセイ集で、著者は84人。作家、翻訳家、装幀家、ミュージシャン、映画監督、俳優、イラストレーター、古本屋店主……著者のセレクトの素晴らしさは、その名前を挙げたらきりがない、唸るような人選だ。(芥川賞受賞前の)又吉直樹氏、柴田元幸氏、早川義夫氏、浜田真理子さん、鈴木慶一氏……。
気になる人から読んでもいいし、その時の気持ちで同じエッセイを繰り返し読んでもいい。読者それぞれの読み方ができるのも、この本の利点だ。作家以外の書き手の文書が本当に個性的で(この人だから選んだ本、その紹介の仕方、切り取られたエピソードなど)その表現の素敵さに驚く。その人が日々、何を想い、何を大切にしているのかが感じられる宝物のような作品集である。
この本を贈られた人はきっと、自分自身の「冬の本」を想うことだろう。子供の頃、図書室のストーブで暖まりながら読んだ本、クリスマスプレゼントにと奇麗な包装紙でラッピングされた本、少し大人になり喫茶店で珈琲を飲みながら読んだ小説、出張の行き帰りで読んだ文庫本……映画や音楽同様、冬になると思い出す本が、誰しもあるのではないだろうか?
吉祥寺にある社員1人の出版社「夏葉社」が作ったこの『冬の本』、今年の冬もたくさんの人に届き、読んだ人の気持ちを暖めてくれることを願う。そしてこの本がこれから、“あなたの冬の本”“あなたが贈った誰かの冬の本”になるかもしれない。そう考えるだけで、うれしくありませんか?
『旅ガール 地球3周分のときめき』
ある映画監督の言葉が耳に残っている。「映画はつくったら終わりじゃない。その映画を誰かが観て、完結する。だから100人が観たら、100人それぞれの中でその映画が生き、100本の映画が完成する」と。そしてこう続けた。「どうぞ、自由に感じて、自由に自分の映画を完成させてください」
私はその言葉を「自由に感じる素敵さ」だと解釈した。本も同様だ。自己啓発書や実用書、辞書などを除き、小説、芸術書それぞれが、自由に感じ、考え、想像する余地があるものだ。
書店で偶然見つけた“鮮やかで、キラキラ光る写真集”『旅ガール、地球3周分のときめき』も、その自由な感性を放っていた。
“たじはる”ことトラベルフォトライター・田島知華さんのファースト写真集&エッセイ。「遠い国の海の波音を聞いてみたい」「想像もできない絶景を見てみたい」そんな感情に動かされ、夢中で世界を旅した彼女が撮った写真は、“リオデジャネイロの階段”“ブリュッセルの広場”“マラケシュの履物”“イスタンブールのランプ”“ブエノスアイレスの書店““アゲダの傘”……などなど。ちなみに“アゲダの傘”は、本の表紙になっている美し過ぎる風景だ。
もし、この写真集を誰かにプレゼントしたら……きっと会話が生まれるだろう。「どの写真が好きか?」「どこの国に(街に)行きたいか?」「まだ見ぬ風景をどう感じるか?」と。最近落ち込みがちな友達に贈れば、鮮やかな色彩とカラリとした空気感に、癒やされるかもしれない。あるいは自分で手に取って、ランチタイムにゆっくり眺めれば、1人想像の世界へ飛べるのではないだろうか。「ここではないどこか」を想い、“自分の可能性”ってやつを考えるかもしれない。フレッシュな感性に刺激されて、自分の仕事の目的を改めて考える機会になるかもしれない。
まだまだ若い“たじはる”は、これからもたくさんの旅を続けるだろう。いや、もしかしたら、急に旅をしなくなるかもしれない。それは彼女にも、誰にも分からない。今回偶然この本を見つけたように、彼女からの手紙(写真集)に再度、出会いたい気がする。