百貨店勤務ののち渡仏し、バイヤーとしてパリに暮らして二十余年。つくづく感じるのは、フランス人のコミュニケーションの特徴は、とにかく言葉、言葉、言葉! 主張に次ぐ主張だということ。イエス、ノーも含め、猛烈な勢いで自己主張してきます。うっかりしていると相手のペースに巻き込まれ言い負かされてしまう。たとえこちらの言い分が正しかったとしても(笑)。

CONCENTO PARIS H.P.FRANCE バイヤー 湯沢由貴子さん

日本人は異論があっても、関係の悪化をおそれ、曖昧な笑顔で言葉をのみ込んでしまうことがありますよね。でもその種の躊躇や配慮は一切通用しません。言わずとも意を酌んでくれるということはあり得ないし、当然誰ひとり空気を読んだりはしません。そして基本的に話が長い!

国語教育を重視していることもあり、幼い頃から自分の意見を言葉巧みに主張することが習慣になっています。論点が多少ずれていたとしても、まず自分の発言としてとりあえず言っておくという文化です。

自己主張の強さはプライベートを守る点にも表れています。たとえば新作の展示会でお昼になった途端、買い付けに来た私のような客に構わず、営業担当がサンドイッチを頬張っているということもよくあります。こういうとき「自分はお客さまだから」という態度で対応を迫ると嫌われます。

日本では一般的に営業が顧客を立てるという上下関係がありますが、フランスではあくまで対等。お客さまは神様ではありません。ビジネスの最中でも、相手がお昼の時間ならそれを尊重するんです。

そんななか、すばらしいと思うのは褒める言葉の豊かさ。「C’est mag-nifique(すばらしい)」だけでなく、五感を総動員し、あらゆる比喩や思想を駆使して、何がどうよいかを豊富な語彙(ごい)で語ってくれる。私は買い付けた商品を全部コーディネートして、さまざまなテイストのものをミックスしたカタログを毎シーズン作っています。

それを見て、「今回のユキコのコレクション、2種類の違ったレース使いがいたるところにあって、美と崇高の対立を思わせるモチーフですごく含蓄に富んでいる」など、載せているブランドの名前だけでなく、いろいろな方向から言葉を尽くして評価してくれる。

激しい自己主張はなかなかまねられませんが、褒める言葉の工夫は見習ってもいいかもしれません。相手の仕事に対するリスペクトがあってこそできることですし、それは世界共通のビジネスマナーでもありますから。

湯沢由貴子
2000年H.P.FRANCE入社。東京と大阪に「CONCENTO PARIS H.P. FRANCE」をオープン。世界のクリエーターを日本に紹介している。

構成=奥田由意 撮影=松岡敦飛